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この物語が続くか続かないかは私の気分次第です。好評だったら続けるし好評じゃなくとも暇だったら続けます。設定捏造の嵐です。
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目の前に居たのは一人の小さな子供だった。誰かも分からない屍に坐り、懐から盗んだ握り飯を無造作に食べている。だが握り飯には屍の血がへばり付き温もりさえも消え失せたただ堅い米となっていた。
その光景は実に残酷で心苦しいもの。透き通った銀色の髪と体中に染み付く血液の色を凝縮したような真っ赤な瞳。目を合わせればまるで空洞が空いたような空っぽな目をしている。その瞳からは吸っても吸いきれない闇と誘い掛けるような恐ろしい殺気が見えた。もう一度言うがこれはたった一人の子供の現状であった。巷では鬼子、忌み子、化け物と蔑まれたその子供は奪ったであろう刀を大事そうに抱き締めている。子供の周りには無数の屍が散乱していた。きっとその刀で斬ったのだろう。殺し、奪い、生きる、その手段しかこの子供は知らないのだから。私は警戒心を強める子供の頭を撫でる。何をされているか分からない少年は少し焦りを見せた。今までの大人とは違い、殺意も罵倒も無いただただ我が子を愛でる母のような男。亜麻色の長い髪は風で靡き、少年に影を作る。腰の刀を抜こうともしない男に少年は疑問を隠せなかった。何故襲わない、何故斬らない。俺は鬼だ、誰からも必要とされない天涯孤独の醜い鬼。誰彼構わず斬り食らう。鬼の容姿をした子供。男はずっと微笑んだまま。その太陽のような微笑みの裏には何があるのだろうか、俺はゴクリと喉を鳴らす。そんな事を考えている時、男は腰の刀に手をかけた。斬られる、と察したときには俺は刀を抜いて男に向けていた。だが男は刀を俺に投げ付ける。
「そんな刀捨てちゃいなさい」
そう言ってまたニコリと微笑んだ。
俺はただその男の背中を追って歩いた。渡された刀を抱いて、道を辿る。夕日が出てくる頃に男は俺に尋ねた。
「あなた名前は?私は吉田松陽といいます」
枝で土にしょーよーは名前を書く。字すら読んだことない俺にはその歪なものがなんというかは分からない。だが初めて覚えた大切なものだと思った。よしだしょーよー、俺は脳内で復唱した。
尋ねられた名前というものを思い出そうと記憶を駆け巡らせるが、全く分からない。ただ思い付いたものと言えば町で呼ばれた名前。
「、あまんと、いみこ、ばけもの」
親も知らぬ俺が自分の名を知っている筈も無く、俺はその複数の呼び名を口にする。するとしょーよーは少し眉を下げる。
「それは名前ではありませんよ、無いなら付けましょう」
人差し指を立ててしょーよーはそう言った。自分の名前に続けるように「銀太」「銀助」と書く。
「君の髪色は綺麗な銀色です、私はその美しい銀を君の名に残したいと思います、そうですね君にはその銀色と共に限りある時間の中を歩んで欲しい、銀時、吉田銀時、我ながら良い感性だ」
しょーよーはそれから俺をぎんときと呼ぶようになった。それはこの人が俺にくれた最初のもので、ずっと大事にしようと心に誓った。山を登り、狩りをして、しょーよーの腕の中で眠る。少しの不幸は俺にとって蚊に刺されたような痒さだった。この人と吉田松陽という人間と共に過ごす時間一秒一秒が俺の宝物となっているからだ。歩く度、俺は成長して、褒められて、笑って、幸せである。言葉を覚えると松陽は頭を撫でてくれるし、文字を書いたら沢山褒めてくれた。あぁこの人と居る時間はドコまでも温かく穏やかだ。
「ちちうえ!」
何時しか俺は松陽をそう呼んでいた。最初にそう呼んだとき、父上は手で顔を覆って溜息を吐いたものだから気に障ったのでは無いかと戸惑った。だがその後に俺を抱き締めてくれて安心した。
そんな或る日の事だった。俺と松陽はとある町で団子を食べていた。松陽は大好物の甘味を頬張る俺を見て頭を撫でる。俺は嬉しくて目を細め、その後残った二本の団子を父上に差し出した。
「ありがとう銀時、銀時は優しいですね」
「ぇへへ…ちちうえ、よろこぶ?」
「ええ喜んでいますよ、とっても嬉しいです」
そう言って差し出された団子をゆっくりと味わい、ゴクリと喉を鳴らすと父上は少し怖い顔をして俺を見た。
「銀時、私達は今何処に向かっているか分かりますか?」
「?…わか、ない」
銀時と松陽が出会い数週間只管ぶらぶらと道を歩いているだけかと思っていた銀時。目的地があるのだろうか?
