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「ずるい、教えてくれても良いじゃない」
「はあ? お前が教えてくれねえのに、なんで俺がお前に教えなきゃ何ねえんだよ」
「確かに」
納得してしまった。
いや、まあ道理に叶っているというか、そりゃどっちかしか言わないのは不公平だろうし。けど、私が書いた願いなんて言えるはずもない。
「ま、俺の願いが叶ったとき分かるだろ」
「あんなに一杯星栞つるされてるのによく言えるわね……絶対叶わないわよ」
「叶うって信じてないと、叶わないもんだぜ?」
そう言って、彼は微笑む。その笑顔は、いつもの皮肉めいたものじゃなくて本当に心の底から願っているような顔だった。
だから、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
確かに、思いが強ければ叶うだろうけど。でも、あれはそういう問題じゃないだろう。
私の頭に浮かんだのは、あの日リュシオルと星栞を書きに行った日の櫓の様子。色とりどりの星栞が数百、数千、下手したら数万と言うほどつるされていたのだから。あの中から、一つだけ願いが叶うと言われても、自分のが叶う確率なんてきっと宝くじに当たるよりも低いだろう。
無理だ。
初めから期待しちゃいないけど、それでも私は思わずため息を吐いた。
「んな、顔すんなって。ほら、屋台でも行こうぜ」
と、ゲンナリしていた私の頬をつっつっと突っつくアルベド。
やめてと、私が手を払えば彼は可笑しそうに笑う。
「アンタってほんと、貴族っぽくないわね」
「貴族ってこうあるべきだって決めつけている奴の方が可笑しくねえか?」
私は、コレまで思っていたことを彼にぶつけてみた。
だって、喋り方がもう貴族のそれではなかったから。すれば、アルベドはそう反論し、私はまた確かに。と納得せざる終えなくなった。
「まあ、闇魔法の貴族はこんな感じだろうよ。社交界にも出ねえわけだし、好きなようにいているっつうか」
「アンタの言うとおり、こうあるべきって決めつけているのは良くないかも知れないけど、デリカシーがない」
「じゃあ、お前の事もっと気遣えばいいわけ? でも、お前も俺に大概酷いよな」
「……う」
それを認めてしまったら、もう何も言い返せない訳だが。
「けど、俺はラヴァインよりしっかりしていると思うぜ?」
そう、アルベドはくつくつと笑いながら言った.
「ラヴァインって弟じゃ……その」
「俺は、彼奴よりかマシだってこと」
と、アルベドは言うとスッと前を向いた。
もし、ラヴァインに会うことがあったとしても、きっと私はアルベドの方につくんだろうな……何て考えていると、アルベドがいきなり屋台の方を指さした。それは、この間リースといった射的だった。
「なあ、射的やろうぜ、射的」
「え、あ……うーん」
「乗り気じゃねえなあ、おい」
そうアルベドは口をとがらすが、私とてやりたくないわけじゃない。でも、もうこれで3回目なのだ。
確かに、何度やっても飽きない分けじゃないのだが、また部屋にぬいぐるみが増えるなあなどと私はぼけーとしていると、アルベドがずんずんと屋台の方に歩いて行ったので私はそれを追いかける羽目になった。
「いらっしゃい。と、またあったな、嬢ちゃん」
と、店員のおじさんと目が合うと、彼はぺこりと頭を下げた。
私は、何故覚えているのかと驚いたが、長年見てきたら分かるとおじさんはうんうんと頷いていた。
でも、私は一応魔法で髪色を変えているわけだし、髪型だって違う。今日はピンクだかこの間はまた違った色だった。
「嬢ちゃんは、いつも違う男性を連れているんだね」
「え、あ、いや……その……」
その言葉に、私は一瞬たじろいで、思わずアルベドの方を見てしまった。
そして、アルベドの黄金の瞳と目が合う。
(あ、不味いかも……)
私は、瞬時にそう思った。
別に、何かやましいことがある訳ではない。ただ、私が他の攻略キャラと来ているなんて知ったら、面倒なことになる気がするのだ。
案の定、アルベドは私に不信の目を向ける。私はどうにかして誤魔化そうと口を開いたが、追い打ちをかけるようにおじさんは口を開く。
「初日は、黒髪のイケメンと来てたと思ったんだが。凄く仲良そうにしてたから、恋人同士かとおじさんは思ってたんだがなあ」
「ちょ、ちょ、そんなんじゃ!」
慌てて否定したが、もう遅い。アルベドは更に目を細めて私を見ていた。
ああ、これは完全に疑われてるわ。
私は、どうやってこの場を切り抜けようか必死で考えていた。ここで下手な嘘ついてもすぐにバレるだろうし、いや、でも恋人同士とかそう言うのではない。
まだ、おじさんも黒髪の……とか言っていただけでリース殿下だとはいっていない。皇太子とバレたら、さすがのアルベドも何も言わずにはいられないだろう。
「へえ、エトワールに男がねえ」
「だから、違うって!」
私は必死に否定するが、やはり信じて貰えない。
そりゃあ、そうだよね……と、自分でも思う。
しかし、このまま誤解されたままと言うのも、何だか嫌な気分になる。私は、何とか弁解しようと口を開きかけたが、アルベドは面白がって私の肩に腕を回した。
「んじゃあ、俺は、お前の愛人ってわけか」
「はい!?」
何故そうなる!?
