TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
シェアするシェアする
報告する

あの衝撃的な思い出は僕の心を撃った。苦しいかったことも愛する心も僕の中に生まれた。優しい海の景色を思い返す度、ときめきが止まらないのだ。

「成瀬さん!どうされましたか?」

「あ、なんでもないよ。」

僕は梓と仲直りすることが出来た。梓の偽善ぶりには腹が立ったのも事実、あの時の失言を忘れることは出来ない。だが、初めて認めてくれた香りがした。

「梓、敬語じゃなくていいんだよ?」

僕の言葉を無視するように役作りに専念する梓。彼女の心が澄んで美しく煌びやかなのは周知の事実だ。梓と関わって良かったと、心底そう感じる。

「ん?成瀬さん…やけに生き生きとしていらっしゃいますね。」

梓にはこの記憶を話すべきなのかもしれない。両親に話してしまったら不審者と接触したと思われるに違いない。

軽く今回の幻想的な出来事を説明した。すると、梓は不安を孕んだ表情に変わった。やはり、引かれたと思った矢先、梓は

「成瀬!良かったねぇ!!寄り添ってくれる大人の方が出来て!」

「うーん…大人の方…なのかな?」

再び沈黙が訪れた。僕は頭の中の記憶を掻き回した。

「成瀬…さん?不審者じゃないんですか?」

僕は震えながら梓と軽く会釈してその場を後にした。

部活で一緒に活動している中月先輩と加々美先輩と、学校の開けた場所で弁当を食べる約束をしている。中月先輩はマシェリー役を務めることとなっている。「私は…何も。」でお馴染みの内気なメイドさんだ。中月先輩はと言うとマシェリーとは真逆のThe陽キャラ、普段から色々な人と深く交流している。男女共に好かれるとても明るい先輩だ。

待ち合わせ場所で待機していたら加々美先輩が到着した。

「あ!成瀬ちゃ~ん!」

優しい声質の爽やかな声が耳に降り掛かった。

「あ、加々美先輩!ご無沙汰してます!」

「いやぁ~ねぇ?成瀬ちゃんが役作りのために学校休んだと、聞いた時には拍子抜けしたけど!でも!また、笑ってくれて嬉しいの」

僕が笑ってる?一体なんのことなのだろうか。

「……笑えてるんですね。」

僕は加々美先輩の瞳をじっと見つめて震えた。この”本当の感情”を手に入れた状態でちゃんと役に陥れられるのだろうか。僕の売りは”感情の欠落”それだけだ。個性を殺して周りに溶け込む馴染みやすい雰囲気を持つことが大事だ。

だが、今の僕は万人受けでは無いのだ。色んな人の意見に対して自分の感情を剥き出しにしてしまうのだ。役作りに不必要な要素を僕の真面目さ故に手にしてしまった。

「先輩、昔の私と今の吹っ切れた僕、どっちが好きですか?」

唐突に自己肯定感が高まる質問を自らしてしまった、という羞恥心に襲われた。

先輩は朗らかな笑顔で

「今の成瀬ちゃんに決まってんじゃん」

と、言われ頭が真っ白になった。

「星螺さん…」

僕はこの気持ちだけ伝えたかった。

──ありがとう。

口を開きかけた途端、息が詰まった。

「あ、天宮さん!こんにちは!中月唄だよ!」

顔を上げた瞬間、中月先輩が抱きついてきた。

「天宮さん!早速、食べちゃお?」

ぐいぐいと関わりに行くその精神、嫌いでは無い。

「…唄?そろそろ、学ぼうか?」

「ん?後輩ちゃんは…大っ嫌いだよ?」

今なんと仰ったのだろうか。

加々美先輩の顔色が青白く変色していく。

「唄…」

中月先輩が階段の低い部分に腰掛けながら食事の準備をしている。その姿は最後の晩餐に参加する貫禄を彷彿とさせる。

「中月先輩って、何かあったんですか?」

と、興味本意で訊いてみたところ中月先輩は静かになってしまった。

「……成瀬ちゃん、知りたい?」

急にかしこまられて狼狽えていると中月先輩が口を開け、大きなおにぎりを頬張った。

「唄…話していい?」

加々美先輩の言葉が聞こえていないのか無視しているのかは分からないが中月先輩の声が聞こえてくることはなかった。

「…はぁ、話すね。唄について」

僕はごくりと息を飲んだ。

この作品はいかがでしたか?

27

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
;