「ふふそこは″わからない″ですよ、銀時私達が今向かっているのは萩というところでしてね私が君と出会う前に住んでいた場所なんです」
その言葉に銀時は目を丸くする。松陽には帰る場所があったのだ。なら俺はその居場所を奪っているのではないかと罪悪感が芽生え始める。俺は離れることが怖くて、恐る恐る尋ねた。
「ばしょ、ちちうえ、かえる?」
「ええ、萩で私は私塾を開いていて君と同じくらいの年頃の子達に学や剣を教えているんですよ、今は村の人達に授業を受け持って貰っていますが帰ればまた再開しようと思っているんです」
なんと子供達までいた。銀時は目の前が真っ暗になった。きっと自分は邪魔に違いない、松陽が帰る居場所も松陽の帰りを待つ子供達も奪っていると、俺は俯く。
「…ちちうえ、ぎん、じゃま、かえる、じゃま」
「いいえ邪魔なんかじゃありません、銀時は私の大切な息子ですから、私が言いたいのはですね銀時、君にその塾の門下生になって欲しいんです」
「もんかせー、ぎん、できない、ぎん、じゃま、ぎん、めいわく、ちちうえ、かなしい」
すると松陽はそんな自暴自棄な俺を宥めるように優しく俺の頭を撫でた。
「できますよなんたって銀時は天才肌ですし、それに私は銀時を邪魔や迷惑だなんて思った事はありませんよ?銀時はこんなにも可愛くて良い子なんですから私が放したくありません!銀時が私から離れたいと言ったら…私悲しいです…」
「かわいいちがう、いいこちがう、でも、ぎん、ちちうえ、かなしいいや、から、もんかせー、できる 」
「ふふありがとうございます」
付いたのは長閑な田舎町。コチラを見ている大人達がそりゃまた怖くて父上の服にしがみ付く。それに気が付いたのか父上は俺を刀と一緒に負ぶってくれて、俺は安心して町を見渡せた。
「ささ、銀時ここが私達のおうちですよ」
「おーち?」
「いいえ、おうち、です」
「おう、ち!」
「偉いですね」
一先ず荷物、と言っても俺は父上から貰った刀だけだし、父上も全くの手ぶらであったが懐にしまっていた物などを直してお茶を飲んでいた。すると父上は俺に尋ねる。
「明日早速塾に戻ろうと思うのですが銀時も下見に来ますか?子供達に君の事を紹介したいですし、それに人と関われる良い機会になるでしょう」
その問いに答えようとするが、湯飲みを持つ手が震える。大人と違って子供は小さい上明るい。父上の教え子達だしきっと優しい子ばかりなのだろう。だが、奥底にある人への恐怖が未だ冷めず、獣がグルルと威嚇するように鳴いていた。
「…ぎん、こわい、ひと、こわい、ぎん、あたま、ぎんいろ、おめめ、まっか、ちみたい、みんな、こわい、おもう」
俺は自分を人として認識することができない。自分の気味の悪い髪色も血の色をした目も大嫌いな色だ。でも父上はそれを褒めてくれて、綺麗って撫でてくれて、好きになれたと思ったのに、ずっと、ずっと俺という鬼が否定を重ねた。
ごめんなさい
あなたが褒めてくれたこの自分を好きになることは一生できない
あなたが守ってくれた体を大事にすることなんてできない
あなたが肯定してくれた俺を同じように認識できるなんてでない
ごめんなさい
ごめんなさい
「銀時、あなたがあなたを認めなくとも卑下しようとも、君は君です、吉田銀時という一人の臆病な子供を知っている私にとって君はそこらに居る無邪気な子供達と変わりありませんよ、それに君は求めない、求めようとせずただ求められる、たわいもない日々を送れることに喜んでいる、それだけでいいじゃないですか、誰もがこんな日々を送れるわけじゃない君が一番よく知っているでしょう?それでいいんですよ、それで君は君のままでいればいい」
知っている、誰よりも
泥でも血でも汚れた地べたを這いずって生きてきた俺ならよく
温かいご飯もふかふかの布団も
幻覚のようで
堅く冷えた米でも雪の積もった山の中でもない、ただ奇跡のようなその日常
「ぎん、しあわせ、ぎん、もんかせー、なる、でも、こわい、ぎん、すごい、こわい」
