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季節は暖かな春。長く続く街路を桜が祝福しているようだ。そこに桜と…
「きゃ!」
女性の白い帽子を巻き込んで吹く風が通る。
帽子は女性にとって届きそうで届かない微妙な位置に引っかかってしまった。
「どうしよう…」
困っている人を僕は見つけた。知らない人でも僕は迷わず駆け寄った。
「僕が取ります」
僕は手を伸ばす。帽子の鍔を掴むと、枝で傷つかないようにそっと持ち上げる。
「取れましたよ。どうぞ」
帽子を返すと、また歩き始める。
帽子を受け取った女性の頬は火照て、その視線は湊慈に向けられていた。
「痛いよぉ!」
転けて膝を擦りむいた子供がいれば、
「大丈夫だよ。ほら、バイ菌さんバイ菌さん飛んでけー!」
「アハハ!いたいの いたいのでしょ!」
「よっこらせ……」
大荷物を背負ったおばあさんがいれば、
「荷物、持ちますよ」
「あらまぁ、ありがとぉね!」
「オリバー!待って!」
リードの外れた犬がいれば、
「よしよし……。あ、あなたの家族ですよね。かわいいですね」
「ありがとうございます。この子はオリバーです。特にこの目がとっても愛くるしいですよ!」
そんな彼の人助けはあと3人に続いた。そのおかげで、登校時間に間に合わず、20分程遅れて遅刻してしまった。
「(間に合わなかった…)」
僕はもちろん内心焦っていた。
いつもはギリギリセーフで着いていたが、今回は遅刻したというのもあるが、実はもうひとつあった。
急いで教室へと向かう。教室の前まで来ると突然教室のドアが開いた。そこから担任が顔を出した。担任はやれやれ、というふうに力なく笑った。
「先生すみません。遅れました」
「霞、今日は遅れずに来て欲しかったぞ。まあとりあえず教室に入って」
「あと、後で職員室に来なさい」
その表情は怒っている訳では無いのを僕は理解していた。
僕は急いで鞄を片付け、椅子に座る。
朝礼が終わると同時に僕と担任は教室を出て、1階の職員室に向かった。
「失礼します」
職員室に入ると、もう既に奥の方で立っている担任が居た。
「聞いたよ。登校中何人も助けてあげたんだってね。霞が来る前くらいに5件学校に連絡があってね、その全て君に対してのお礼だったよ」
僕は聞いて嬉しくなる。
相手にとって嬉しいことをしてあげると、自分にも嬉しいことが帰ってくる。見返りを求める為にやるのではなく、その人が困っているからやる。そんな連鎖が世界中でいつまでも続いていればなんて考える。
「ぼーっとして、大丈夫か?」
担任の声で目を覚ます。
「…はい。困ってる人がいたら助けるのは当たり前ですよ」
「ふっ、そうか。霞みたいな生徒がいて先生は安心だ。だが、事前連絡無しの遅刻は許されないぞ!」
「これからは、朝に連絡します」
「いや遅刻宣言しないでくれ!…まあ次からはくれぐれも遅れずに来てくれ。以上だ」
そして担任の話が終わり、開放された僕は教室に戻ろうとすると、他の教員数名に囲まれ捕まることになってしまう。困惑したが担任が間に入ってくれ、切り抜けることが出来た。
そして教室に戻ったのだった。
「おっ、お疲れ〜!」
教室に戻ると、二人の男子が近付いてきた。
「話は聞いてるぜ!流石は”御仏の御前“と呼ばれるだけあるな!」
僕の肩を叩きながら言う、茶髪のいかにもチャラそうな男子高生は 木村 輝。
その輝の後ろで笑っている身長の低い茶髪天然パーマの男子高生は 石川 咲太。
「そこがそう君のいい所。でも初日早々から遅刻するとは思ってなかったわ」
「だよな」
二人は小学生からの幼馴染。”御仏の御前”は気付けば言われ馴染んでいたあだ名らしい。
「おっと、もうこんな時間だ。準備すっかー!」
「そうだね」
これが僕の24時間だけの大切な日常だ。
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