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パーティーから二週間が過ぎた。
あれから何の変わりもなく生活しているので、私は離れで起きた出来事を全部夢だと思うことにした。
というか、あれが現実で起きたとは到底思えない。だって、あんな深夜に美少年が離れにかけられている魔法を解いて中に入り、私と会話していたのだから。
きっと私の欲望が夢に表れてしまっていたのだろう。……ここから逃げ出したい、なんて……。
期待はやめよう。全ては夢。これから二週間以内にあの少年がもう一度来るなんてあるはずないのだから。
私はうんうんと頷き、止まっていた雑巾を持つ手を再び動かす。
今は夫人の部屋を掃除しており、窓を拭いている。
因みに、夫妻とダリアは只今外出中だ。
……と、窓の掃除が終わった。
私は使った雑巾を持って部屋を出る。
井戸に行き、雑巾を洗った。
しっかり絞り、雑巾を掃除道具箱に仕舞いに行こうとすると、通りかかった侍女に話しかけられる。
「おい、お前」
「はい」
私はその侍女の方に向き直った。
「中庭に洗濯物を置いているから干せ」
……またか。何でも私に押しつけて。
けれど、ここで私が拒んでも何の得もない。
私は「……はい」と言いながら、頭を下げた。
するとその侍女はフン、と鼻を鳴らしながら去って行った。
……仕方ない。部屋の掃除をさっさと終わらせて洗濯物を干そう。
それから私は走って部屋に戻り、急いで部屋の掃除を終わらせ、中庭に行った。
そこにいくと、確かにかごに入った山積みの洗濯物があった。
物干し竿をたて、洗濯物を手に取り、掛けようとしたその時だった。
「大変そうだな」
「きゃっ」
突然、隣からあの低い美声が聞こえ、思わずびくっとしてしまう。
声のした方を向くと、そこにはあの少年がいた。相変わらずの無表情である。
一瞬、状況を飲み込めず固まってしまう。
が、遅れて理解し、私は額に手を当てた。
「私ったら駄目ね。仕事中に白昼夢を見るなんて」
「……………………は?」
少年の眉間にしわが寄る。
私は言葉を続けた。
「疲れているのかしら。いいえ、そんなことはないはず。睡眠もちゃんとしたし、食事も……」
「……おい、リリアーナ!」
「っ!」
その瞬間、彼に腕をガシッと掴まれた。
それに目を見開き、彼を凝視する。
ちゃんと掴まれている感覚があり、人の皮膚の温かさも感じた。
え、そんなまさか……。
私は掴まれているもう片方の手で自分の頬を軽くつねる。
……すると頬に、痛みが広がった。それじゃ、本当に……。
「夢じゃない……」
「逆に聞くが、今まで夢だと思ってたのか」
呆れたようなその彼の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
と、はっと我に返る。
「そうだ、こうしている場合ではないわ。早く干さなければ」
急いで手を動かし始める私に、彼は口を開く。
「俺が干そうか?」
「……はい?」
「魔法を使えばすぐに干せる」
と、魔法を発動しようとしてる彼を私は止めた。
「いえいえ、やめてくださいまし。私がします」
「本当にいいのか?」
「はい、私のことですから私がします。あなたに押しつけるわけにはいきません」
「……わかった」
なんとか魔法を使うことをやめさせられたことに安堵し、少し考えて私は口を開いた。
「あの、この後お時間ありますか?」
「ああ、あるが」
頷く彼に、私は微笑んだ。
「それなら私の秘密の場所にいきませんか?」
「秘密の場所?」
「はい」
不思議そうに首を傾げる彼に、私は笑みを深めたのだった。