ようやくこの日がやってきた。そう胸を弾ませ、バスに乗った。港先輩に会えるチャンスがやってきた。千鶴は高まる気持ちと早すぎる心拍数に驚き胸に手を当て、落ち着かせようとした。だが、そうする度に何故か手が震えて仕方なかった。
シューという停車音とともに千鶴はバス停に降りた。そこには憧れの港先輩が鞄を持って待っていた。
「お!千鶴ちゃん!会えてよかったー!!乗り過ごしたのかなって心配になってたよー!!」
遅れた千鶴に文句一つ垂れることなくその場で丸く収める太陽のようなその暖かい光は何時でも千鶴を安心させる。
「…港先輩!!」
「もう~!ほんと、寂しかったよ~!!」
そう言いつつ髪をわしゃわしゃと弄りまくる港先輩。まるで兄弟のような距離感。今日も港先輩は距離感がバグっているようだ。
「よしっ!!今から松枝スタジオに行くか!」
「っ!?はい!もちろん!!」
そこは弓道具が揃っている松枝店の本店だ。本当に本店が東京にあることを知らずに来ていた。すぐ近くの脇道を通り、急な坂を下り、二人は長い小道を歩く。
ふと、港先輩の耳に穴が空いていることに気がついた。
「あー、これ?ピアスをあけたのよ。つい最近だけど、通信制高校はいいわよ?塾にも通えて自分の勉強できるし、ほら?」
そう言うと、港先輩はスマホの写真フォルダの中身を見せた。そこには弓道場で満面の笑みをした港先輩と、肩を組んだ仲の良さそうな女性が映っていた。
「これ!毎週水曜、木曜、土曜、日曜に来てる恋珀って子なの!!」
とても容姿の整った、袴の似合うその美貌は月のような何処か無機質な雰囲気を感じる。
「ほぉ…凄いですね。」
「この子は本当に上手くて、恋珀はこのスタジオだけじゃなくて別のところでもやってるらしいの!」
千鶴が頷き、相槌を打つ度に港先輩は笑顔になっていく。
「でもね?」
「すっごく繊細で大人しいのよ!見た目に反して、一人称が自分だし!」
そうとう繊細らしく、話す時に言葉を気をつけているらしい。港先輩のようにはっちゃけたり物事をはっきりと明確に伝える力が少々欠けている。言わば、陰キャラのような人だと印象付く。
「今日、日曜日だし会っちゃう?今日、多分いるよ?」
「是非っ!!会わせて下さい!」
「もちろん!千鶴ちゃんの話いっぱいしてるから多分、スムーズに話が進むと思うよ!」
早速、二人は行動に移すことにした。だが、その前に腹ごしらえをしなければ心身ともに疲れていってしまう。結局、紆余曲折あって松枝スタジオの提携カフェで昼食をとることにした。
続く。.:*・゜