私は、はくはくと口を開閉させながら、アルベドの顔を見た。
アルベドがの考えていることが分からない。
「黒髪っつったら、やっぱブリリアント卿か? あの日、喧嘩してたしな……もしかして、そういう関係でもめてたとかか? 別れ話的な?」
「ブライトはそんなんじゃないって!」
「まあ、彼奴、ブラコンって言われてるしな……付合ってても弟の方大切にされるとか、俺じゃあ簡便ならねえわ」
まあ、確かにブラコンって言う設定だったけども!
関わってみれば、そうでもないことはすぐに分かった。それどころか、弟に対して少し複雑な感情を抱いているという風にも見えたし……
「そうだよね、ブライトってやっぱり、そう言われているんだよね!」
と、何故だか私も便乗して答えてしまった。すると、アルベドが怪しげな目で私を見る。
しまった……つい、調子に乗ってしまった。
「ゴホンッ、ま、まあ噂は噂だし!」
「だよな……俺もそう思う」
そう、アルベドは低い声で言うとガリッと爪を噛んだ。
そういえば、アルベドって何か考えるとき爪を噛む癖があるって書いてあった気がする。
今更そんなどうでもいいことを思い出し、ぼけーっとしているとアルベドと目が合う。黄金の瞳には少し影が差しており、何か私に訴えかけているようにも思えた。
「何?」
「いや? ブリリアント卿について、少し思うことがあったからな」
「思う事って?」
私が聞き返すと、アルベドは意味深な笑みを浮かべる。その笑顔にまたドキッとしてしまう自分がいて、首を思いっきり横に振る。
そんな私の様子をアルベドは面白そうに眺めていたが、少しして冷めたようにスンッと前を向いた。
「ブラコンってのは、ありゃ、嘘だな」
と、信じられない言葉が彼の口から飛び出し私は耳を疑う。
いや、まあ設定っていうだけで、ほんと実際ちょっと違ってはいたけど。嘘とはどういうことだろうか。
私は、アルベドを見るが、彼はがちがちと爪を噛んでいるばかりで答えてくれない。思考を巡らし、答えを出そうとしているようなそんな表情をしていた。
(ブライトからブラコンっていう設定をとったら何が残るの……)
そう、思いつつもそれはそれで、彼に失礼かと私は考えを改める。
「嘘って……確かに、この間は仲悪かったみたいだけど、それはそれでしょ。たまたま、喧嘩になっちゃって」
「たまたまだと思うか?」
「いや、まあ、そう思うしかなくない?」
私は、アルベドの言葉に反論するが、アルベドの真剣な眼差しを見て、何も言えなくなってしまう。
もう、話の出口が分からなくて頭がこんがらがってきた。
「だから、何が言いたいのよ!」
そう、私が叫べばアルベドはきょとんと目を丸くした後、フッと嘲笑うように鼻を鳴らす。
「要するに、お前が無事でよかったつぅことだよ」
「訳わかんない……」
アルベドは、意味ありげに微笑むと、私の頭をくしゃりと撫でた。