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なんか...エモいなぁ...! 今回のsrngも最高でした!
もしあの時、君をこの手で殺していたなら
俺の結末は、変わっていたと思う
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ヴァイオリンの音がする
綺麗な音色、よく聴いた事がある曲
彼が好きだと言っていた。
ふいに近くにあった扉を開ければ、ふんわりと聴こえていた音色が、響くように聴こえた。
綺麗に弾いているものだから、何も声を掛けられず、ただ静かに聴いていた。
この曲を聴いていると、昔の事を思い出す
昔から彼がずっと弾いていた曲
そもそも私とセラフは、こうして仲のいい関係では無かった。
セラフの立場上、私と互いに居ることは彼にとって難しい事だったから
もしあの時、伝えられなかったら
私とセラフは、今こうして居られなかったのかもしれない。
そう考えると怖くて、同時にあの時彼を救えたのかと思う
何分経ったのだろうか
少し離れた距離で聴いていれば音色は止み
声が聞こえた。
「いつから聴いてたの」
「数分前から。お前がずっと真剣に弾いてるもんだから、声を掛けていいか分からなかったんだよ」
「掛けたらいいのに、はずかし」
「配信でもしてるんだからいいでしょ」
「それとこれとは別」
「はいはいごめんなさいね、邪魔者は退散するよ」
壁にもたれていた身体を起こし、ドアノブに手を掛けた時、腕が引っ張られた感覚がした。
「……セラ夫?」
「______なんで、」
「ご、ごめん、なんて言ったか聞こえなかった、もう一度言ってくれません…?」
どうして、そんなにも悲しい表情をしているのだろう
「……いや、なんでもない」
「セラ、」
「ごめん、なんでもないから
いいよ、行って」
「え、は…っおい…!!」
半場無理矢理部屋から出されてしまった
「……は?」
何だ、あいつ
なんでもないって、なんでもない顔してなかっただろ、私でもわかるわ
ふざけるな、気になった事はとことん気になるんだよ、特にお前のことだし
「セラフ!おい…!!鍵かけんな!」
『何、もうなんでもないって、早く帰ったら?』
「さっきなんて言ったか気になるに決まってるでしょ!!はよ開けろや」
『俺だってもう帰るよ』
「じゃあ鍵かけなくていいでしょ」
『俺だって色々あんの』
だからその色々を聞かせろって言ってんのにこの野郎が…
「……ねえ、セラフ、私お前の事結構気にかけてるんですよ、だからお前が何か隠してたら、嫌でも気になっちゃうんです。
聞かせてくれませんか」
『____凪ちゃんの癖に腹立つ』
「は?おいお前、何ディスってんだよ」
『うるせぇ、早く帰れって言ってんの』
「は、はー…!!そうですか、そうですか!お前がそんななら、私だって考えがあるんですよ?!」
『もしかして無理矢理開けようとしてんの?凪ちゃんにそんなこと無理に決まってるでしょ』
「おいお前、扉の近くから退けるんだよ」
『はあ?』
「そのお前の大事なヴァイオリンが傷付けられたくなかったら早く退けなさいって言ってんの、私だって嫌だし」
『は、ちょ…何?』
「3秒間カウントダウンしてやる、早く」
いち、に、さん
私はちゃんとカウントダウンをした。
その事実を頭に入れ、扉から離れて助走を付け、一気に扉を蹴った
ガタン!!と強く音がした後、ギィ、と扉が悲鳴をあげるように開いた。
「お、お前…なにしてんの」
部屋の中には棒立ちで呆気なく突っ立っているセラフの姿があった。
「お前が開けないからでしょ」
「凪ちゃん…こんな事出来たんだね…」
「舐めてんのかって、これでも私がスパイしてた事貴方が1番分かってますよね?!」
「それはまあ、そうなんだけど…」
非力なのは変わりないでしょ
なんて口にする奴の事は気にしない事にした
「それより、私は気になってるんです」
「何が」
「お前がなんであんな急に拒絶したのか
嫌なことでもあったんですか?それなら私が話を聞きます。何か重要な事がありましたか?それなら私も仲間に入れてください
私はこれでもお前の事を心配してるんだから」
「……違う、違うんだよ、そうじゃない」
「何が違うんだよ」
「昔のことを、考えてただけなんだよ」
「昔ぃ?」
