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「暫く会わない間に、そんなことが」
「そうなの! ブライト! 彼奴……アルベド公爵滅茶苦茶態度悪かったの」
女神の庭園にて、暫く会っていなかったブライトと魔法の特訓をしている最中私はこの間の出来事を彼に話した。
ブライトは相槌を打ちながら、私の話を聞いてくれて。
そういえば、ブライトって私よりも年上なんだよね? と思いつつ私は彼に対して愚痴を溢すように話し続けていた。
そして、一通り話をすると少しだけ気持ちが落ち着く。彼はいつものように優しい笑みを浮かべた。
「そういえば、ブライトとアルベドって光魔法と闇魔法の家門だけど矢っ張り仲悪かったりするの?」
「そうですね……僕は別に闇魔法だからといって彼らを敵視も軽蔑もしないのですが、彼らは僕の家を敵視してますね」
「やっぱり、光魔法だから?」
と、私が聞くとブライトは黙って頷いた。
光魔法と闇魔法は均衡を保っていると同時に、互いに忌み嫌い、傷つけあってきたとブライトは話してくれた。
そして、それは今も昔も変わらないと。
光魔法と闇魔法の関係って思ったより複雑で、簡単に割り切れるものではないんだなと思う。
「レイ公爵家は、一番歴史が古い闇魔法の家門ですから。僕の家門、ブリリアント家はレイ家と対をなす存在……そして、彼らをあの地に追いやったのも僕の家です」
そうブライトは静かに目を伏せた。
レイ公爵家は辺鄙な場所にあり、周りから隔離されていた。
そう、あの地に追いやったのはブライトの家だという。
ブリリアント家は、この帝国一の光魔法の家門であり、その対となるレイ家は帝国位置の闇魔法の家門。
ブライトの口から語られるレイ家の話は、どこか重苦しいものだった。
レイ家が、今どうなっているのか。
この帝国では、いいや此の世界では闇魔法を扱う者は酷く差別され軽蔑され、忌み嫌われた存在として扱われる。それは、今に始まったわけではなくずっとうんと昔から。
そのため、闇魔法を使う。というだけで差別の対象になるのだ。
それは、平民が騎士になる以上に……
「こればかりは、どうすることも出来ません」
と、ブライトは口を開く。
私は、何となくブライトの表情を見て察した。
いくら地位があっても権力があっても、爵位でカバーしきれないのだ。闇魔法を使うというだけで。
本来ならアルベドはブライトより地位のある家門の出であるが、ブライトの方が優遇される。それは、アルベドが闇魔法を使うからである。
基本、闇魔法を使う家門は社交界から追放され、貴族の集まりやパーティーにも出席できない。
それが暗黙のルールだ。
「ブライトは、どう思ってるの……?」
「どうとは?」
「その、闇魔法についてというか、闇魔法を使う人達のことというか」
「そうですね……先ほど述べたように、これは仕方のない事だと思います。ですが、僕は闇魔法を使う者達を毛嫌いしているわけではありません」
そう言ってブライトは私を安心させるかのように、優しく微笑む。
彼は本当に闇魔法に対して嫌悪感を抱いていないようだ。寧ろ、好意的に……そして、この現状をどうにかしようとしているように。
彼のアメジストの瞳はいつも以上に優しい色を帯びていた。
「優しいんだね。ブライトは」
「いえ……そんなことは。ですが、あちらは光魔法を使う者達全てを恨んでいると思います。善の心を持つと言われる光魔法の人間が、差別をしているんですから。当然といえば、当然のことなんですが」
そう、光魔法と闇魔法の均衡が崩れてはいけない。だから仕方がないことだと。
貴族達は、自分達の地位を守るために光魔法を盾にして闇魔法を迫害する。
光魔法が善なんて馬鹿げてる。
闇魔法を使う人達にとって、光魔法を使う者達は悪なんだ。
しかし、負の感情を力に変える闇魔法の者達は、こうやって迫害され差別されることにより力を付けてしまう。取り返しのつかないぐらいに……
「エトワール様?」
