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「凄い……これ、剣とんできたらどうしよう」
私は広い訓練場の敷地には入らず遠くから眺めていた。
もっと近づいてみたらどうですか? と隣にいたルーメンさんが言っていたが、私は首を横に振った。
確かに、ここからでも充分見えるし、この距離から見ても分かるほど、彼らは動きが洗練されている。きっとここの騎士達は相当な実力者達なんだろう。多分。
しかし、近づいたらあの木剣の餌食になりそうで怖くてとても近づけなかった。そんなことないとリュシオルに言われるが、変な妄想が働いて、木剣が騎士の手からすり抜けて頭に刺さるとか考えてしまう。
「そういえば、リュシオル……うげっ」
私はふと思い出したことを聞こうとリュシオルを見ると、彼女はハァハァと鼻息荒く興奮した様子で、騎士達を凝視していた。
そういえば、昨日目の保養が何とかとかいっていたなあ……と妄想に浸っているであろうリュシオルを私は冷めた目で見ていた。別に何を妄想しようが勝手だし、私には関係無いことだが。
「あ…私もうちょっと近くで見てこようかな。ルーメンさんは?」
「私は、下で待っていますね」
「私はもう少しここにいるわ! エトワール様ッ!」
「……あ、了解です」
ささっと逃げるようにルーメンさんは訓練場を去り、隣で妄想に浸っているリュシオルを横目に私はため息をつき彼女を置いて歩き出した。
私の目的は最初から決まっている。
(そう、グランツを拝むこと――――! そして、好感度を上げること)
私は意気込み、訓練場の周りを歩くことにした。
攻略キャラの頭上には好感度が表示されるから一目で分かるはず……じゃなくても攻略キャラの纏うオーラは凄まじいし、此の世界のも部は格好いいけど攻略キャラの足下にも及ばない。だから、一目見れば分かるはず。何度召喚聖女をプレイしたか。
ただ、二回しかグランツのルートはプレイしていない。あの堅い性格は私には合わなかった。後基本無口だし。
唯一良い点をあげるなら一番好感度が上がりやすいということだろうか。
(……てか広い。足が疲れてきた……)
数分歩き回ったが、グランツを見つけることはおろか訓練場を一周すら出来ていない。もしかすると半周も出来ていないんじゃ無いかとすら思う。
思った以上に広かったのだ。私がただたんに体力がないだけかも知れないが。
また昨日と同様足が棒になりそうだった。
息も切れたし、誰も自分を見ていないからその場に座り込もうとしたときふと林の方で音が聞こえ顔を上げる。すると、林の方から何かが勢いよく飛んできた。
「ひぎゃッ……!」
私は咄嵯に目を瞑りしゃがみこんだ。
(ほ、本当に木剣飛んできたんですけど……!?)
私の後ろの木に刺さった木剣を見て私はがたがたと震えた。今の避けていなかったら絶対死んでた……死にはしなくても大けがしていた。
それから数秒か数分、私はまた飛んでくるのではないかという恐怖で動けずにいた。
というか、何で林の奥から木剣が飛んできたわけ? あそこは訓練場から離れているのに……と私が林の方をじっと見ていると奥の方に人影が見え、私は目を大きく見開いた。
(あ…っ、好感度……)
林の奥から現われた好感度のパラメーターに私は目を奪われた。そうしてようやくその主が現われ私は息をのむ。
無造作に伸びた亜麻色の髪に、空虚な翡翠の瞳、感情の読み取れない無表情な顔の青年がこちらに向かって歩いてくる。
それは間違いなくグランツだった。
しかし、彼は私に目もくれず、木に刺さった木剣を抜き、そのまま林の方へと戻っていこうとする。
「って、ちょっと待って……!」
その様子にあっけにとられていたが、我に返った私はグランツに向かって叫んだ。
待って、待って、待って。何もなし!? もうちょっと反応あってもいいと思うんだけど!?
私が叫ぼうがわめこうが、彼は一切私に興味を示すことなく歩いて行く。もし、私がヒロインだったら大丈夫ですか、とかすみません。の一言ぐらいかけてくれただろうに!
というか、私何もしてない! 寧ろ被害者!
「ちょっと、ちょっと待ってよ!」
もう一度叫ぶと今度は立ち止まってくれたのか、ゆっくりと振り向いてくれる。
やっと、こっち見た……
そう思いながらも私は彼を睨みつけるが、そんな私とは裏腹に彼は相変わらずの無表情のまま首を傾げ、また私に背を向ける。
何だあの態度は! まるで私が見えていなくて、幻聴でも聞こえたかな見たいなあの態度は!
「待ちなさいよ! グランツッ!」
私は思わず彼の名前を口走ってしまった。
すると、グランツはピタリと足を止め再び振返る。空虚な翡翠の瞳と目が合い私は一瞬ドキッと胸が高鳴ったがすぐ、自分の犯した過ちに気づき頭を抱える。
(や、やってしまった――――ッ……!)