「そうだよ、悪いか」
「いや、悪くは無いんだけど…お前の昔多すぎてどれがどれだか分かんな、」
「君のことを殺そうとしてた時」
その言葉を聞いて、変な入っていた身体の力が抜けた
ああ、そうか
彼は優しいから、何かを考えてしまったんだ
「それが、嫌だったんですか?」
「もしあの時、俺が君を殺してたら、今の俺はどうなってるのかなって思った
奏斗と、雲雀と会えなかったのかなって
アキラとこうして、笑えなかったのかなって、考えてた」
「それ、弾いてた時にですか」
「…そう」
なんだ、なんだそれ
いつもは悪戯が好きで、自由気ままに過ごしてるセラフがそんなことを考えていたなんて
何故か少し嬉しいような、面白いような
笑いが込み上げてきてしまって、つい笑ってしまった。
「何笑ってんだよ!」
「っふふ…す、すみません、面白くて…っ
んん゙…っぐ、…ふ…!」
「アキラ!!」
「痛い痛い!!謝った!謝ったから…!!」
笑っているとわなわなと震えているセラフに一発蹴りを入れられてしまった
中々力を入れていれられて蹴られたものだから、痛いと叫んでしまう。
「はぁ…めっちゃ笑った」
「ふざけんなよお前」
「でも良かった」
「はぁ?何が」
「大層な悩みじゃなくて」
「……俺は、大層な悩みだと思ってるよ」
「まあ、お前はそうでしょうね」
私だって、殺されてしまうのは御免だ。
だけど…セラフの立場上、命令に逆らえば危険なのは自分の身だと分かっていただろう
私もセラフの立ち位置に立てば分かる
普通の人間では感じられないプレッシャーと、恐怖
そんなの、怖いに決まっている。
「確かにあの時、お前と話をしていなければ、殺されていたかもしれませんね」
「____…凪ちゃん」
「でも今私は生きていますよ、貴方の隣に相棒として居るじゃないですか」
セラフは私の目を見つめたまま何も喋らない
でもそれでいい、話を聞いてもらえるのなら本望だ。
「もしかすれば今後も、こうしてお前があの時の事を考え込んでしまう時もあるかもしれない、でもそんな時は私が言ってやるよ、お前に何かされても死ぬ気で抗ってみせるって」
「……なんだよ、それ…凪ちゃんが俺に敵うと、思ってんの」
「全く。お前は強いし、頭もいい、体格だって私はお前に負けてる。
でも貴方の理解力だけは負けませんよ」
いつだって見てきた行動を、思考を全て読み取ってみせる。
そうしてお前に捕まってみせない
「だから安心して思い出していいですよ」
「なんか、腹立つ」
「セラ夫は寂しがり屋なので、私が傍に居てあげますよ、それに話も聞いてやる」
そんなちっぽけな過去を忘れさせるくらい
ずっと近くにいて、一緒に楽しい事をして
あんな記憶、忘れさせるくらい
傍にいてあげますから
「だから、泣かないで下さいよ」
少し背伸びをして、彼の頬を伝う雫を指で拭えば、くしゃりと顔を歪ませた。
「っ…むかつく!アキラに、一本取られる、なんて…!」
「あはは!私も中々やりますね 」
「うるさい…っ!!」
「いててて、わかったわかった!お前でけぇんだから私潰れる!!座って!」
わっと覆うように抱きついてきたセラフに押し潰されそうになり、座れと言えば大人しく床に座った。
離れてはくれなかったけれど
「まあ、お前が落ち着くまでこのままで居てあげますよ」
ふわふわとした髪を撫でると、手に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
犬のようなのか、猫のようなのかまったく分からないけれど、そんな事を言えばまた頭突きされかねないから黙っていよう
「……凪ちゃん」
「ん?」
「……おれ、凪ちゃんの傍にいて、楽しい」
「そうですか、それは良かったよ」
「まいにち、うれしいよ」
「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ」
「凪ちゃん」
「はいはい、なんですか」
「すきだよ」
「………う、ん…ありがとう、ございます」
びっくりした、彼からあまりそういう言葉を言われないせいで、身体が思わず硬直してしまった。
「これからはずっと、そばにいたい、君の傍に、いさせて」
「わかった、わかったから…そんなに強く抱きしめなくても私は逃げないよ」
「凪ちゃん」
「あ゙ー!!わかってる!わかってるから!