「ううん、ちょっと考え事。でも、それにしてもアルベドのあの態度はないと思う! 一応、私、聖女なのに!」
「ま、まあ……社交界から迫害されていると言うこともあって自由な人が多いんだと思います。地位も何もかも気にしない……それが闇魔法の者達ですから。気を悪くしないで下さい」
「アルベド許さない……」
「僕も彼と出会ったとき……顔を合わせるたび何もしてないのに睨み付けられますから多分誰にでもそうなんだと思いますよ。彼は」
と、ブライトは苦笑いした。
そういえば、初めて会った時もそうだった。
あの時は、ただ単に私を敵対視していただけなのかと思っていたけど…… 今思うと、あれは私じゃなく光魔法の魔法を使う者達全員に向けた殺意なのかも知れないと。
私が聖女であれなかれ、光魔法を使う者であったのならアルベドは同じ態度を取ったのだろう。
私を見下しているのもきっとそういうこと。
「この話はここまでにしましょうか。久しぶりにエトワール様に会えたのに、こんな話題ばかりじゃつまらないでしょう」
「あ、ごめん……なさい。話を振ったのはこっちなのに」
そう言って私は慌てて頭を下げる。
頭なんて下げないで下さい。とブライトの優しい声がかかり私は頭を上げた。
そうだ、最近はブライトは何かと忙しくて神殿に来る回数が減っていたのだ。その理由は何だろうかとか、そういう話題を振れば良いのだろうか。と私が考えているとブライトの方が先に口を開いた。
「それじゃあ、星流祭の事についてでも話しましょうか」
「星流祭?」
と、ブライトは聞き慣れない単語を言うとにこりと笑った。
聖女になってからもう1ヶ月以上経ったが、やはりこの世界の帝国の文化というかそういうのにはまだ疎い。確かに、最近街が騒がしいと思っていたが、それはその星流祭とかいう祭りのためだったんだと私は悟った。
「星流祭とは、月が一番この星に近づき、星が雨のように降る期間のことです。そこで、催しもやらされまして。僕は勿論、他の方々も準備に追われているんですよ」
「へぇー星が雨のように……っか」
「帝国で一番大きな祭りなんですよ。歌やダンス。後は、舞踏会のようなこともします。出店だったり、異国の変わった品が入ってきたりもしますね」
「それは、すっごく楽しみかも!」
「きっと、聖女様もお気に召すと思いますよ」
そう言うと、ブライトはまたにっこりと微笑む。
そして、私の方に手を伸ばそうとするとハッとしたように手を引っ込めた。
私は、どうしたのかと思い首を傾げると、ブライトは誤魔化すような笑顔を浮かべる。
「星流祭は五日間行われ、その最終日には花火が打ち上げられるのです。その花火を見て、最後まで一緒に祭りを回った二人の男女は結ばれるとか……これは、迷信なんですけどね。結構、こういった話を好きな人が多くて」
「ブライトはそういう人いたりするの?」
と、思わず女子高校生が恋バナするノリで聞いてしまい私は慌てて口を塞いだ。
ブライトはそのアメジストの瞳を丸くし、私を見ている。
しまった。つい、前世の友達感覚で話してしまった……! 私は、恐る恐るとブライトの顔を見ると彼はいつも通り優しげな表情で笑っていた。
怒っているわけではなさそうだ。
良かった。と思ったのも束の間、ブライトは口を開く。
「残念ながら、そう言った人は。ただ、気になる人はいますけどね」
「え!? 誰々!? 聞いても分からないかも知れないけど!」
私は、前のめりになって聞くとブライトはまた少し驚いた顔をした。
でも、すぐに元の表情に戻り彼は口元に手を当ててくすっと笑う。
あぁ、この笑い方は……からかっている時の笑い方だ。私がムッとしていると、すみません。と軽く謝り私をじっと見つめてきた。
淀みのない澄んだアメジストの瞳は、日の光を浴びてキラキラと輝いている。
「エトワール様でも、それは教えられませんね」
「わ~ブライトのケチ」
そういってクスクス笑うブライトを見て、私は自然と口元が緩んでいた。
彼ともなかなかに距離をつめることが出来たと思う。
(好感度も26と順調、順調)
私は、彼の頭上で輝く好感度を見て安堵の息を漏らした。