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しばらくして、港先輩に一通の連絡が入った。
「あ、恋珀から連絡来たわ。すぐ来るって!」
「あ、じゃあ会えますね!」
「おっけー!千鶴ちゃんのことは説明しといたから安心してね!」
そして恋珀さんはカフェに到着した。容姿が整っている。まるでお人形のようだ。だが、思っていたよりつり目の見た目がパキッとしている見た目だ。予想していたよりも明るそうで安心した。芽依のように人と目を合わせられないような根暗じゃなくて良かったと、思ってしまう。そんな千鶴の前に恋珀が座ると恋珀は
「あ、この子が千鶴って子?」
と、聞く
「あ、うん!私の後輩ちゃん!」
港先輩は目を輝かせつつ、恋珀に接している。この熱意に耐えられる人がいるのか。そう感心する千鶴は軽く会釈した。
「あ、初めまして!恋珀です!」
続けて千鶴も会話をする。その光景が微笑ましかったのか港先輩はみるみるうちに口角をあげて行く。
「んで、本題なんだけど実戦しない?」
「いいね~!!この上に弓道場あるし今すぐやれるね!レンタルだってできるし!」
「千鶴さんはどう思う?」
千鶴は戸惑う。だが、好奇心が押し寄せ誰も止まれない。
結局、松枝スタジアムにお世話になることとなった3人はレンタル弓道具を持って道場に着いた。
「よし、千鶴さんの粗を探しましょうか」
「ええ!恋珀、頼んだよ~!」
「うん!」
千鶴は静かに矢を取り、射場と空を暗転させるように押し、くるりと妻手の筋肉を緩めていく。先手に押された弓はきしきしと、大きく軋む。ふっと勢いよく離そうとすると、
「ストップ!!」
「んぇ……?」
勢いよく止めて先手に力が入る。きつい体勢の儘、恋珀は耳元で
「もう射っていいですよ…」
と、囁いた。
すると、一発で的の中心部に直撃。
「だよね!ちょっと早気気味かも!」
「早…気……?」
「あぁ、口割に来る前に離そうとしてたからさ」
説明が苦手な恋珀はやれていないことだけを伝えてもう一度、引かせた。
射場には矢を放つ音が鳴り響く。その音は鳥のさえずりの様な、美しい音だ。隣で矢を放つ港先輩を見つつ、千鶴は考える。なぜ、このようなことをしているのか。ただ、練習させたくて射場に来た訳では無いことは感覚的に分かる。千鶴と架那は散々、港先輩に振り回されてその時も難しいことを読み解くという回りくどい学びを押し付けられた経験がある。それを今、ここで試すべきだろう。
「なんか…楽し?いかも…」
その言葉を呟くと、港先輩が駆け寄り
「やっと、聴けた!その言葉!!」
と、大きく賞賛した。港先輩と恋珀はハイタッチしていた。
「私は、千鶴に弓道を楽しんで欲しいのよ!!もちろん、恋珀もね!!」
「自分も、楽しさが分からない時期があったから力になりたくて……」
「……先、輩!!」
千鶴は港先輩に抱き着く。
「千鶴ちゃん!……これで、架那と仲直り出来る?」
「……へ?」
そのことを知っていることに驚いた千鶴。問いただしていく。
「あ、メール届いてね?その後に千鶴ちゃんから連絡来たからさ!ごめんね?」
「……大丈夫ですっ!仲直り出来ます!」
楽しい、という気持ちを取り戻した千鶴は嬉しそうにバス停に向かった。
「あ、もうここでいいです。ありがとうございました!港先輩!」
「ええ!そっちで頑張ってね!」
「はい!もちろんです!」
もし、あの時に全てを投げ出していたら千鶴は自分自身について考えることは出来なかったのだろう。この一日で千鶴の心は急成長していった。
続く。.:*・゜