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Whimsical企画「フリータイトル」

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地球最後の日にお隣さんからおすそ分けを貰った

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2022年08月31日

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『数時間後、隕石が降ってきて地球が滅びます』


そんなニュースが流れて、家族も友人も、ましてや恋人もいない俺は、昔人気だった番組の再放送を流しながら、呆けていた。この世は理不尽だなぁと、ぼんやりと思う。


でも、俺にだって好きな人くらいはいたのだ。

高校1年生の時に知り合った彼女は、いつも笑顔で優しくて、そのくせ少しだけ抜けていて……本当に可愛い人だった。

今では疎遠になった彼女に、会いたい、そう願う。


ピンポーン


…こんなときに誰だろうか、世界の終わりだっていうのに。無視しようかとも思ったけれど、流石に失礼かと思い、インターホンを取る。


「はい……」

「あ、えっと、私、隣の家に住んでる者です。」


聞こえてきた声は聞き覚えのあるものだった。


「……どうしたんですか?」

「作り過ぎちゃったカレー、頂いてくれませんか?」

「え?」

「……だめですか?」


突然のことに戸惑う。

でもまあ、最期だし別にいいか、なんて考えて言う。


「わかりました、今出ますね。」


そう言ってドアを開ける。

そこには、小柄な彼女の姿があった。


「はい、これお鍋とご飯です!」

「わざわざありがとうございます……。」


渡された鍋とお米に、思わず腹が鳴る。そういえば今日はなにもまだ口にしていなかった。

お礼を言って部屋へと戻る。少し温めて、皿によそえば、ふわりと美味しそうな匂いがした。

最期に食べるものがそこらのインスタントにならなくて良かったと思いながら、口にいれる。


「う”…ッ!?」


なんだこれは?! 味覚障害を起こしたのかと思うほどにまずい。なんだか変なものを入れてしまったんだろうか。

急いで水を飲み干す。驚きはしたものの、口の中が痛くなっただけだった。


「……ごちそうさまでした。」


なんとか完食したが、正直インスタントにすれば良かったと後悔している。


ピンポーン


またか。さっきと同じ女性の声がする。

今度は一体なんだろう。


「はーい…」

「あ、私、隣の家に住んでる者ですけど……。」

「ああ……はい……。」


また同じことを言っている。


「あの、カレー食べてもらえませんか?」

「…は?」

「え?」

「…」

「………」


思考が停止する。何を言っているんだろうこの人は。


「えっと……どうしてですか?」

「作り過ぎちゃって。」

「もう頂いたんですけど…」

「でもまだ余ってますし………。」

「……。」

「……。」


沈黙が流れる。


「お願いします!」

「無理ですよ!?」


頭を下げる女性に対して、つい叫んでしまう。


「どうしてもダメですか……?」

「はい……。」

「そうですか……じゃあ仕方ないですね……。」


諦めてくれたみたいだ。助かった。

ホッとして息をつく。


「それでは、私はこれで失礼しますね。」


女性はそういうと、帰っていった。……いや、待てよ。

おかしいだろ。いくらなんでも。

それに、さっきから俺の部屋の隣の住人しか来ていない気がするのは気のせいだろうか。


ピンポーン


「…」


ピンポーン


「あぁ…もう!!!」


半分やけになりながら扉を開ける。

そこには、下半身が透けている、幽霊、というのだろうか。そんな人物(?)が立っていた。


「あのぉ…私、入居禁止になっている事故物件の幽霊です…」

「あぁお隣の…ってなるわけねぇだろ!!!!!」

「ひぃっ!!すみませんでしたぁッ!!!」


反射的に怒鳴りつけると、幽霊は半泣きになって謝ってきた。


「あぁいやその……こちらこそすみません。ちょっとびっくりしたもので。」

「いえ、その、こちらこそすみません。」


謝罪をして、どうして来たのかを尋ねる。すると幽霊は語り始めた。


「実は……生前ここに住んでいた住人の方々にカレーを振る舞っていたのですが、誰も受け取ってくれなくて……。」

「はあ……。」


嫌な予感がする。


「なので、貴方におすそ分けを…」

「申し訳ないんですが、もうカレーを食べてしまいまして…」

「……そんな…」


本当にショックそうで申し訳ないが、嫌なのだ。もうカレー嫌いになりそう。

悲しそうな背中を見ながら幽霊を帰らせ、部屋に戻る。切り忘れたテレビは未だに昔人気だった番組を流している。

しかし今日は地球最後の日になるのだ。少しくらい嫌でも天国では笑い話にでもなるだろう………


『速報です!!!隕石の軌道が逸れ、地球に衝突することはなくなりました!!!!』


テレビがそんなニュースを告げる。そしてまた。


ピンポーン


「もう!!!!嫌だあぁぁーーー!!!!!」

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