「これが…魔王城か。」
次の日の朝、私達はついに魔王が住む城にたどり着いた。
城からはすさまじい魔力があふれ出していて、まだ姿を現していないのに寒気を感じるほどの威圧感が感じられた。
「みんな、準備はいいか?」
ジャックが後ろにいる私達に声をかける。ユリアは素早くうなずき、サイラス王子はふっと余裕そうな笑みを浮かべ、私はごくりと固唾をのんだ。
「それじゃあ行くぞ、これが終わったら王城で祝杯だ!」
ジャックが勢いよく扉を開ける。真っ暗な部屋に私たちがいる廊下の光がさし、緊張が走る。
…魔王はどこだ?止まるな、おびえるな。まずは先制攻撃、呼吸を整えて…。
数時間前、私たちは魔王を倒すための作戦をたてていた。はじめはジャックと私が攻撃して魔王の弱点を見極め、ユリアが補助魔法で私たちの防御力を上げる。そこで私は自分の体力がすり減る代わりに霧を発生させるポイズンミストを繰り出し、霧の中でサイラス王子とジャックが魔王の体力を削る。その間に私はユリアの魔法で体力を回復しながら耐える。
…大丈夫だ、落ち着け。いける、やるぞ。
そう自分に何度も言い聞かせていたその時だった。
目の前で黒くて大きな影がゆらりと動いて私に気づいた。
「ジャック!あれ…!」
「ルナにも見えたか!行くぞ!
…俺こそは王に選ばれしパラディン、ジャック!魔王よ、いざ勝負…!」
ジャックの高らかな声に私のなかの士気があがる。私は彼と同じように勢いよく走ると杖を振り上げて魔王に攻撃しようとした。
「いまいましき魔王よ!風水師のルナが、精霊に代わって制裁してくれる!」
「おお!いいぞルナ、いってやれ!杖でボコッと…
……ボ」
「うん、ジャッ……
え。」
私は杖を振り上げた。が、その攻撃は空振りに終わった。私はそのまま杖を落とした。
目の前でなぜか、ジャックがばたりと倒れ、スライムのように人の形を失い、液状化する光景に思わず杖を落としてしまった。
「ジャッ…ジャック!?」
……なに…これ。魔王がやったの…?
ジャックは私の声に反応しなかった。突如として目も口もない謎の物体になり果てた彼は体をドロドロさせながら沈黙を保っている。そして、この瞬間風水師としてのある予測がすさまじい速さで脳内を駆け回った。
…まさか嵌められた…?
「ルナ!?どうした!?」
「王子!出てきちゃだめ!!」
私の叫び声に異変を感じたのかユリアの魔法で姿を消していた王子が出てきた。
彼女の登場に私はすぐ戻るよう叫んだが、どこかで息をひそめている魔王はその隙を見逃さず。彼女にも手をかける。
「ひゃあ!?…な、なんだこれ…。」
「王子!」
「ぐあッ…あたま…とけて…いや、いやだあああああ!!」
「王子ッ!!」
王子は地面を削るかのような断末魔をあげ、ジャックと同じ液体と化した。
そして、魔法が解除したユリアがその王子を見てぶるぶると震えはじめる。
「っ、ユリア…!」
「さ、サイラス王子…そんな、なんで。」
涙をぼろぼろ流し恐怖で震え上がるユリア。しかし魔王は彼女を落ち着かせる時間もくれずにまた、気配だけをぼんやり感じ取らせて彼女にも手をかけようとする。
「!…。」
…魔王、ユリアを狙ってる…!回復薬を潰して、最後に楽な私を始末するつもりか。
「そうはさせるか…ッ!」
私は販社に近い感覚でそう叫び、杖を拾ってカン!と先端を地面にあてた。
「フーッ!フーッ…ま、魔王…私をなめるなよ…ッ、これでも喰らえ!」
特大猛毒魔法ポイズンミストⅤ × 特大光魔法メテオリッズⅦ × 時間魔法ライテモ
私が魔王にそう威嚇した瞬間、私の背後に3つの魔法人が浮き上がった。
「ル…ルナ…すごい3つの魔法を同時に出すなんて。」
「火事場の馬鹿力ってやつだね、ここにきてやっと最高難度の魔法が出せたよ…うっ!」
ユリアに苦笑いを送った瞬間、私の体にだるさが走る。3つの魔法を発動できたのはいいが、どうやらその分私の魔力が普段の3倍のスピードで削られるため、時間があまりないようだ。
「…ユリア、ちょっといい?」
「っ?」
「落ち着いて聞いてね、順番に魔法を説明するから
…私が唱えたのは特大でレベルⅤのポイズンミスト、効果は自分が猛毒を受ける代わりに、霧が発生して味方は体力と魔力が全回復する、
次が特大でレベルⅦのメテオリッズ、効果は自分が決めた範囲内をが封鎖され、
その範囲にいる生物が死ぬまで永遠に星が降り注ぐ攻撃魔法(ただし、自分が攻撃をくらわない範囲にはできないかつ魔法が発動するのは3分後)。最後は…ッぐ、時間魔法のライテモ3分間敵の動きを止める。」
私はこの城を星がふる範囲にした。よって今から3分後には、この城は封鎖され魔王は私と相打ちになって倒れる。
そして、ユリアは3分以内に城から出たら、星の攻撃を受けない
……私たちの勝ちだ。
ユリア…私を置いて逃げて。」
「っ!?、そ…そんな!いやよ!」
「いいから、はやく。」
ユリアはわっと泣き出して私に抱き着いた。
「いやいやいや!!ルナ!私をおいていかないで!あなたが魔王と一緒に消えるなら、私も消えるわ!」
「馬鹿な事言わないでよ!!!」
私は毒が回った体で懸命に叫んだ。
「もう時間がない、早く行って…ユリアは小さい時から魔法が上手で…私のあこがれだった。こんな落ちこぼれの風水師と一緒に消してしまうのはもったいないよ
…どうか、しあわせになって…ね?。」
「で、でも私…「ほら!はやく!」
私は体に鞭を売ってユリアを魔王の部屋から追い出した。そして扉にもたれて座り、もう二度と開けないようにする。
「ルナ!ルナぁ!!開けなさい!!」
「いいからとっとといけ!!私の魔法を無駄にしないで!!お願い!!」
私が怒鳴りに近い声でそう言うとユリアは鼻をしばらくの間すすって。走り出した。コツコツと彼女の靴の音が
だんだん遠ざかっているのが聞こえて。私は安堵の息を漏らした。
「そう…それでいいんだよ、ユリア。」
…ああ、私、消えるのか。
アルベルトを連れてこないで正解だったかもしれない。彼の体が液状になるのは見たくないし、仲間二人を救えなかったみじめな自分を見せたくない。
瞼を閉じると、小さい頃遊んだ場所や、大好きだった近所の酒場の肉料理のにおい、アルベルトの体温や、学生時代に着ていた制服、サイラス王子の声が一気に頭の中で再生される。
泣きそうになり思わず顔を両手で覆うが、動きを停止させられた魔王がいることをふと思い出し、強引に涙をぬぐった。
「私を先にやらなくて残念でしたね?どうです?どっちが先にあの世に行くか勝負しませんか?」
私はそう虚空に話しかけ、にっこりと笑った。
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