「ハッハ――――ッ! 結局、顔死んでんじゃねえか」
「煩いわね。耳取れそう」
翌朝、起きて朝食をとってすぐに街へと繰り出した。
その道中で、アルベドは私の顔がやつれてるだの、クマが出来てるだとか散々言ってくるのだ。
「俺より寝てて、その顔はないぜ」
「うっさいわね! なら、アンタも寝れば良かったじゃない!」
感謝してないわけじゃないけど、と付け足してやれば、さらにアルベドは愉快そうに笑う。
彼は、昨晩私が寝れるようにと結局起きていて日の出を拝んでいたらしい。まあ、自分で寝られないって言っていたからそこまで気にしていなかったけど……
「なんで、アンタの方がぴんぴんしてんのよ!」
「鍛え方が違うんだよ」
「理由になってない!」
「お前って、ほんとからかいがいあって、飽きねぇな」
そうやって、二人で騒いでいるといつの間にか街の中に入っていた。
相変わらず、この街は賑やかなようで、最終日というだけあって初日よりもうんと人が多く見えた。
こうやって、周りから見たら痴話喧嘩?みたいに聞える会話を繰り返しているので、仲のいいカップルとかに見られたらどうしようと焦らなくても良いのに焦っている自分がいた。
というのも、朝起きて起こしに来たリュシオルに「昨晩はお楽しみでしたね」なんてニヤニヤしながら言われて、完全に誤解されてしまっていたからだ。
アルベドは、上半身半裸だったし……
何度も違うと言うけれど、リュシオルは面白がってかそんなこと言って~とちゃかしてくるし、アルベドもアルベドでそれに乗っかってきやがった。
そんなこんなで、結局、誤解を解くのには時間がかかってしまった。いや、初めからリュシオルは分かっていただろうけど。
そして、今に至る。
「そんかし、お前あれからよく寝れたな。あんだけ震えてたのによぉ」
「ま、まあ……アルベドといると安心するというか? 何か、魔法でもかけた?」
「ん? かけてねぇよ。つか、お前に俺の魔法かけたら光魔法と闇魔法で反発するだろうが」
「確かに」
そうなると、何故だろうか。
(好感度……半分までいったんだ)
昨晩うとうとしながら見た好感度よりも上がっていた気がして、私はアルベドの頭上の好感度をじっと見つめていた。幸い、彼は違う方向を見ていたため私が彼には見えない好感度を見ていること何て気づきもしなかった。
にしても、アルベドの好感度もかなり上がったものだ。
初めは、0からマイナスまで言った男なのに、これほどまでに上がるとは予想していなかったからだ。
「でも、お前気をつけろよ?」
「何が?」
「俺だからよかったが、他の男をほいほいベッドに上げんなよって話」
その言葉に思わず、顔を赤くしてしまった。
「いや、だって、アンタが同じ部屋が良いって」
「だから、何奴も此奴も俺みたいにあげるなっていってんだよ」
確かに、年頃の男女が同じベッドと聞くとそう連想しても仕方がないのだが、本当にアルベドは何というか違うというか。
「言ったじゃん、アンタといると安心するって。アルベドだってそうでしょ!?」
「俺に同意を求めんなよ」
そう言って、彼は私の頭をぐしゃっと撫でてきた。
言い方はぶっきらぼうで、呆れも込められている気がしたが、それでも私の髪の毛をぐしゃぐしゃとなで回すので私はやめて!と手を払った。
「せっかく可愛くして貰ったのに!」
「そりゃ、すまなかったな」
「絶対、思ってないでしょ!」
そう、私が反論すればケタケタと笑うアルベド。
ほんと、私のことからかってきて調子が狂う。
でも、それは裏を返せば彼と本音でぶつかっているという証拠で、私が気兼ねなく話せる相手の一人であるということだ。リースとはまた違った意味で話せる異性というか。勿論、魔法の師であったブライトとか、護衛のグランツとか、年下のルクス……主にルフレの方だが。もある程度は話せた。
けれど、それは攻略キャラだから話さざる終えないというか、話すべきだと思って話しているというか。
だから、こう馬鹿みたいにどうでもイイ会話でもりあが……てまではないが、話せるのはアルベドだけなのである。