「慣れましょう、私と関わるのだって慣れることができたでしょう、ゆっくり、君の歩幅で自分の進むべき道を歩くのです」
俺の道は狭く遠く凍った道、だがそれは道とは言えないばかりの沼で、進めば進むほど沼の中に沈む、目の前が暗くなる
辿り着いた先には、大きかった背中がなくなっていた、俺より縮んでしまった体
体?体なんてドコにもない、目の前にあるのは大好きな人の笑顔と、誰のものかも分からない耳が痛くなるような叫び声だった
父上を
先生を
師匠を
恩人を
この薄汚れた手で
取りこぼしてしまった
ごめんね兄さん
ごめんね姉さん
ごめんね父上
結局幸せな時を壊すのは自分であった
「…ぁ、…」
目が覚めると見慣れた天井。荒い息が耳をザワつかせ、胸に痛みを貫通させる。悪夢。近頃夢見が悪い。いや、もともと悪夢しか見ない体であったのが悪化してしまったのだ。日常にヒビが入る夢。入ってしまった夢。
この手から、温もりが抜け落ちる夢。
「…」
日に日に蓄積されるその疲労に頭が痛くなる。震える手も荒くなる息も強張る体も、全て憎らしい。
「あーくそ…、今日は真選組の依頼だったか…準備しねーと…」
僕達は銀さんに触れたことがない。いや触れることができない。手を繫ぐことも抱き締めることもできない。何故か銀さんはいつも僕達を避ける。肩に手を置こうとしても、起床時に体を揺さぶるときも、彼からその警戒心は解けない。彼に触れれば、今にも壊れてしまいそうで、怖かったから。彼のその目には何が映っているのか、僕達は彼の背丈に合わせたかった。
「定定公直々の依頼ですか?!」
今まで屋根修理や障子の張り替え等の依頼を受けていた真撰組から電話があった。詳細は屯所で話すと言っていていて来てみれば定定公からの依頼であることに驚くことしかできないでいる。
「あァ報酬は幾らでも、それに怖いくらい簡単な仕事だ」
「胡散臭ェな」
定定公、銀時にとっては頭が痛くなる名である。だからソイツからの依頼なんて真っ平御免被る。それに報酬も弾み、尚且つ簡単な仕事だと言う悪趣味老い耄れの化けの皮が外れたような気がした。
「何言ってるアルカ銀ちゃん!そろそろ私の胃袋も限界ヨ!」
「テメェの胃袋にコッチの食費も限界迎えてんだよバカ」
だがかと言って子供達の食費、夜兎の胃袋に収まる食費と家賃、今金が無いというのは事実だ。俺達は数週間この状態であるが、俺にとってこの依頼は無に等しくもある。
「いいか、拒否権が無かろうと俺はやらねぇいややりたくねぇ、話はそんだけだろ俺は帰る」
「ちょ万事屋!」
近藤が銀時を止めることもできず、銀色は客間から姿を消した。残る者達に流れるのは沈黙。汗を流すものも居れば俯いている者も居る。
「…おいメガネとチャイナ、旦那はどうちまったんでィ」
だがその沈黙もいとも簡単に破ったのは沖田。普段とは違う冷徹な銀時の様子に沖田も不自然さを覚えたのだろう。
「知ってたら私達も苦労してないネ、」
「はい、銀さん食事も催眠も真面に取ってないようで最近は本当に死体みたいになってるんです、それに…」
「…前以上に離れてるアル」
「チャイナさんそれはどういうことだ?」
意味が分からず近藤が神楽に問い掛けると、少し躊躇う動きをして口を開く。
「…私達銀ちゃんに触れたことないヨ、銀ちゃんいつも触れないように私達避けてるからアル、でも前にちょっと触れたネ、ふかこーりょくってヤツアル、そしたら銀ちゃん私の手振り払って逃げるみたいに外に出てったネ」
真撰組一同は驚く。普段あんなにも仲が良い家族が手すら繫いだことがなく、況してや繫ぐことすらもできないとは。思い返してみれば、真撰組の人間も坂田銀時という男に触れたことは一度も無かった。鬼の副長土方十四郎と剣を交えた時や手錠で一日を過ごした頃は災難であっただろうが、今思えばあの男はまるで触れることを恐れるかの様に日々を過ごしている。
