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レインの次の標的は、森林豹と呼ばれるネコ科の見た目をした俊敏な魔物だ。
森林豹は木から木へと飛び移るため、討伐には複数の人間で取り囲み、逃げ道を潰していくことがセオリーとなる。
レインの他に、その森林豹を狙う者達が森を徘徊している。
レインより早く森林豹の縄張りを見つけた討伐者達が、その範囲網を狭めているのだ。
森林豹の痕跡を見つけたレインは、普段と変わらぬ足取りで森を進んでいく。
「そっちに行ったぞ!」
「任せろっ!」
レインより先にこの討伐依頼を受けていたシルバーランクの魔物狩り達が、森林豹を追い詰めているのが、レインの視界に入った。
勿論、レインにこの依頼がダブルブッキングしていることは知る由もない。
自身の獲物の近くに他人がいるが、レインはそれでもお構いなしと、普段と変わらぬ足取りで森を進む。
森林豹の強さはそれほどでもない。もちろん常人には脅威ではあるのだが、シルバーランクの魔物狩りで遅れをとる者はいない程度でしかなかった。
脅威となるのはその俊敏さ。
それさえ潰してしまえば、彼らの敵ではなかった。
横槍さえ入らなければ。
ザシュッ
レインが近くの大木を斬りつける。
レインの大剣で斬られた木は、ゆっくりと倒れていく。
その大木が向かう先には、森林豹を追い詰めた魔物狩りの姿が。
「うおっ!?」
ザザァッ
ドンッ
「何だ!?どうした!?」
彼等と森林豹の間に倒れた木により、彼等の視界から森林豹が姿を消した。
邪魔が入らなくなったことを確認して、レインは自身の脚部に力を入れる。
ドンッ
脚部に溜まった力を解放すると、鈍い音を残し、その場からレインは消え、何が起こったのか分からず、キョロキョロと周囲を確認している森林豹に肉薄した。
キンッ
レインの大剣は、漸くレインに気付き牙を剥き出しにして応戦しようとしていた森林豹の牙ごと、その首を跳ね飛ばした。
レインはまだ血が噴き出ている身体にナイフを刺し、魔石を抜き取り、討伐証明用の牙を拾い上げる。
そこまでして漸く、魔物狩り達がレインを見つけた。
「おいっ!それは俺達が見つけた森林豹だぞ!」
「無慈悲!まさかお前があの木を…!」
「どこに行く!まだ話は終わっていないぞ!」
レインに男達の声は届いていない。耳には入っているのだろうが、それは思考にも気持ちにも届いてはいなかった。
「止まれぇぇえ!!」
ヒュンッ
男達を無視し、森に消えようとしているレイン。そのレインに向かい、一人の男が腰に差しているナイフを抜き、投擲した。
流石高ランクの魔物狩り、そのナイフは寸分違わずレインの背に迫る。
キンッ
大剣は背中に背負っているため、すぐには抜けない。レインは背後から迫る殺意に機敏に反応し、解体用ナイフでそれを叩き落とした。
落ちたナイフを一瞥したレインは、足取り変わらず森を行く。
「て、てめぇ!!」
「おいっ!どうすんだ!?」
「これまでは関係なかったから放っておいたが、高ランクが馬鹿にされて黙っていたら示しがつかねぇっ!」
じゃあ…
誰かが呟いた言葉に、一人の男が答える。
「殺るぞ」
「…おう」
「ぶっ殺してやるっ!」
三人の男達は殺意を剥き出しにし、レインへと迫っていく。
「これが最後通告だ。荷物を全部渡せ」
レインの進行方向を塞いだ一人の男が、怒りの形相でそう告げた。
背後からは、二人の男が剥き出しの刃をレインへと向けていた。
「…本当に何も喋らねーんだな。気持ち悪い奴」
男が前を塞いだところ、レインの足が止まった。流石のレインも興味を示したのか、はたまた脅威に感じたのか。
「ほらっ。さっさと寄越せ。俺達も鬼じゃねーからな。出すもん出したら許してやる」
「………………」
レインの表情は変わらないが、少し上に視線を向けていた。
考えが纏まったのか、レインの視線は道を塞ぐ男に向けられる。
「ぐっ…」
その視線を受け、男は声を漏らした。
無機質な瞳に見つめられ、心臓を鷲掴みにされたと錯覚したのだ。
「じ……ま」
「あ?なにい…うぇ??」
予備動作もなく放たれたナイフは、男の眉間に深々と突き刺さったていた。
ドサッ
!!!?
仲間が呆気なく死に、声も出ない二人の男。
レインがあまりにも自然に殺人を行った事で、軽い金縛りにかかっているのだ。
それは猛獣の檻に生身で入ることと同義。
ゆっくりと大剣を引き抜いたレインは、動けない獲物へと、素振りでもするかのようにそれを振るった。
「帰ってこないね」
戻ってきてほしくなかったレインは、ちゃんと依頼を達成した。
そして、謝らなければならない相手は、いつまで待っても帰ってこなかった。
「無慈悲が討伐したから、まだ探しているのかもね」
「…それはありえるね。はぁ…ホントどうしよ…もう身体だけじゃ許してくれないかも……」
「確かニールの翼っていう、パーティ名だったわね?」
「そうだよ。この街の名前だから覚えやすいよね」
受付嬢は同僚のどうでもいい話に乗り、気を紛らわせる。
「そのパーティならリーダーのビヨルドさんがここの組合長の息子だから、頼めばどうにかなるかも…」
頼めば。それは身体を許す相手が変わるだけの話なのかもしれない。
だが、それでもそれで許されるならと、受付嬢は重い足取りで、階段へと向かった。
魔物狩り組合は、職員とそれを纏める組合長という二つの階級のみで区別されている。
つまり、組合長とは組合の王である。
「任せよ。レインには教育が必要だと、常々考えていたところだ」
「あ、ありがとう、はぁはぁ、ございます」
ガチャ
バタンッ
受付嬢は乱れた服を直し、未だ荒い呼吸を無理矢理抑え、感謝を告げて退室した。
「誰ぞ!!」
それを確認した組合長は、声を荒げる。
「はい!何か?」
「ビヨルドを呼び戻せ!それと、ゴールドランクの『賢者の杖』を連れてこい!」
「はっ」
呼ばれた職員は、すぐに行動を開始した。