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テラーノベル(Teller Novel)
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宝珠を散りばめまくった貴婦人姿のスキュラと貴族酒場にやって来た。酒場に入って初めに驚いたのが、想像よりも威張り散らした貴族ばかり集まっていたことだ。とてもじゃないが目的が無ければすぐに店を出ていた。


しかし酒場に来た狙いは金回りのいい貴族をつかまえ、情報屋を見つけることにある。


「……場違い感が半端無いな」

「しっ」


――などと、スキュラに注意を受けた。これも我慢しなければ。正直言って資金もツテも無いおれにとって、彼女の行動はありがたいからだ。


「このまま行きますわよ」


スキュラとともに酒場の中央に足を進めると、威張っていた男たちが一斉に注目した。もっとも正確にはおれにではなく、大陸では珍しい青色の長い髪に碧色の瞳、グラマラスな体型をした彼女だけが注目を集めている。


派手な彼女の邪魔をしてはいけないということで、おれは入り口から入ってすぐの壁に寄りかかることしか出来ない。スキュラの合図を待つか、あるいは別の何者かが接触をしてくるか……じっくり待つ役目だ。


「ひゅ~! ど~こから来られたかな、そこのご婦人!」


手笛を吹きながら早速軽そうな男が彼女に近づく。


「……水の都市からですわ」

「宝石も綺麗だがあなたの美しさはここにいる自分……いや、全ての貴族が認めるだろう!」

「そんなことより、どなたかあたくしの取引相手となるお方はいらっしゃらないかしら? もしおいでなら、あたくしの全てを差し上げてもよろしくてよ?」


スキュラが言う実際の取引相手はこのおれになる。後はガチャで出す予定の宝石類を高値で取引してもらうだけだ。だが、彼女の真の姿を知れば貴族は真っ先に逃げ出すだろうな。


誰もが「俺が俺が!」と声を張り上げる中、ずっと様子を窺っていた妙な男が口を開く。どうやら酒場に入って来た時からおれの存在にも気付いていたようだ。


「ご婦人、貴女《あなた》の名は?」

「あなたこそ先に名乗るべきではなくて?」

「これは失礼した。私はベッツ。貴族のアルビン・ベッツだ」

「……あたくしはミルシェよ。それで、貴方のことはアルビン様とお呼びすればよろしいのかしら?」

「何とでも構わない」


貴族というだけあってキザな男だ。宝石とスキュラが目当てでは無さそうだが、ベッツという名はどこかで聞いたことがある。


「それで……、お取引を始めても?」

「あぁ。だがその前に、壁際に立っている男とやり合ってみたいのだが?」

「……あの者はあたくしの護衛ですわ。気配に気づいておいででしたのね。やり合う……とは?」

「なに、護衛をする者の実力を確かめたいだけだ。よろしいかな?」


スキュラは微笑みながら目配せをしてきた。情報屋としてのおれでは無く、戦いの方の意味で合図をされるとは意外だった。もし彼がまともな貴族騎士だとすれば、こちらの企みに勘づいている可能性がある。


ここは軽く拳で小突いてみるのも面白いかもしれない。


「おれの方は何も問題無い。かかってくるつもりならいつでも」


さすがに真面目にやり合うつもりは無い。そもそも自分の力がどこまで上がったかすら分かっていないわけで。ベッツという男がおれに近づいて来ると同時に、酒場では貴族連中の賭けが始まっていた。


どうやらここではそれが日常茶飯事のようで、誰も騒ぎ立ててはいない。


「では、こちらから行くぞ」

「……どうぞ」


どうやら拳だけで攻撃をしてくるらしく、男は一直線に突進して来る。それならばと、おれは奴の初撃をかわす――予定だった。しかしおれの顔に当たるギリギリの所で男はスリップ。どうやら身体に異変を感じてのことのようだが。


「――ちぃっ! 小賢しい真似を」

「え?」

「もしかして、魔法を使う者か?」

「さっきから何を……? おれはただの護衛ですが?」


ふとスキュラの方を見てみると、何かをしているのか手元が動いている。そうなると男の異常行動は彼女による蝕《むしば》みによる魔法攻撃の影響を受けているといったところか。


「なるほど。酒場では手の内を見せるつもりは無い……そういうことか」

「いえ、そういうわけでは」

「――まぁいい。あのご婦人を守るということは相当な手練れなのだろう?」

「はぁ、どうも」


いったい何が目的なのか分からない。そうかと思えば男は低姿勢で頭を下げている。


「私は由緒正しいベッツ家の貴族騎士。あのような目立つご婦人ならば、何かを求めに来たのだと思い近づいたまで」

「何かとは……?」

「それはまた今度にするとしよう。失礼した、護衛殿」


そういうと貴族騎士の男は、スキュラの所に戻って何かの交渉を始めた。彼女に護衛なんていらないということは分かったので、彼女に手を振っておれだけ酒場を後にする。


貴族の男が情報屋じゃなかろうと取引する相手であれば何でもいい、そう思いながら。

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