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玄関からだ。
ニュートは飛ぶように体をベッドから起こす
指を拭くと、急いで床に投げていたズボンを履いた。
すると静かにギィ…と扉が開く音がした。
相手は何も喋らない
…まさか魔法使いか魔女の泥棒か?
昔聞いたことがある、魔法界の悪は許されざる魔法を使う者たちだけではなく
金品を盗むようなものもいると。
生きてきて一度も遭遇したことはなかったが…
それなら兄だというのか?
兄ならば帰る時にあちらから必ず手紙が送られてくる。
自分でアロホモラをかけて鍵を開けることができるのに、わざわざ自分の名を扉越しに呼び、開けてもらおうとする。
それならやはり泥棒なのだろうか
そう判断したニュートは、杖を握って待ち構えた。
「くっ…」
まずはアレストモメンタムをかけて相手の動きを遅くして、その直後エクスペリアームスで杖を奪い取ろう。
いや、姿が見えた瞬間ペトリフィカストタルスをかけるべきか?
せっかくの時間を邪魔されたのだから
レヴィオーソをかけてからかうのもアリか?
かける呪文が決まらないまま、その相手は
す…と影を見せた。
「…アレソメンタム!」
あぁ噛んでしまった、きっと相手は燃え上がるか、魔法の効果はなく自分に隙が生まれてしまう…
「プロテゴ!」
力強い声が響く。
それも妙に聞き馴染みのある声で。
「…え?」
声のした方へゆっくりと目を向けると、
杖を人差し指と中指で挟むような独特な持ち方をしていた。
自分が知る中では、その持ち方をしている人間は一人しか知らない。
「ふぅ…いきなり驚いたぞニュート」
間違いない、その紺色のコートも
そこにいるのは愛しの兄だ。
「兄さん…!?」
「あはは、サプライズだ!」
技術は兄に劣るといえど、泥棒相手には勝てるだろうと思ってはいたが
やはり少し不安だった、というか
ずっと想っていた兄に会えて安堵している。
「ほらニュート」
兄が両手を広げると、自分も両手を広げて身を寄せ合う。
これが兄の出張…というか、片方が仕事から帰ってきた時の二人のルーティンだ。
ぎゅ
「ただいまニュート」
「うん…おかえり兄さん」
兄さんの匂い…落ち着くな…
兄の服に顔を押し付けて自慰行為をしたこともあった、それにさっきまで、今抱きしめている相手のことを考えてしていた
そのせいか、中途半端に触った中が再び疼く。
今の自分に恋人の匂いは、刺激が強すぎる。
「も、もうおしまい」
「え?いつもより早いな…?」
明らかに、まだハグをしていたいという顔をしている兄を引き剥がした。
「そ、それよりごめんね?怪我してない?兄さんのことだから大丈夫だとは思うんだけど…」
「大丈夫だよ、そういえばどうして杖を構えていたんだ?まさか僕がいない間になにか…」
「え?な、何もないよ、兄さんは無言で扉を開けたりしないから、泥棒が来たんだと思って…」
「不安にさせたな、すまないニュート…」
「うん、とにかく…兄さんが無事に帰ってこられてよかった」
ニュートはキッチンに向かうと、あのティーカップを棚から出した。
「…あぁ」
「サプライズは嫌いじゃないけど…手紙を書かないなんてことはしないでね?」
「流石にダメだったか」
テセウスは苦笑いをする。
「ダメだよ、兄さんは仕事柄いつも危険と隣り合わせで、手紙が来ないな…って思ったら、他の人から聖マンゴ病院で入院してるって言われることが何度もあった」
「…」
「いつも僕がどうして手紙を書いてくれなかったの?って聞くと、心配かけたくなかった…って言うよね…」
「…結局バレて、心配かけてしまうんだけどな」
「それが当たり前、違う?」
「…え」
「おかしいよ…父さんと母さんと離れて、今は二人でここで生きてるのに、ましてや今は恋人だよ?お互いを信用していかなきゃ成り立たないもの…
それなのに兄さんはこれからも僕に心配がかかるからって、何も教えてくれないの?」
ニュートの右手には、紅茶に砂糖を混ぜ終えたスプーン
その先は震えている。
「…ニュート…落ち着…」
「僕だって大人で!兄さんの恋人だよ?頼ってよ!もっと心配させてよ!」
「…」
家中に自分の声が反響してやっと気づいた。
自分は今、怒っていると。
「…あ…あれ…?今日の僕…おかしいな…怒鳴っちゃってごめん兄さん…今のは忘れて…」
荷物の上に置きっぱなしのコートを掛けようとした手を止めて
その震える背中に駆け出した。
「ニュート!ごめん…お前を泣かせたいわけじゃなかったんだ!」
「違うって…うっ…やめ…て…」
兄の全力の言葉に、溜めに溜めてた涙が
とうとう頬を伝う。
「心配かけないようにって気をつけてた結果…お前がこんなに苦しんでるなんて思いもしないで!」
「やめてって…!ひくっ…」
「もうこんなことはしない!何かあれば絶対に手紙を書くから…許してくれるか…?」
「…本当だよ?約束してね?」
「あぁ、愛してるよニュート」
「…僕も」
静まった直後
怒鳴ってしまった、悪意なんて一つもなかった兄に…
その感情に、全てが押しつぶされそうになる。
そして俯いているとテセウスが背中越しにカップを覗き込んできた。
「あぁ、できたのか!やっと飲めるんだな、僕はニュートの淹れる紅茶が世界で一番好きだ」
ふと横を見ると、いつもの笑みを浮かべる兄の顔があった。
どれだけ自分の気持ちが傷つき、沈もうと
いつもこの笑顔に救われてきた。
「…ふふっ、どうぞ」
そしてつられて自分も笑ってしまうのだ。