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「僕は君より、ずっとずっと不幸なんだから。」
そう言い放った瞬間、まるで他人事のようになんて自己中な発言なんだろう、と思った。彼は自分より、不幸かもしれないのに。
彼はゆっくり瞬きをして、それから僕の写鏡かのようにそっくりな笑みで、薄く笑った。
「そうなんだ。俺より、お前の方が」
そう、低く呟いてから彼は気味の悪い笑みを引っ込めて、元の爽やかな笑顔を浮かべた。その瞬間、僕の世界には蝉の声と夏の照り返す暑さが戻ってきた。
それから数秒のタイムラグがあって、僕は彼の腕から手を離し、リュックを背負い直した。
「ぼ、僕、もう行くから。………………死なないでよね?」
そう言って恐る恐る横を通り過ぎようとすると、リュックの取っ手みたいなところを掴まれて強引に引き止められる。
うぐっ、と咳き込みそうになりながら僕は彼を見上げた。一体なんなんだ、突拍子もない。
「…………………面白い人見つけちゃった。まだ死ねないや。ね、一緒にサボろ?」
「………………………」
一瞬、自分の中で葛藤があったことに驚きを隠せなかった。仲間なんか、要らないと思っていたのに。傷の舐め合いなんか趣味じゃあないのに。
「ね、だめ?」
「………………………………………………いい、よ」
そう答えた瞬間に、僕はしばらく屋上の世界に別れを告げることになった。
彼が何を考えているかなんて、露知らずに。