雪乃が連れてこられたのは、薄暗い校舎裏。
雑草が生い茂るフェンスの張られた場所で雪乃は3人に取り囲まれる。
「出てこい、タチフサグマ!」
加島と名乗った一番大柄な男が不意にボールを投げる。
そこから出てきたのは、ていしポケモンのタチフサグマ。
他の2人もそれぞれエレブーとゴロンダを繰り出した。
「…随分と物騒ですね」
「なに、観客は多い方がいいだろう?」
「で、用ってなんですか」
完全に取り囲まれた雪乃は臆することなく尋ねる。
「クックック。馬鹿め、のこのこ着いてきやがって」
大柄な男が笑い出す。
「俺は加島なんかじゃねぇよ、バァカ!お前は兄とは頭の出来が違うらしいなぁ!」
…兄?
なるほど。春翔のことを言っているらしい。
雪乃は静観する。
「さぁて、どう料理しようか」
「こちとら鬱憤が溜まってんだ」
「そうだなぁ。あの腹の立つ男にお返しができる絶好のチャンスだからなぁ」
舌舐めずりをして雪乃を見る男たち。
雪乃はこいつらの狙いが読めた。
「うちの兄が何か、失礼を働いたみたいですね」
「あぁ、テメーの兄貴は人間の心を持たねぇひでぇ奴だよ」
エレブーの隣にいた男が言った。
「俺たちのことをゴミの掃き溜め扱いしやがったんだ、価値のない、何の生産性もないアホどもってなぁ!」
「………」
聞いていて雪乃は何も言えなくなる。
確かに人間の心が無さすぎる。
しかし人伝に聞いた話なんてあてにならない。
春翔は確かに冷たいところもあるが、人の心までは失っていないはず。
「それはそれは、うちの兄がとんだ失礼を致しました。代わりに謝罪します」
「うるせぇ、こちとらそんなもんじゃ収まんねぇほど憤ってんだ!謝罪が欲しい訳じゃねぇ、俺らが見たいのはあいつの情けねぇ表情さ!」
空気が張り詰める。
いつでも襲いかかる準備は出来ているらしい。
しかし学園内での許可のないポケモンバトルは禁止されている。迂闊に手は出せない。
「残念だったな妹。お前は餌にされるんだ」
「とりあえずお前をボコボコにして、そしてその写真でもあいつに送りつけるか」
「それだけじゃ足りねぇ。こいつをひん剥いて写真撮ってそれであの野郎を脅して、一生奴隷にしてやる」
楽しそうに笑う男たち。
………春翔を、『脅す』?
「おい、クソゴリラ」
雪乃が口を開いた瞬間、大柄な男の喉元に、鋭く尖った小枝が突き付けられていた。
「ーーーっ!!!」
男は声が出なかった。
枝が今にも刺さりそうというのもあったが、それより恐ろしい双眸がこちらを睨みつけていたから。
赤い髪を揺らし、黒いマフラーで口元を隠した少女が纏っているのは間違いなく殺気。
何の迷いもない瞳で、男を静かに見ていた。
「今、なんて言った?」
大柄な男は答えることができず、他の2人に助けを求めるように見た。
…何故か他の2人も身動きが取れなくなっていた。
いつの間にか出てきていた、雪乃のエーフィにより。
タチフサグマもその状況に、一歩も動けない。
…一瞬で、場を掌握された。
たった1人に。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!