TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
シェアするシェアする
報告する

「あのごだまばね?」

あ?しっかり喋れよ。

「キミが8話で殴ったからだ」

もはや、顔の造形を保つのが限界の域に達した様子の師匠が、ふらふらとバーテンダーの定位置に戻っていくのを僕は、内心ニヤニヤしながら眺めた。師匠に罪はないが、あのキモさは正直いって、万死に値する。だって。僕らは帰ってから「イヤん」を連呼する師匠を思い出すたび、食べ物が喉を通らないんだし。

そのうち、“師匠に殺される”気がする。

「なんであんなことしたんだよ」

だって、「イヤァァァァァァ♡」って。めちゃくちゃ悦んで(ヨロコンデ)たじゃん。

「ああいう人なんだ。知ってるくせに」

そーか?初めて知った。あんな人、ラノベかマンガの世界外にもいるんだな。

バーテンダー風のテーブルクロスで顔を拭く師匠の前でボクは、師匠が作った傘付きの、柑橘系カクテル風ミックスジュースをゴクゴク飲んだ。


リンゴとユズと檸檬の香りが仄かに香る味。柑橘系の酸味が、リンゴの酸味といい具合に合わさって、舌の上で“ピリッ”とする。カクテルを飲んだことがなくても、カクテル風だとわかるミックスジュースを作れるなんて。師匠は“バーテンダーとしては”天才的だ。


ていうか、よく飲めるな。こんなトキに。

「自分がやったんだろ?」

そうだっけ??

「あの『木霊』(コダマ)はね」

やっと、バーテンダーらしく(本職は陰陽師なのだが)なった師匠は、何事もなかったようにニコニコしながら、シェーカーをシャカシャカ振り振り僕に・・いや、正解には“ボク”にいった。

「あの木霊は『ネナシカズラ』の植物から培養した”5-Eランク”の霊なのよ」

「5-E?」

5-Eって、たしか・・・。ポケットのメモを探ると、初めて師匠と仕事をした当時の走り書きがあった。

画像

めッちゃくちゃ『低級使役霊(シキガミ)』の部類霊じゃねーかッ!もし、追っ手がいたら、どーするつもりだったんだよ。シャレになんねーぞ。マジで。

「あの、師匠。1-Aじゃなくても、せめて、2-Bクラスの使役霊(シキガミ)でもよかったんじゃないですか?」

そーだ。そーだ。

「今回の敵が『陰陽師』だからよ。ちょっとは頭使いなさい」

頭使いなさい?バカに言われた!頭使いなさい??なんだと、コノヤローーー

「抑えて、抑えて」

「ん?ジュースのおかわり?」

バカか、この師匠。

師匠はバーテンダーよろしく(何度もいうが、この人の本職は陰陽師だ)シャカシャカ振りまくっていたシェーカーを開け、先ほどまで、ユズと檸檬のカクテル風ミックスジュースが入っていた、グラスにトクトクと注いだ。

って、おい。

「あの、師匠。混ざっちゃいません?」

そーだ。そーだ。

僕らが師匠に抗議すると、師匠は「うふふ」と、キモく笑ったあと、埃っぽくなったグラスをキュッと拭いた。

「いいの。美味しければ。失敗したってお客にはわからないもの。失敗した!なんて顔でジュースを出されても、美味しくないでしょ?だから、大切なのは自分を信じて堂々と構えることなのよ」

いや、いや。「うふふ」とかいって、弟子に抱きつこうと襲いかかる上に、髪の50%オレンジに染めた人間にそんなこといわれたって。・・なぁ?

「そうか・・失敗したってわからない」

マジか。

「ビクビクしてたって仕方ない!行動に移すしか道はないって!!そういうコトですね!!師匠」

いや、ぜってーちがうから。

「行ってきます!!!!」

おいィィィィィィッ!

「あらあら。まだ残ってるのに」

薄暗いバーのカウンターで、師匠はバーテンダーと陰陽師の、山と積まれた冊子の中から“光るモノ”を取り出し、『BAR 96』と書かれた店を後にした。

幽霊探偵なんてやってられるか

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

15

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
;