TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
シェアするシェアする
報告する


魔石を沈める場所は、確か灼熱湯だったか?


ここはバヴァルの意見を――


「……あれっ?」

「アックさん、どうしました?」

「いえ、一緒について来てた女性がいなくて……ルシナさん、彼女を見ていませんか?」

「その方でしたらお話の途中で席を外されてましたよ。何も聞いていないのです?」


バヴァルは家に上がる直前、私のことは気にしなくていいですと言っていた。だからといって一言も放たずいなくなるなんて。


「駄目です、駄目です~!!」


奥の方からルティの声が聞こえる。何かあったのだろうか。


「ルティシアのことですから、何か合成に失敗したのではないでしょうか」

「え? そうなんですか?」

「はい。しょっちゅうですから。アックさんはまだあの子の言動や動きに慣れていませんか?」

「少しだけなら……」


ルティは何事にも大げさに騒ぐ娘だと認識しているが、しかしどうにも気になる。


「フフッ。あの子のことを、そこまで心配してくれているのですね?」

「い、いや、まぁ……自分を救ってくれたものですから」

「あの子の部屋は奥です。温泉が部屋の中に湧いていますから、ついでに入られてはいかがでしょうか」

「そうですねぇ。彼女の様子を見た後にでも……んっ? 揺れてる?」

「揺れてますね。ですが、ここは火山の町ですから。しょっちゅうですよ」


それほど大きくは無さそうだが紛れもない地震だ。ルシナさんにとっては慣れた揺れのようで特に気にしていない。しかしどうにも気になって仕方が無いので、お言葉に甘えてルティがいるという部屋に向かうことにする。


「あっ、駄目ですよ!! それはアックさんの魔石なんですよ? そんな勝手に、あっ――!」


切羽詰まったかのように誰かと話をしているようだ。ルシナさんの言う失敗か何かじゃ無い感じに聞こえる。


「どうした? ルティ」

「アックさん! 大変なんですよ!! 魔石……じゃなくて、バヴァルさんが~」

「バヴァルが? さっきまでそこにいたのか?」

「そ、それが~いなくなっちゃいまして」


ルシナさんが部屋の中に温泉が湧いていると言っていた。そこにバヴァルがいると思っていたが、そこには誰もいない。バヴァルがしきりに魔石のことを気にしていたが、まさか持って行かれたのか?


「とりあえず落ち着いて、ゆっくり話してくれるか?」

「は、はい~あのですね」

「むっ!? また揺れが……。大きいな」

「ロキュンテは火山の町ですから! 地震は慣れないとですよ~」

「そ、そうか」


そういえば火山だけは移動して来ていないはず――もしかしてガチャで移動させた町は時間が経てば戻るのでは。


「そ、それよりも大変なんですよ!!」

「何が?」

「バヴァルさんが湯の中に入ってそのまま消えちゃったんです~! 魔石を手にしながらなんですよ!! あの魔石には、アックさんが倒した人間たちが~!」

「魔石を持って? 湯の中ってどこかに通じていたりするのか」


やはりと思ったが、彼女が途中でいなくなったのは魔石が狙いだった。


「わたしの家も他の家も、全て火口に通じてまして。いつでも灼熱の――」

「火口!?」


慌てて湯の中を見ようと乗り出す――が、説明しているルティに勢いよくぶつかってしまった。


「わわわわっ!?」

「あっ――」


なんてこった。


湯の中に入るつもりは無かったのに、彼女ごと押してしまうとは。


「ふへぇぇ……アックさん、服を着たままではお部屋から出られませんよ~」

「ご、ごめん。――ん? 特に何の効果も無いな」


おれは以前、ルティの温泉水で回復し力がついた。しかし温泉に入っても何も変化は起きていない。


「それはだって、そうですよ。わたしが温泉水を使って強めてるだけなんですから!」

「それって、錬金の?」

「色々混ぜてまして~えへへ」


屈託のない笑顔に何も言えなくなる。


それよりもここから火口に通じているなら着たままで行くしかない。


「ルティ、おれは泳いで火口に向かうぞ!」

「ええっ!? 今から火口にですか? すごく熱くなると思いますよ!」

「ここから行く方が近いはずだ」

「あう~あうぅ……母さまには何も言わなくても大丈夫ですけど~い、行きましょう」


いつものことなのか、ルティ自身もあまり気にしてないようだ。地震といい、火口に通じている温泉といい全てがキナ臭い。




「それはイスティさまの魔石なの!! 返して!!」

「いいえ、これはわたくしが預かったもの。もうすぐ時間になります。邪魔をせず、ここでご主人様をお待ちなさい」

「う~!」


湯の中のトンネルを潜り抜け、外に出た。目の前には火山がそびえ立っている。どうやら町の移動には時間切れというものがあるようだ。恐らくだが、ロキュンテの町を出ない限りロキュンテごと戻されレザンス側には戻れなくなるとみた。


「ぷは~……アックさん、早いですよ~あれれ? あそこにいるのは、バヴァルさんとフィーサじゃないですか?」


近くの火山を見上げていたので気付かなかったが、確かにフィーサとバヴァルの姿が見える。


おれはすかさずバヴァルに向けて声を張り上げた。


「バヴァル・リブレイ! どういうことなのか、説明をしてくれないか?」


だがバヴァルは、おれを気にしていないように顔を背ける。


「あぁ、時間切れ……ですね。残り少ない余生を使って責任を果たさなければ……」

「あ、こらっ、どこへ行く~!! イスティさまの魔石!!」


フィーサが止めようとしている。だが少女の彼女では制止すらままならない。そう思っていたら、ルティが「逃がしませんよ~!」と言いながら見事にバヴァルを確保。


彼女によって身動きが取れず、あっけなく観念したようだ。


「なぁ、その魔石をどうするつもりなんだ?」

「アック様。これに封じられた三人のうちの一人。聖女エドラはわたくしの教え子なのです。わたくしにも責任があると考え、魔石を預かったことで更生の機会を頂ければと思います」

「聖女エドラが教え子……? 魔石をどうするかは自由だが、これは裏切りと言われてもおかしくないぞ。どうするつもりなんだ?」

「あなた様のお力とルティシアさん。宝剣と水棲の彼女がいるだけで、何も問題ないでしょう」


バヴァルは落ち着いた表情で淡々と話している。ルティの力で捕まっているのに、逃げられるとでも思っているのだろうか。


しかし次の瞬間――


「あ、あれぇ!? ア、アックさん! お、お婆さんがぁぁぁ!」


バヴァルは着ていた白いローブを脱ぎ捨て、ルティからすり抜けていた。別のローブに着替え直したバヴァルは一瞬の隙をつき、そして――そのまま何処かに消えていた。


もしかして、おれから時戻しのローブを渡された時点で今回のことを企てていたのだろうか?


魔石を彼女に預けたのはおれの責任でもあるが、まさか聖女を復活させようとしていたとは。

loading

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
;