「すみません暗い話気にしないでください…あの、良ければその依頼僕達で受けますよ何度か各々で依頼を熟したこともありますし、簡単な仕事なんですよね?」
「あ、あァ、数年前に燃えて未だに残る焼け跡の撤去だ、元は無償で手習いを教えていた小さな塾だったそうだぞ」
重苦しい空気を一瞬で切り替え、新八は危うい万事屋の状況を変えようと依頼を受け持つことにした。依頼内容は本当に簡単で燃えた柱の撤去だけだそうだ。だが何故そんな小さな塾一つで定定公が動くのだろうかと疑問を抱く。
「、予定としちゃ明日出発でさぁなんたってその塾どうやら萩にあるそうなんでね」
万事屋に帰ると銀さんはソコには居らず、気になってお登勢さんに尋ねると何やら用事があるから数日間は居ないそうだ。丁度良いと思い、お登勢さんに依頼内容を説明して万事屋が留守になると伝えた。
迎えた当日、電車に乗って長閑な田舎町に足を踏み入れる。どうやら真撰組も同行するようで、帯刀し隊服ではなく無地の袴を纏っていた。
「ほんと田舎なんですねィ、武州を思い出すや」
「綺麗…都会に慣れてるからかこういうところ落ち着きませんね」
そんな自然に見蕩れていると冷ややかな感覚が体を貫く。なんだと僕達はまた周りを見渡す。
───あの人達よ塾を撤去しにきたの…
───元生徒の子達昨夜泣いていたわぁ…
───攘夷志士にならなかったとはいえお辛いでしょうねぇ…
───血も涙も無いわよね
───先生が残した唯一のものだもの、私達も悲しい…
───先生ならきっと笑顔で居るだろうなぁ…俺達は最後までちゃんと見届けねばな
町の人達がコチラを見てヒソヒソと話していた。僕達は何をしたのだろうかと、苛立ち混じりの視線や慌てる様子が伺える。
「ちっ、なんだってんだ」
「そうアル!私達ただ定定丸に頼まれただけネ!」
「定定公ね神楽ちゃん…」
「まぁ早めに行きやしょう、ちゃっちゃと帰りたいんで」
そうして渡された地図を頼りに目的地まで急いだ。
そして目的地。何やら燃えて焦げた木々が見える。だがその前に立つのは数十人の子供や大人達。
「おい邪魔だ」
土方さんが退くように言ってもコチラを見て断固として動かない人達が居る。睨んでる者も居れば申し訳なさそうにしている者も居た。するとその中の数人が頭を地面に擦り付けた。
「どうかっ…どうかっ…この塾だけは撤去しないでください…っお願いしますっ…私達の首なんて勝手にしていいからっ…この場所だけは…」
お願いします、お願いします、と涙を流して女性は乞う。僕達は状況が掴めずに心を痛める。
「頼まれたってこれは幕府からの命令だ、断るわけにはいかんのだ、」
「…もう我慢ならねぇ!これだから幕府は嫌いなんだ!俺達から全てを奪って…!返せっ!俺達の、俺達の…!」
「やめろって…こらっ、暴れんなっ…!」
「お前等のせいでっ!お前等のせいでっ!兄さんや姉さんもっ…!先生もっ…!返せよっ!」
「やめろ」
僕達に殴りかかろうとする男の子を引き止めている子もその場の全員が固まる。聞き覚えのあるその低い声が耳を通ると同時に前の大勢の人達も硬直した。
「銀さん…?」
「久坂落ち着けよ、ほらいつもの優しい顔はどーしたぐちゃぐちゃになってんぞ、恵も楓も泣くなほら大好きなにーちゃんが居るぜ?大きくなっても子供のまんまか?太郎テメェも泣くんじゃネェほら抱っこしてやる、お、てめぇらもか?はは、後でやってやるからそうあせんなあせんな笑ちょっとちょっとにーちゃんは一人なんだからそんなに一気に来られちゃ対処できませーん、おい久坂、鈴美、も手伝えよ」
「う゛ぁあああああ゛!!!!ぎんにぃ゛!!」
「ぎんにぃ゛っ…!!!!ぎんに゛ぃ!!!!」
寺子屋の前で険しい表情をしていた子供や大人達は一瞬にして崩された。坂田銀時という男の存在を見るなり、子供も大人も我武者羅に彼の胸や背、360度から飛び込み、泣きしゃぐる。ぎんにぃぎんにぃと連呼しながら小さな拳で駄々を捏ねるように叩いたり、また連呼しながら顔を擦り付けたり。僕達はそんな状況に呆然と立ち尽くしていた。
