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タクマ殿は弱かった。

勇者パーティが結成され訓練が始まると、それは顕著に現れた。

しかし…何度打ちのめされようとも、その心は折れる事なく、立ち上がって来た。

それがし達が束になっても倒せなくなるまで、そう時間は掛からなかった。

勇者とは諦めない心の持ち主だと、某は思う。

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コンコンッ

「開いてまする」

ガチャ

「失礼します。拳聖様。お時間をお借りしても宜しいでしょうか?」

「構いませぬ」

某の借りている部屋に、やつれた王女殿下が訪ねて来られた。

その姿を見て、この状況を憂いているのは某だけではないと、勇気付けられた気がした。

「茶など淹れたことがない故。白湯で申し訳ない」

「いえ。お気遣いなく。ありがとうございます」

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不思議です。拳聖様は無口で無骨な方。その様なイメージを持っていましたが、今は不思議と安心感を持ちます。勇者パーティの最年長ということで、大人の余裕があるのでしょうか。

私は言葉を交わす前から『この方は敵ではない。味方だ』と思いました。

もちろんその気持ちとは別に、聞かなければならないことはしっかりと聞きます。

「ふむ。某の行動ですかな。

あの日、タクマ殿達と別れた後、某はこの部屋に戻りましたな。

それから時間になり、タクマ殿の部屋へ向かう途中で、ロードナント殿と逢い、一緒に向かいましたな」

「ありがとうございます。拳聖様はこの部屋で何を?」

「瞑想ですな。魔王との激闘を思い出し、次は某一人でも倒せる様にと、瞑想しておりました」

……帰って来たばかりで?

この方の為人は知りませんでしたが、聞けば聞くほど理解から遠く離れていく様な……

ですが、悪い方でないのは間違いありませんね。

恐らくですが、今も私を気遣い、普段より饒舌に話をされているように見受けられます。

「…拳聖様もご存知の通り、このままだとタクマ様は十日後に……うっ……すみ、ません」

あの言葉を口に出そうとしますが、恐怖で出すことが叶いません。

言うと私の中で現実になってしまいそうで……

そんな言葉に詰まる私に、拳聖様は手拭いをそっと差し出してくれました。

「王女殿下。某はそうはならないと思いますぞ」

「…え?」

「仲間意識よりも強者としてタクマ殿のことを尊敬しています。そんな某でも、あの御仁が殺されるのを、みすみす見届けるつもりはありませぬ。

意味がわかりますかな?」

え?それは……

「聖女様も…?」

剣鬼様や魔女様ならもしかしたら、と思います。ですが、聖女様にそのイメージは……

「そうなるでしょう。某に国政や難しい事はわかりかねますが、タクマ殿のことよりもそちらの方を心配なされた方が宜しいかと、具申致します」

っ!!

拳聖様は…いえ。勇者パーティの皆様は、タクマ様を救出なさるおつもりです。それも、完全なる武力行使で。

「し、しかし、拳聖様も皆様も、あれ以来お会いしておりません」

「はっはっはっ。某達に会話は不要ですな。魔王との戦いでも、喋っている暇があるなら身体を動かさねばなりませんでしたので」

「………」

なんの確証もない。でも、いざという時には皆が協力する。

これが命と背中を預け合い、宿敵である魔王を討伐した勇者パーティの絆……

ですが……

「会話が不要でしたのは、拳聖様だけでは?」

この疑問を口に出さずにはいられませんでした。




その日、勇者様は自供を撤回されました。

「やはり固い絆で結ばれているのですね」

久しぶりの逢瀬…いえ、ただの会話ですね。周りには騎士の方々もおられますし。

「あのままだと、この国が駄目になってしまうって、気付いたからな。特にディーテ辺りは俺を助けるために被害を考えず魔法を使いそうだし…」

「何となく、想像できます…」

タクマ様が自供を撤回出来た理由は、まさにそれでした。

『俺が処刑されそうになると、仲間達が助けに来てしまう。そうなると、この国の被害は甚大。俺はこの国を……仲間を、王女を守りたいだけなんだ。

だから発言を撤回させてもらう』

これを聞いた騎士はさぞ慌てたことでしょう。

すぐに私のいないところで会議は開かれ、保身しか考えない貴族達は勇者の処刑に反対しました。

タクマ様を処刑しようとしたところで、それは叶わず。さらには国が滅んでしまう危険性も孕んでいれば、この結果にも納得です。

もちろん結論を出す前に、騎士達が勇者パーティの面々に確認を行ったのは当然です。

「将来の近衛騎士団長最有力の剣鬼様が、いの一番にそう告げたと聞いた時は……驚きました」

「…アイツに難しい事はわからないからなぁ。自分がこの国を守る騎士だって自覚はないと思う…」

不思議な方です……

この国の騎士になる為には、身元が確かで文武両道でなければなれないはずなのです。

ですが…その…剣鬼様は、何と言うか…お世辞にも…賢くはないといいますか……

兎に角、その類い稀なき剣の腕だけで、騎士になられたと伺いました。

そんな剣鬼様と私が初めてお会いしたのは城内でした。すれ違う私に声を掛けて下さったのですが、その言葉が余りにも不敬で…上司の方に怒られていました。

私は『気にしていません』とだけ、お伝えしたのですが…何をどう解釈なされたのか…その後も友人に話すかの様な言葉遣いで接してくださいました。

今でこそタクマ様も同じ様に接してくださいますが、その時の私にはその様な方は周りにはいなかったので、大変驚きましたね。

「でも、私はホッとしています。まだ嫌疑は掛けられたままですが、タクマ様がこうして普通の居室へと移られて」

「ははっ。それもこれもナタリー姫のお陰だね。ありがとう」

こうして、私は勇者様を牢獄(尖塔)から連れ出すことが出来ました。

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