コメント
0件
無事に店に戻って来た春香一行は、裏庭へ、直行した。
篭から降りた春香が、童子へ馬の準備を言いつける。
篭かき達は、黙々と上げ底になっている篭から、盗んできた品物を取り出し、並べていた。
「へえー、書き付け……黄良、いいもの見つけたじゃないか……」
ズラリと並ぶ、戦利品に目を細める春香だったが、つと、顔を曇らせた。
「……さて、どこで、さばくか……」
「ああ、足が付きやすいのは、わかっていたがな、どうやら、へそ食っているもの、の、ようだ。奴らも、下手に表沙汰にはしまいて。とはいえ……物が物だけになぁー、俺も、迷ったんだ」
黄良は、盗んできたものを手にとって、仕訳のような事をしながら春香に言った。
「また、蔚山《うるさん》の姐さんに、世話になるか……」
「だなあ……」
一度、南端、釜山《ぶさん》の街へ出て、そこから北上し、蔚山の街へ着く。
そこに、南方では少し名前の通った女商人がいた。
書き付けなど、大きな金になるが、足が付きやすいものは、その女商人経由で換金していた。
春香の立場を理解してくれ、便宜を図ってくれるからだ。
同じ女通し、身を立てるのに何かと苦労するということも理由だろうが、どことなく、馬が合い、気心知れた仲になっていた、というのが大きかった。
「すまないね、今回は、少し遠出してもらうよ」
南原から釜山まで、街道に沿って余日──。そして、そこから、蔚山まで、さらに、一日。馬で行けば、その程度時間がかかる。
もちろん、道なき道をかき分けて、直接、蔚山へ入るという手もあるが危険すぎた。
道のりの悪さもだが、何が出てくるか分からない。
確実に、そして、怪しまれずに、事をなすには、逆に堂々と街道を使って、目眩《めくらま》しするのが一番なのだが、それでも、盗まれた、と、勘づいた相手の追っ手がやってくるかもしれない。
どうあれ、品物のさばき役は、危険と隣り合わせだった。
春香に声をかけられ、篭かきの男達は頷いた。
彼らが、いつも、戦利品をさばきに走る。
黄良は、仕分した物を各々に荷造りし、いかにも、商品のように見せかけていく。
「こいつは、誰が行く?」
手に、書き付けを持ち、黄良は、問うた。
「へい」
と、返事をし、男が前へ進み出る。
「おう、お前なら、あちらの姐さんとも面識ある。すまんが、頼むぜ」
ついでに、こいつを土産にしろ。と、木箱を男へ渡した。
なかには、一目で上質感とわかる、人参《やくそう》が入っていた。
男は、受けとると、器用に底板を外し、書き付けを隠して、薬草売りの顔になる。
「商標札と身分証だ。まっ、いつものように、偽物だがな。何かあった時は、そいつで誤魔化せ」
小道具を黄良が、差し出した。
「さてと、あとは、馬だ。童子、なにやってんだ、今から行くと、夜のうちに、南原を抜け出せるのに、ぐずぐずしやがって……」
馬屋から、うわっー、と、童子の声があがった。