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「あんた、誰だよ?」
優人が遥さんの迫力に押されている。
「この子の友達!早くしな!」
優人はチッと舌打ちをし「ちょっと待ってろ」部屋の中に戻って行った。
女の人を隠すのだろうか。
「さすが元ヤンだな」
蒼さんがポツリ呟いた。
えっ?遥さんって元ヤンキー?なの!?
「ちょっと、桜の前で変なこと言うんじゃないわよ!」
そんなやり取りをしていると
「家の前で騒ぐの止めてくれますか?」
優人が現れ、内鍵を開けてくれた。
「じゃ、行ってくる」
私よりも先に家に入ろうとしている遥さんを見て
「なんであんたまで家の中に入るんですか?」
優人が怪訝そうに問いかけた。
「あんたがまた桜のこと傷つけても困るから。一人で行かせるわけねーだろうが。自分のしたこと、考えろや」
遥さんの目が怒っている。
職場でも頼りになる先輩だけど、こんなに怖かったっけ?
遥さんの迫力に負け、優人は部屋の中に戻って行った。
私も遥さんの後に続いて中に入る。
「何かあったら大きな声出して呼んで?すぐ行くから」
部屋に入る時に蒼さんに声をかけられた。
「はい!」
蒼さんが外で待っていてくれるって思うとさらに心強い。
リビングに入る。
女の人はいなかった。
きっと寝室にいるんだろうと予想をする。
遥さんばかりに頼っていてはダメだ。自分の問題なんだから。
「浮気のことは正直どうでもいいの。昨日少し話をしたけど。もう優人とは別れる。この家からも出て行きます。だから優人に預けていた私の通帳とかカード、全部返して?荷物は今日できるだけ持って行くから……」
私がそう告げると、彼は預けていたカードと通帳を机の上に無言でポイっと投げた。
遥さんがその態度を見て、眉間にシワが寄ったのがわかったけど返してくれればそれでいい。これさえあれば、しばらくは苦しいかもしれないけど、遥さんと蒼さんに迷惑をかけることなくアパートくらい借りれる。
ふぅと胸をなでおろす。
ペラっと通帳の残高を確認した。
残高は――。
えっ?どういうこと?
残高、一万円ちょっと?
通帳のページを捲っていくと、ここ一カ月の間に少しずつお金が引き出されていることがわかった。
私が「返せ」って言うことを予想したからだろうか、今朝も引き出されてる。
お金がない……。
もちろん私は使っていない。
「優人!どういうこと!?私のお金、勝手に使ってたの!?」
「はぁ!?」
私の発言に遥さんも反応した。
実際にお金がなくなっている、本人に聞くしかない。
「あぁ。ないよ?俺はお前と結婚を前提に付き合っていたから。そのための準備金として使わせてもらった」
結婚を前提?準備金?何それ。
プロポーズもされてないし、そんな「結婚」なんて言葉、一度も言われたことがない。
「そんなのおかしいよ!準備金って何?私、優人からそんなこと一度も言われたことがないし……。それに口座の暗証番号だって……」
暗証番号を優人に教えた覚えがない。
彼は少し笑って
「ほら。あの時だよ?お前から教えてくれたじゃん。番号。これからは一緒に暮らすんだからって」
えっ……。そんな記憶がない。
優人と一緒に銀行に行ったことはあるけど……。
その時、後ろから見てた?
「優人に伝えた覚えなんてない!使ったお金、返して!」
私が必至なのに対して、彼は余裕なのか笑っている。
「返すお金なんてないよ。俺の通帳も見る?」
いや、見たところでメインの通帳かどうかなんてわからない。
いくつか口座を持っていて、隠している可能性だってあるし。
「いいよ、桜。もう訴えよう?これ、窃盗だよ」
遥さんが優人を睨みつけている。
訴えるという言葉を聞けば少しはうろたえる素振りを見せるかと思ったが、彼は動揺しなかった。
「別に訴えてもらっていいけど。俺も反論させてもらうし。桜が俺に預けたことは事実なんだから。俺が勝手に取り上げたってわけじゃないし。通帳が置いてある場所も知っていただろ?お前が勝手に俺を信用して預けたんだよ。だからこれは盗みとかではない。同棲までしていたわけだし。暗証番号だって教えてたわけだから」
なにそれ……。だから余裕なの?
「私、あなたに教えた覚えがない!」
「じゃあ、なんで俺が口座から引き出せるんだよ?」
「それは……」
彼が後ろで私の番号入力の操作を見ていたという確実な証拠がない。
彼は嘘をついている。
勝手に取り上げたわけじゃないって言っているけれど、暴力で私を支配して、通帳とカードを取り上げたのは彼だ。
でもーー。
彼の言うように、保管してある場所は知っていた。
いつでも私が使える場所に置いてあった。勝手に使ったらまた殴られるんじゃないかと思って取り返すことができなかった。
結局は、私がいけないんだ。
蒼さんが言ってくれたみたいに、すぐ彼から逃げれば良かったのに。
それが怖くて勇気がなくて出来なかった。
だから私がーー。
頭の中がもう真っ白。どうしよう、気持ちが悪い。
「桜?大丈夫!?顔、真っ青だけど……」
遥さんが肩を叩いてくれる。
「それとお前の荷物、もう帰って来ないかと思ってほとんど捨てたぞ?勝手に出て行ったのはお前だし。今日ゴミの日だったからな。さすがに全部は捨てきれなくて残っているけど、外にいる男に手伝ってもらえば、三人で今日持ち帰れる量になっているから」