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テラーノベル(Teller Novel)
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ワンクッション









仰向けになったエーミールの上に、グルッペンは息を切らしながら倒れ込んだ。エーミールからも、荒い息遣いが聞こえてくる。

「……はぁ。やっぱりキミは最高だよ、エーミール」

「……抜け」

「もう少しいいじゃないか。抱き合って甘い言葉でも語り合いたい」

「……どっかの馬鹿が、ゴムも着けずにケツの中で射精した。どうなるか、わかるな?」

「どーなるんだ?」

純粋に理解できておらずに首を傾げるグルッペンの様子が、エーミールの怒りを更に助長させた。

「精液には、プロスタグランジンが含まれている。この成分が体内に侵入すると、痛覚を誘発する。プロスタグランジンは、特に消化器官への吸収力が高い。つまりは」

同時にエーミールの腹から、雷鳴のような轟音が鳴り響く。

その音を聞いたグルッペンは全てを察して、顔面を硬直させた。

「あ?ス、スマン。その前に、鍵を…。どこやったっけ?まさか、向こうの部屋か?」

「貴様のスーツのポケットとかにないのか?いや、その前に抜け!落ち着いてよく考えろ!」

エーミールの腹の音が大きくなり、エーミールもだがグルッペンも焦りが増していった。

「ちょっと待て、エーミール!さすがの俺も、そのステージはまだ早すぎる!」

「だったらすぐに、手錠を外せ!いや、それ以前に、さっさと抜け!」

「わかった!わかったから、力、抜いてくれ」

エーミールもやらかしたくない無意識から、尻穴に力を込めていたが、それゆえにグルッペンもエーミールの中に入れたモノが締め付けが強すぎて、なかなか抜けない。

「……ッ!!ズボンのポケットに、鍵はないのかッ?!」

エーミールの声に、余裕がない。

グルッペンは慌てて脱いだズボンを手繰り寄せると、全部のポケットに手を突っ込んで鍵を探す。

「……あった!」

「でかした!すぐ外せ!!そして抜け!!」




何とか間に合いました。




「ふぅ……」

排泄ついでにシャワーを済ませてきたエーミールは、非常に疲れた顔をして、全裸でベッドルームへと戻ってきた。

生気のない表情のエーミールに、グルッペンは同情と申し訳なさから、しょぼくれた声をかける。

「……お疲れ。炭酸水でも飲むか?」

「……胃腸に余計な刺激を与えたくない。ミネラルウォーターをもらえますか」

そう言うと、エーミールはベッドに頭から飛び込み、身体を突っ伏した。

「わかった」

「ついでにグルッペンさんも、シャワー浴びてくるといい。特にチンポは入念に洗っておけ」

「まだキミの感覚の余韻に浸りたいんだが」

「排泄器官にデリケートな部位を直に突っ込んだんだ。感染症は性病だけじゃすまないと、言っただろう?」

「行ってきます」

エーミールの言葉に従い、グルッペンはシャワールームへと向かった。

存外素直にシャワールームに入ったのを確認すると、エーミールは大きなため息を吐き、自分のスーツの上着からタバコとライターを取り出した。

灰皿をベッドサイドに置くと、タバコに火をつけ深く煙を吸い込んだ。

タバコを口に咥えたまま、エーミールは手首の傷と背中の痛み、そして肛門の痛み具合を確認すると、再び大きなため息を吐いた。

「クソッタレが……ッ」

セックスの知識も浅く拙いクセに、向けてくる独占欲は人並みを遥かに越えている。距離を置くべき相手だったが、もう遅い。

知識が欲しい。セックスがしたい。それだけなら、まだわかる。だが、グルッペンが自分を欲しがる理由は、それだけではなさそうだ。それはわかるのに、理由はわからない。

グルッペンがエーミールに求めるものの本質は、一体何なのか。

そこに執着の理由があるはずなのに、エーミールにはそこが掴めない。

それにしても。

エーミールはタバコの煙を吐き出しながら、ぼんやりとセックスの最中の事を思い出す。

セックスは嫌いだ。痛いのも嫌いだ。

だが、生きるために、歯を食い縛ってでも耐えなければならない。ずっとそうだった。従順を装い、大人しい素振りを見せて、目を閉じていればいつか終わる。

グルッペンには、それが通用しない。

セックスも、服従させることも、渇望しているクセに、見せかけの従順さは気に食わないようだ。むしろ、正面から敵愾心をぶつける事を、あの男は期待している。

グルッペンの真意を探るためにも、もう少し茶番に付き合ってやるか。




タバコを半分ほど灰にしたところで、グルッペンが慌てた様子でシャワールームから走ってきた。

「どうした?早すぎるぞ」

「ああ、よかった。まだ居たな」

「せめてちゃんと拭いてから、ベッドルームに来い。できれば、もう少ししっかり洗った方がいいんだがな」

「まあ、そうなんだが…。また、エーミールが逃げるんじゃないかと、心配になってね」

子供のような不安げな目でエーミールを見つめるグルッペンに、エーミールは内心呆れるやた可笑しいやらで、ついつい噴き出してしまった。

「おい」

エーミールに笑われたことに、グルッペンは一言苦情を入れるが、エーミールは口を押さえ肩を震わせ静かに笑い続けていた。

「すまない…。もう一本吸ってるから…、もう一回ちゃんと洗って、しっかり拭いてこい」

「……わかった。逃げるなよ?」

「ああ。ただ、ちゃんと洗わなかったら、この先の付き合いは考えさせてもらうがな」

「しっかり洗ってくる。待ってろよ?」

こういう時のグルッペンの姿勢が素直すぎて、本当に面白い。

もう少し、いや、しばらくは観察するのも面白いだろうと思うと、エーミールはタバコの火を消し、笑い顔を浮かべてベッドから立ち上がった。




エーミールの言う通りに、しっかり洗ってしっかり拭いてからベッドルームに戻ってきたグルッペンは、ロッキングチェアに腰かけてミネラルウォーターをあおりながら携帯電話を見ているエーミールの姿に、安堵を覚えた。

