凛
あと120秒だね
鈴がコロリと転がるような声で 凛が言った
2人だけの教室
差し込む西日が少し眩しい
瑛太
何が?
凛
んー?
凛
最終下校時刻までの時間
瑛太
は!?
瑛太
......うわ、マジかよ
凛
良いじゃん
凛
私も同じだし
瑛太
......慰めとして受け取っとく
凛
わぁ優しい
ふわり、と
風に揺られた髪が靡く
その髪から 微かに桜の香りがした
瑛太
...てか、残り2分って言えよ
瑛太
その方が分り易くね?
凛
120秒の方が
凛
時間があるような気がしない?
瑛太
どっちにしたって
間に合わねーじゃん
間に合わねーじゃん
堪えきれずにそう笑うと
凛も軽く吹き出した
凛
...あ、あと90秒
瑛太
それも秒で言うのかよ...
凛
今だけだよ
瑛太
今だけ?
瑛太
......
瑛太
......なんで?
凛
んー...
凛
...内緒
イタズラな笑顔で からかうようにそう言って
凛はそっとそっぽを向く
瑛太
内緒って...
凛
ん、あと30秒
どこか強ばった声で そう言った
凛
...や、なんかさ
凛
緊張するね、これ
瑛太
?...ああ
瑛太
そういえば、いつも最終下校
瑛太
アウトになったこと
無いんだっけ?
無いんだっけ?
凛
ちっっがう...
瑛太
え?
凛
いや、
知らなくて良いんだけど
知らなくて良いんだけど
凛
あと20秒
珍しく、手をさすっていた
幼馴染だから知っている
手をさするのは 凛が緊張している時の癖
凛
......あ
凛
あと、10秒
瑛太
ホントに俺ら
アウトになるのか...
アウトになるのか...
凛
それは...謝る
瑛太
いや、別に
気にしては無いけど
気にしては無いけど
凛
マジで...?
瑛太
急に申し訳なさそうな顔すんな
凛
あ、あはは
凛
......
瑛太
......
今日の凛は何かおかしい
瑛太
(俺、なんかしたかな...?)
首を傾げる中 カチコチと秒針の音が響く
それから
最終下校時刻を 知らせるチャイムが
無表情に鳴り出した
凛
──ですっ!
瑛太
へ?
凛
え、
瑛太
...なに?
凛
え、や、嘘...
凛
き、聞こえなかった...?
瑛太
ナントカです!つって
何か言ってたよな
何か言ってたよな
凛
うそ...
凛
もう1回言わなきゃ
ダメかな...
ダメかな...
鮮やかなオレンジ色が 凛の頬を染めていた
だから
瑛太
うーん...
きっと俺も オレンジ色に染まってるんだろう
瑛太
俺は、凛が言った
瑛太
「好きです」っての
瑛太
もう1回聞きたいけど?
凛
――ッッッ
凛
き、聞こえてたんじゃん!
凛
ばか!
どうやら凛は
俺の頬が熱いことには 気付いていないらしい
西日のおかげで 大いに助かる
凛
...じは?
瑛太
ん?
凛
......んじ
瑛太
何?
凛
...返事は?
瑛太
...
瑛太
これ、チャイムっていう
防御が無いの
防御が無いの
瑛太
結構しんどくない?
凛
...
凛
意地悪したお返し
瑛太
はいはい
瑛太
...俺は
瑛太
凛のこと
凛
...うん
瑛太
良い人だなって思ってる
凛
っえ、?
瑛太
でも
瑛太
俺は、凛を
瑛太
――俺の好い人にしたい
瑛太
...好きだよ、凛
凛
......っ
凛
ずるい、ホントずるい
瑛太
ずるくて結構
瑛太
(何回だって伝えてやる)
瑛太
(俺がどんなに)
瑛太
(凛のことを好きなのか...)
・
・
・
凛
......手、繋いでも良い?
目を逸らして 首の後ろをかく凛
幼馴染だし... 俺は凛の好い人だから知っている
これは、照れ隠し
瑛太
何躊躇ってんだよ
ばーか
ばーか
時間が経てば 絶対に恥ずかしくなるから
瑛太
ん
凛
わ、ちょ、
凛
やだ、手汗...!
瑛太
繋いでも良いか聞いたの
凜だろ
凜だろ
自分から繋いでみた
正直、昇天しそうだけど
瑛太
最終下校時刻過ぎてるし
瑛太
見つかってもヤバいから
瑛太
あと10秒だけな
凛
...、うん
真っ赤になって俯く 俺と凛を
窓からの風が撫でていく
隣からまた 桜の香りがして
凛と手を繋いでいることを 実感してしまって
あと少しで終わる 残りの時間を
もっと延ばしたいと
そう、思った