青紫 、 年齢操作 、 青 ・ 桃 屑
「なぁくん、知りあいなん?」
知り合いもなにも。そう言おうとした口は、さとみくんの言葉に重ねられた。
「あれ、なな言ってないの?」
「……」
いえなかった、言いずらかった。でもそれはきっと、言い訳にしかならない。心配されるのが嫌いで、それで虐めが起こるのも嫌で。過去の記憶を、思い出したくなくて。
「言ってない……って、何を…?」
「俺が義理の親だってこと。まぁ、正確には兄だけど」
「義理の、兄…?」
全員の視線が、さとみくんからおれに向く。おれは、答えたくなくて逸らした、俯いた。
嫌だ、お願い、何も聞かないで。何も答えないで。
「……とりあえず、さとみさんとなぁくんの関係は後回しや。とりあえず、今はころんとの関係を打ちに行くで」
その願いを察してくれたのか、ジェルくんは再びおれの腕を引き、話を変えようとしてくれた。
「っ、あははははっ!」
すると、いつの間にかフェンスの上に登っていたさとみくんが、見下してバカにするように高笑いする。ジェルくんは、そんな彼を不快に思ったのか、今まで見たことないような顔をして、さとみくんを睨んでいた。けれど、それに動じることなく、さとみくんはただおれを見つめていた。
「いい親友持ったんだねぇ、なな。どうせ裏切られて捨てられる運命なのにさ?」
「っ…」
「あ、裏切られる前に絶望させるのはななの方か、生き方間違えたもんね?」
おれはさとみくんの言葉に、ただ泣きそうになった。でも泣かないし、何も言い返さない。だって事実だもん、おれが生き方を間違えているのも、きっとジェルくん達を絶望させて、裏切られる羽目になるのも。
「……走るで」
「っえ、ジェルくんっ……!?」
ジェルくんはおれの手を強く握ると、屋上から逃げるように走った。きっと、おれの顔色を伺って、助けてくれたのだろう。ジェルくんは優しいから。
屋上から出て、荷物を取りに教室へ帰る。なんてことはなく、そのまま学校の玄関に直行した。そこでジェルくんの足はようやく止まり、おれから手を離した。
「ジェルくん……」
ジェルくんに裏切られるのは、正直怖い。もう二度とこうして仲良くしたりすることも出来なくなるし、何よりも、友達で居られなくなるのが嫌だった。
でも、言わないといけない。きっと、話さない方が、今後おれと関わる時に、いちいち気を使わせてしまう羽目になるかもしれない。
「あの、その…っ」
「ええで」
だが、ジェルくんは首を振った。そして、優しくおれに微笑んでくれた。その優しさが、おれの心を苦しめる、けれどやっぱり嬉しくて、暖かいものに感じる。
「話したくないなら話さんでも、なぁくんの全部を知らんくても、俺らが親友であることには変わりないやろ?」
「ジェルくん……っ」
あぁ、本当にいい親友を持ってしまった。こんなんだから、裏切られるのが嫌だと思ってしまうんだ。離れるのが怖いと、感じてしまうんだ。
「ななくん」
「…ころん、さん」
どこから来たのかは分からないが、目の前には気づけばころんさんが立っていた。ジェルくんがおれところんさんの間に割り込み、またおれを庇ってくれる。
……あぁ、また迷惑をかけている。
「ころん、話してええか?」
おれは、庇われてばっかりで、ジェルくんに何もしてあげられない。何もできない。
「ジェルくん、久々じゃん。どーしたの?」
「なぁくんを解放しろ、レン彼は恋愛禁止やろ」
おれはジェルくんの役に立つどころか、また守られて、足でまといのお荷物になるだけだ。そんな友達、本当にジェルくんには必要なのだろうか。
「嫌だ。僕が依存体質なの知ってるでしょ? 」
「あぁわかっとる、承知の上や。だからこそ言ってんねん」
ころんさんが怖いのは、ジェルくんが一番よく分かってるはずなのに、おれのために前に出てくれる。怖くても逃げたくても、誰一人からも怯えてることが知られないように、ジェルくんは相手の瞳を強く睨みつけるように見つめる。
だから強いんだ、だから優しいんだ。
「意味わかんない、ななくんとは合意での関係なのに」
「合意なのは身体との関係だけやろ、恋愛面に対してはほぼ脅しや!」
まるで自分のことのように怒ってくれるジェルくんに、自然と申し訳なさが勝ってしまう。これ以上、ジェルくんに迷惑をかけたくない。大事な友達だから、これ以上、もう傷つかなくていいんだよ。ジェルくんはおれなんかみたいな屑より、るぅとくんや莉犬くんみたいな優しい人と関わるべきだよ。
おれは足を前に運び、ジェルくんの背中を超える。ころんさんのおれを見る瞳は、純愛とはとても呼べないだろう。普通ではきっと、ころんさんは愛してくれないし、飽きたら捨てるような人だ。きっと。
でも
「なぁくん…?」
「ころんさん、もうここに用事はない」
どうせ役立とうとしても、ジェルくんが傷つくのを見ているだけしか出来ないなら、最後くらいは、守らせて欲しい。
「監禁してよ、おれのこと」
たとえそれが、間違った選択肢だとしても、多分おれは後悔しない。
「……そっか、じゃあ帰ろ?」
「なぁくんっ!!」
振り返らない、何も言わない。
いっそのこと、この行為でおれの感じの悪さに気づいて嫌って欲しい。
「はい、ころんさん」
屑にはきっと、クズしか相性が合わないから。
コメント
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ジェさんがイケメン、