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架那と会った千鶴は今日の出来事を話した。
「そっか…轢き逃げ犯、絶対許さない。」
憎しみに満ちた瞳がチラつく。架那の憎悪に圧倒されつつ千鶴は更に説明を加えていく。
「ちょっと、学校に行くのも困難だって…当然部活は参加出来ないし、これからリハビリ生活だって……」
リハビリ生活の過酷さを架那は知っている。幼い頃、兄が骨折したという経験がある。しんどそうに歩く兄を支えられるほど精神は強くなかった。架那は静かに頼んだカフェオレを飲んで冷静に窓の外を見つめていた。これから架那も同様に千鶴と一緒にどうしようもない寂しさと戦わなければならないのだから。
芽依のために私達が、部活に芽依の帰られる居場所を作る。そう約束した二人は早々に解散した。帰り道に街の風景に目を向けた。元気な女子高生は楽しそうに食べ歩きをしていて、子供は可愛いハンカチを大人にせがんでいる。小さな鳥は空を自由に飛び交っている。天井にも昇るみたらし団子の残り香を孕んだ煙が空気に混じった。その空気を吸い込んだ千鶴はむせかえった
すぐに家に帰った千鶴は唐突に思考の究極の局地に達した。
────架那とは、敵同士の方が楽かもしれない
そして千鶴は手に持っていたスマホを軽やかなリズムで操作していた。
『架那』
と、すぐに既読がついた。
『なに?』
架那のチャットは無感情だ。だから会った時のギャップに脳死する。
『あのさ』
震えた指を気にしつつグッと力を込めて文字を打った。
『私、架那にだけは絶対負けない』
そう打った。あぁ、架那に嫌な思いさせちゃったかな。千鶴は涙ぐみつつ架那の返信を待っていると既読と同時に通話申請がきた。メンションし承諾した千鶴は通話に出た。
「ねぇ?千鶴、どうしたん?」
「あ…」
言葉につまる千鶴、架那の機嫌を損ねたくなかった。
「別に私も負ける気は全くないけどさ?」
深呼吸しても声は震えるばかりで恐怖は消えない。反抗したことなんて人生で一度しかない。ならばこの出来事で一度、リセットして自分を見つめ直そう。そう決めた千鶴はごくりと飲み込み
「芽依の居場所を守るために本気でやる…ううん、やりたい!って思ったの」
と、勢いに任せて架那に伝えた。すると千鶴のイヤホンから笑い声が聞こえた。
「私も負けないよ!」
架那と千鶴は最高の友達と最高のライバルになった。そのことを芽依が知る由もなかった。