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夜になりカフェテリアを追い出されると、コリア・タウンにあるDJ行きつけのバーに行った。
「この店、なかなかイケてるだろ」DJが胸を張った。
健太は薄暗い店内を手探りでカウンターまで辿り着くと、水割りを二つ注文した。
「しかし、今日は許せなかったぞ。だって、あれがルームメイトに対する態度か? あいつら、まったくお前を無視してやがる」DJはカフェテリアで一人いた健太を近くに誘おうとしなかったツヨシ達のことを咎めた「まさか、今も奴らを学校まで毎日送り迎えしてんじゃないだろな」
健太は寂しそうに笑った。
「助手席にも、後部座席にも誰もいないフェスティバを運転するのになかなか慣れなくってな」
今や買い物でも、フェスティバの活躍の場はなかった。代わってバスで行っているらしい。「健太に頼むな。平等権の定義を突かれたら、たまらない」ツヨシとミエの間でそんなことが話されていると、今朝キヨシがこっそり教えてくれた。
「キヨシまでもあっちサイドにいたのは驚いたぜ。あの恩知らず野郎」DJはカウンターを叩いた。
健太は黙って水割りを傾けた。
「実は俺、カフェテリアでお前の席に行く前に、ツヨシ達の席に行ってたんだ」
ああ知ってる、と健太は言った。
「そこでミエに聞いたんだよ。健太が今、どんな目に遭っているのかもちろん知ってるだろうって」
「お前、そんなこと聞いたのか」
健太はグラスを呑む手を止めた。DJは話を続けた。
「ルームメイトだろ、何か協力してやろうとは思わないのかって言ったんだ。そしたら何て答えたと思う? 『私の悲しみなんて、健太君のとは較べ物にならないわ。それでも私は人から同情をひこうなんて考えない』だってさ」
「ミエが、そんなことを」健太はグラスをあおった。
「だってよ、アイツ励ますためにパーティ開いてやったのお前だろ」
健太は目をつむって顔を上へ向けた。天井の間接照明が瞼の上から光を投げかけた。ジャグジーの生暖かい温水、マレナの笑顔、ツヨシの頭上に乗せた白いタオルが浮かんできた。
「それなのに、それなのに、あんまりじゃないか」DJは声を震わせた。
健太は目を開けた。
「お前は変わり者だな。俺のために、泣いてくれるのか」
健太は水割りをもう二杯注文した。ウエイターに代金とチップを支払おうとすると、DJが手で制した。
「レンタカー会社への支払いを肩代わりさせてくれないのなら、せめてここはおごらせろ」