だが、当のエーミールはグルッペンに気付いているのかどうかわからないほど、集中して携帯電話の画面を凝視していた。

「今度はちゃんと洗ってきたようですね」

振り返りもせずに携帯電話の画面を見続けるエーミールに、さすがのグルッペンも少しばかり肝が冷える思いがした。

「何しているんだ?」

「学内の有志が作ったコミュニティネットを見ています。さっそく、フランコ教授の行方不明が、囁かれていますね」

「へぇ、そんなモンがあるんだ」

「リテラシーのないバカを炙り出す、いいツールですよ。本名で陰謀論をぶちまけてる擁護派が、ちらほらいます」

「はっはっはっ。あんな奴でも信者はいるんだな。どうする?」

「捨て置けばいい。アイツの講義でしか単位を稼げないような奴らです。すでに他の連中に叩かれて炎上中ですよ。襲撃の後片付けや目撃者は、どうしました?」

「『学長命令』でアイツが学校に来た、夜中の出来事だからな。目撃者はいない」

「それに、ハラスメント被害者は、キミだけじゃない。ウチのコミュニティにも、被害者の家族が何人かいてな。中には自殺者もいた」

「なるほど。私はきっかけに過ぎなかった、というわけですね」

エーミールはそう言ってニヤリと笑うと、携帯電話を閉じ、ローテーブルの上に置いた。

グルッペンはエーミールの背後に回り、背中越しにエーミールを抱き締めた。エーミールは嫌がる素振りを見せず、抱き締めた白い腕にそっと指を這わせて嗤う。

「せめてバスローブくらい羽織っておけ。いつまでも全裸でいられると、理性が保たん」

「理性的でいるつもりなんて、ないんでしょう?」

「……何が目的だ?」

エーミールはグルッペンに流し目を送ると、含み笑いを浮かべてグルッペンの腕を擦る。

「仇をとってくれた功労者をねぎらいたい。では、ダメですか?」

「素敵な提案だな。だが、朝になる前に、行かねばならない所がある。もうそろそろ出るぞ」

「ふふっ。それは残念」

残念と言いつつも、どこか清々した笑顔でグルッペンを見上げるエーミールに、グルッペンは苦笑を浮かべエーミールの頭を乱暴に撫で回す。

「他人事みたいに言うな。お前も一緒に行くんだよ」

「……何処に?」

妖しい魅惑的な色を湛えていたエーミールの瞳が、一気に変貌し、冷徹な色を帯びる。

「フランコ教授と一味を監禁している場所だ。奴等をどうするかの裁量は、貴様に委ねるぞ。エーミール」

「……あなた方にお任せするのでは、ダメですかね?」

「所詮は私刑だ。司法や憲法の及ぶところではない。だが、キミが司法に突き出したいというならば、その限りではない」

「拉致監禁、暴行、脅迫、器物破損。……。普通に司法に持っていったら、こちらの分が悪いですね」

「だな。ついでに言えば、世間に公表すれば話は学校のスキャンダルだけではない。キミがひた隠しにしていた全てが公になる」

「…………」

「わかるな?この件のカタは、司法には任せられない。事情をよく理解し、且つ冷静な判断ができる『被害者』が、断罪すべきなんだ」

グルッペンはエーミールの肩を抱き耳元に口を近付け、小さい声ではあったが『No』と言わせない毅然とした口調で囁く。

「やってくれるな?」

「……。私に冷静な判断が出来るとお思いで?」

「私刑だからな。判断するのは内々だ。キミが冷静であると言えば、誰も文句は言わん」

「万が一にも、外部に漏れたら?」

「すべての責任は、私が負う。学校にも、仲間内にも、そしてキミにも、累は及ばない」

きっぱりと言い放つグルッペンの口調に、断る理由をなくしたエーミールは、大きくため息をつくと首を横に振った。

「……そこまで言われたら、やるしかないですね。いいでしょう」

「ああ。頼むぞ」

「ただ、あなた方から見ても常軌が逸していると思われたら、止めてください。アイツを前にして、正気でいられる自信がない」

「わかった。フォローしよう。俺が無理だと判断したら、キミの意向によらず中断させる」

グルッペンはそう言うと、エーミールの服一式を投げ渡して、自らもまた着替えを始めた。

すでに舞台は整い、傍観者位置にいたはずのエーミールは、舞台に引きずり出される事となった。退路は全て断たれている。

やるしかないのだ。

過去の禍根を全て絶つためにも。

エーミールは深い諦観のため息を吐き、服の袖に手を通した。






【続く】



ressentiment(ルサンチマン) 【完結】

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ゴム着けないと腹下す…ワイの小説のemさんめっちゃ腹下してるやん…

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