逃げないよ!!」
「ちがう、きいて」
「はい、なに!」
「……キスしてもいい?」
「は?ば、ばっ…!!ダメに決まってんだろお前!!」
「なんで」
「なんで…って、家じゃないしここ!」
「おねがい、俺泣いてるんだよ」
「もう泣き止んでんだろどうせ」
「みて」
「うっわ泣いてる」
「ひどい、もっと優しく言葉言ってくれないと俺号泣しちゃうよ」
「なんでそんな淡々と喋ってるのに泣いてるんだよ…」
「わかんない、情緒がちょっとおかしいのかも」
「あー…成程ね」
「だめなの」
「……じゃあ、一つ条件をつけさせて下さい」
「わかった」
「貴方の情緒が正常になったら、またヴァイオリンを聞かせて下さい、これでどうですか?」
「それは、頼まれたらいつだって弾くよ」
「今がいいんです、お前と今こうして静かな2人っきりがいい」
「分かった、約束する」
「じゃあ、はい、離れて」
「凪ちゃ、ん…」
座っているせいか、立っている時よりも視線が近くにある
睫毛が長いとか、いい匂いがするとか
肌が綺麗だな、とか。
そんな事ばかり考えてしまうけれど
この涙が止まるのなら、キスなんていくらでもしてやる。
ちゅ、と漫画のような効果音は無いくらいただ触れるキス
カチャリと眼鏡が当たる音がして、すぐにセラフから離れてしまった。
「ごめん、眼鏡外すの忘れてた」
「……凪ちゃんから、するの…初めてだと思うんだけど」
「なに、私だってキスくらいできるわ」
「そう、だけど」
「セラフ」
「……ありがとう、嬉しい」
「ふ、それでいいんです」
「俺からも、いい?」
「えー…」
「そこは受け入れる感じじゃないの 」
「いや、もうしたし…」
「したい」
「わかったわかった、わかったからなんか嫌なことあればすぐに力入れる癖止めなさい」
「眼鏡どけて」
「はいはい…ほら、これでいい、ん…っ」
こいつは本当に話を聞かない
言葉を塞ぐ様に口付けられたけれど、優しくて、温かい
大事にされているような、そんな感覚がする
ぐっと腰に手を当てられ、長いキスをさせられる、鼻で呼吸していても、酸欠にはなってしまうくらい。
「っ…ぅ、…んん…!!」
「……ごめん、苦しい?」
「っ……毎回、思うんだけど…私別にお前みたいに訓練されてる事ないから、呼吸続かないって…」
「離れたくなくて」
「分かるけどさ、あ」
「なに?」
「涙、引っ込んでる」
「ああ、ほんとだ」
いつの間にか、彼の赤い瞳からは雫は流れ落ちなくなっていた
きらきらと光る彼の瞳はとても好きだ。
「やっぱり、セラフはそのままのセラフでいてくれた方が安心しますね 」
「いつだって俺のままだよ、今日は少し違っただけ」
「まぁ、そういう事にしておきます」
「そういう事にしておいて」
ふわりと表情が柔らかくなったセラフを見て、心が落ち着くような気がした。
やっぱりお前は、そうやって笑ってた方が似合うよ
あの時、苦しそうにしてた時よりもずっと
ずっと幸せそうだから。
「ほら、約束」
「もう少し」
「それ永遠と続くタイプだろ」
「本当にもう少しだけ、抱きしめてたい」
「後5分だけな」
「十分、ありがとう凪ちゃん」
演奏を聞くのはいつになるのやら
分からないけれど、今日だけは本人の気が済むまで願い事を叶えてやろう。
過去の事は、今には関係なく過ごせばいい
あの時苦しんでいた自分を忘れろとは言わないけれど
今自分が幸せだと思うのなら、それでいいんじゃないかと私は思う。
ヴァイオリンの音色が部屋から聞こえる
軽やかに、美しく響くその音色を、一人は静かに弾いている者を見つめながら聴いていた。
二人が顔を見合わせた時、どちらともなく
幸せそうに笑っていたとか。