「万事屋…?」
「旦那…」
「銀さん…?」
「銀ちゃん…?」
すると飛び込む者達を宥めるように抱き上げたり撫でたりしていた男はコチラを見た。一瞬何もかもを捨てた空っぽな笑みを浮かべて、いつもの腑抜けた面に戻る。
「おいてめぇら、この幕府の人達と話すから澄美さんに連れてくこと行って来い、俺数日間はここで居るから」
「…うぅ゛…ぎんにぃ、絶対うちきてね…?」
「ぎんにぃ遊んでねっ…?」
「俺…ひくっ…銀の代わりに子供達の世話頑張ったんだっ…ぅ゛ッ…話きいてくれよっ…うあァ゛…」
「へいへい、分かったから泣き止めって、にーちゃんは皆の笑顔が見たいなー…?、ほらここで泣いたら先生も困るだろ笑っとけ笑っとけ」
皆は弱々しい声ではぁいと返事をして各々家に帰り、澄美さんという方に伝言を伝えようとする数人の子達も走って何処かへ行ってしまった。残された僕達には寂しくギスギスとした沈黙が流る。
「…さぁて、んま話は屋内で頼むわ色々俺からも話してぇし」
「ふふ、坊ちゃんも随分と大きくなられて…澄美は嬉しいですよ」
「坊ちゃんとかやめてよ…澄美さんも変わってないね、若い若い」
「あらお世辞はいけませんよ?」
「俺がお世辞言うタチに見えるか?ホントの事だよ、そんで部屋用意してくれた?」
「ええ、伝えなくとも坊ちゃんの為なら直ぐにでも用意いたしますよ」
「おそりゃ嬉しい、ありがとな、てめぇら先に部屋に行っといてくれ俺は後から行く、澄美さん俺旦那さんに挨拶してくるから」
「畏まりました主人も喜びます、ではお客様お部屋に案内致しますね」
「あァよろしく頼む 」
澄美さんという女性に連れ、長い廊下を彼女の背中を追うように歩く。この町の中では最も大きな旅館で、野外で見たときには驚いた。そのせいか今は案内される部屋はどんところかという興味で胸躍っている。
「貴女方は坊ちゃんのお友達ですか?」
すると澄美さんは慣れた様に廊下を辿りながらそう僕達に質問した。端から見れば僕達はそう見えるだろう、だが…
「僕とこの子は銀さんの家族です」
「俺達は腐れ縁だな!」
それだけは胸を張って言えた。血が繫がって無くとも僕達は大切な大切な家族である。そんな答えでも良かったのだろうかと昔馴染みであろう澄美さんの顔を伺う。彼女は微笑んでいた。銀さんが若いと言った時も思ったが相当な年をしているにも関わらず日輪さんに負けず劣らずの美貌を放っている。その笑みがなんだか、姉上と重なって僕達は少しキョトンと目を丸めた。
「ふふそれは喜ばしい、坊ちゃんが独りで無くてわたくし澄美は安心します、どうかこれからも坊ちゃんの隣でずっと居てあげて下さい」
「それってどういう…」
また問おうとするが遮るように部屋に到着し、僕達は座布団に座った。壁に掛けられた掛け軸、手前に置いている洒落た壺、銀さんはさっきの女将さんとはどういう関係なのかと頭を悩ます。だが歌舞伎町での顔の広い銀さんが脳裏を過り、また後でなんてなってしまった。
「ふぅ待たせてごめんねー、まさか翠さんも来るなんて思っちゃ居なかったわ、澄美さん案内ありがとねもう行って良いよ旦那さんに手土産渡してあるから一緒に食べてね」
「あらそんな良かったのに、ですが美味しく頂きますね」
澄美さんは綺麗にお辞儀をして、部屋を出る。銀さんは手を振って、切り替えるようにコチラを見た。
「ンで、話なんだけどてめぇらはアソコで何してたわけ?」
「先日旦那に定定公の依頼したでしょう?依頼内容があの寺子屋の焼け跡の撤去だったんです、撤去しようかと行けばあの大人数に止められてって感じでさぁ、こっちからも質問良いですかい?」
「いいよ」
「旦那はここで何してたんです?それにあの大人数とはどういう関係でィ」
沖田さんが淡々と説明をして、それをまた質問へと返す。銀さんは妙な笑顔を見せて、その問いに答えた。