凄く、危険で、一度殺されかけたけど。まあ、それも誤解だったわけだし。
「何だよ、見つめて」
「別に。ただ、アルベドと話すの楽しいなぁって思っただけ」
と、アルベドはそっぽを向いたが少し照れたような顔を浮かべた。
(……こういうところあるから嫌いになれないんだよね)
ゲームでは、ツンデレキャラとして描かれていた彼。でも、実際会ってみるとツンデレと言うより素直じゃないだけで本当は優しい人間なのだと私は思う。
分かりやすく、ピコンと機械音を立てて好感度が上昇しているところを見るとそうなのだろう。
「まあ、今日は星流祭最終日だし? 楽しまなきゃそんよね」
「ふーん、矢っ張り楽しみにしてたんじゃねえか」
「なんでそうなるの!? 楽しまなきゃそんって言っただけなのに!?」
「俺と回れて嬉しいって顔してるぜ?」
誰が! と否定したかったが、残念ながら私の表情筋は正直だ。
嬉しくないわけではないが、断じてそんなことはないと言いたい。勿論、アルベドとまわることがじゃなくて、花火を見るのが!である。まあ、その花火も見たら三みたで、恋人と結ばれるとか何とかなジンクスはあるけど。
それを知ってか知らずか、アルベドはニヤリと笑みを浮かべて私を見ていた。
くそう、絶対に勘違いされている。
「なんだよ、俺と回るの嫌なのかよ」
「そう言う訳じゃないけど」
「それとも、俺と回るのは不満か?」
「何でそうなるのよ!」
思わず声を荒げてしまった。
すると、彼は愉しげに笑う。それが悔しくて私は彼の足を軽く蹴った。
確かに気乗りしなかったけど、もう当日になってしまったんだし、約束してしまったんだから仕方がない。
「嫌とはいってないのよ、嫌とは」
「んじゃあ、お前の言ったとおり楽しまないとな!」
と、アルベドは私の手を引いてかけ出す。
「ちょ、ちょっと!?」
「ほら、行くぞ!」
アルベドの手は私よりもずっと大きくて、そして温かかった。
ゲームでは、触れられることなんてなかったから知らなかった。勿論、そりゃあゲームだし触れるなんて事出来ないって分かっているけど。
だから、こんなにもドキドキするのかと私は胸を押さえる。
(って、ドキドキ!? アルベドに!? してない、してない気のせいよ!)
と、自分に言い聞かせるのだが。どうやら、心臓の音は鳴り止まないらしい。
まるで、彼に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどに高鳴っている。
だって、まさかこの私がアルベドにときめくなんて思いもしないじゃないか。だから、これはきっと緊張しているだけなんだ。
それを紛らわすために、私はアルベドに問いかけた。
「ねえ、アルベド。アルベドって星栞に願い書いた?」
「ああ」
「何て書いたの?」
と、アルベドを見上げると彼は少し考え込むように顎に手を当てた。
その仕草すら様になっていて、少し見惚れてしまいそうになるのを誤魔化すため私は咳払いをする。
それから、暫くしてアルベドは足を止め、私は勢い余って彼の背中に激突する。つうぅう……と鼻にじんわり広がる痛み。私は鼻を抑えながらアルベドを見上げた。アルベドは、ニヤニヤ笑いながらこちらを見下ろしている。
「何て書いたと思う?」
「質問を質問で返さないで!」
「お前が教えてくれたら教えてやってもいいぞ? お前も書いたんだろ? エトワール」
「私、私は……」
私は口ごもった。
だって、私が書いた願いはリースについてのことだったから、アルベドの事だからそんなこと私が書いたと知れば馬鹿にしてくるだろう。いや、もしかしたら好感度が下がるかも知れない。
そこまで、考えて私はアルベドに秘密と返してやれば、アルベドは目を丸くした後笑みを浮かべた。
「んじゃあ、俺も秘密だ」
と、そのアルベドの顔は、無邪気そのもので私は息をのんだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!