「萩は俺の故郷、里帰りってやつだ、あとアイツらはなぁ…んー家族みたいな兄弟みたいな…まぁ俺の可愛い妹とか弟みたいなモンだ…それにしても、ほんとその依頼受けなくて良かったわ、相変わらず定定公も悪趣味な性格してて安心した、ま結局はそこのガキ二人が受けたんだろうけどな」
ここが故郷だと言うことに驚きながらも、後の発言に僕と神楽ちゃんはギクリと飛び上がる。社長である銀さんに黙って依頼を受けたにも関わらずこの始末、怒られるのではないかと顔を上げずにいた。
「…はぁ…まぁいいや、この部屋好きに使って良いらしいから撤去行くなら行くで早く済ましたら?子供らは俺達が説得しとくからせいぜい汗水垂らして頑張れや、さっきも言ったとおり俺はあと数週間はここに滞在するから気楽にやっときな、なんかあったら翠さんとか澄美さん旦那さんも居るし、あここの飯美味ぇからまじ食べてみろタダで食わしてくれるってよ俺に感謝しな」
「いやいや旦那なんで俺達が宿泊する前提で話進めてんでィ、依頼終わったら帰りますぜ」
「あ、そうなの?ならさっさと仕事終わらせるこった」
「それをさっき止められたんでしょうが…」
「んじゃ、アイツらにも手伝わせるよ、翠さん居るんだろコイツら向かわせるついでに子供達も呼んできて俺は後から行くから」
すると隠れていた翠さんという老婆が顔を出した。
「ふふ畏まりました、銀坊は先生のところに?」
「いやにぃさんとねぇさんと一緒に来てるから和絵さんとこの食堂で昼飯食う、先生のところは行くつもりねぇし」
「あらお兄様に怒られるでしょう?」
「まぁな、んじゃ怒られたくねぇし俺は行くわてめぇらも頑張れよなんかあったら村の人達に行けば色々教えてくれっから」
パタンと襖が閉まると、数秒間気まずい沈黙が流れてそれを無理矢理破るかのように翠さんが問い掛ける。
「先にご食事になさいますか?腹は減っては戦はできぬ、是非食べていって下さい」
「いやぁ、本当に美味かったな!新八君!」
「えぇ、神楽ちゃんも沢山食べれてよかったね」
「ごっさ美味かったネ!銀ちゃんが褒めるのも分かるヨ!」
「それにしても旦那の故郷が萩たァ驚きましたねィ、それに兄弟と里帰りしてるようですし」
「アイツの兄弟なんぞ想像が付かねぇな…」
食事が終わり、長い廊下をスタスタと歩く。腹が膨らんだことで仕事に戻る為先程の出来事が脳裏を過る。
『萩は俺の故郷、里帰りってやつだ、あとアイツらはなぁ…んー家族みたいな兄弟みたいな…まぁ俺の可愛い妹とか弟みたいなモンだ…それにしても、ほんとその依頼受けなくて良かったわ、相変わらず定定公も悪趣味な性格してて安心した、ま結局はそこのガキ二人が受けたんだろうけどな』
『いやにぃさんとねぇさんと一緒に来てるから和絵さんとこの食堂で昼飯食う、先生のところは行くつもりねぇし』
坂田銀時の昔の家族。好奇心というのは抑えるのが難しいのか皆は揃って見てみたい、と言った。
「い、言っとくが、ぎんにぃがやれって言ったからやってるんだぞ!幕府なんかに手貸すわけないからな!」
「ちょ太郎…すみません…まだちょっと寂しくて…私は恵っていいます次女です、銀時兄さんが私達に頼み事してくれたことが嬉しくて皆不本意な反面すごく喜んでるんですよ、なので気にしないであげてください」
「ええそうしてください、さっきはその…怒鳴り付けてしむってすみません…銀時が居なきゃ俺あのまま斬りかかってるところでした…ほんとすみません…是非俺達にも手伝わせてください!」
塾に戻るとあの大勢の人間が頭を下げて謝罪の言葉を並べていた。神楽達は思う。
ぜったい 銀さん / 銀ちゃん / 万事屋 / 旦那 の兄妹じゃない
「へっくしゅっ…」
「銀時風邪かァ?」
「無理はいけない、少し休憩しましょう」
「うむそうだな、銀時アソコの甘味処で一息つこう」
「だな、銀時おぶってやろうか?」
「にぃさん達…風邪引いてないから……」
そこに居たのは紛れもない
吉田松陽の弟子達であった
続くのか………???
10500字