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「あ、いたいた」

事務所でカナデを見つけた。

肩を叩くと振り返るカナデ。

「お早いお戻りで」

表情を動かさずに言われる。興味なさそうだ。

「急ぎでお願いしたからな」

そう、かなり急いでもらった。後1週間しか無いから。

「治療を急いでもらうと、別料金か発生するのでは?」

「ああ、お陰で金欠だ。カナデちゃんに手伝って貰わないと、生活が立ち行かないので一緒に来なさい」

「は?」

カナデは押しに弱い。逆鱗に触れる言葉を避けて押して行けば、かなりコントロール出来る。3週間でようやく辿り着いた結論。

俺は、首を傾げるカナデの首元を掴んで事務員の所まで引っ張った。

「懸賞金付の給与高め、お願い」

そう言って、事務員に向かって自分の右目の下瞼を下げる。ついでに舌も出す。事務所は無表情にコードリーダーのライトを当てて、プリントアウトされた用紙を俺に渡した。見ると、名の知れ渡ったオーバーアライバー。

「おぅ、凄いの来たな。行くぞ」

そのまま首元を引いてカナデを連行。

「納得行かない。何で私が手伝いを?」

「連日の高額医療費、誰のせいだと思ってんの?」

「自業自得・・・」

カナデのその言葉に、俺は計画も忘れてカチンと来る。

は?ふざけんな。前金殆ど消えたぞ。これじゃリタイアも出来ねぇ。

「そんな訳無いよね?気分損ねただけで半殺しとか無いから!普通!」

「『気分損ねただけ』って所がおかしい。意義あり」

「おかしくない!良いから来なさい!」

「・・・」

俺の勢いが、勝った!


「ドレスコード、ねぇ」

カナデは未だ納得の行かない顔をしている。レンタルのドレスがブカブカだ。笑える。だが1番小さいサイズがこれだ。

「もうちょっと中身にボリュームが欲しい所だな」

「・・・帰るよ?」

「いやいや、可愛いヨ?可愛いから帰らないで!」

俺は、カナデをなんとか宥めて、身長差に苦労しながら腕を組んで入り口へと向かって歩く。

ボディチェックは難なくクリア。武器は持ち込めない。だが、隠した小道具は全く感知されずに済んだ。

「で?どれ?」

オーバーアライバーがゴロゴロいる会場。ここでマシンガンとかぶっ放したら相当稼げそうだな、と思う。まぁ、マシンガンなんて持ってないし、そもそも持ち込めないんだろうが。

カナデは周囲を見回しながらウエイターからグラスを一つ受け取る。行動が早い。とっとと済ませたいんだろうな。

「真ん中のアレ」

わざと余所見をしながら答えた。

俺の計画は、ターゲットを追い込んで、俺が償う寸前にカナデに償わせるっつう物だ。

「ロリコンで有名よ?」

ターゲットはロリコンのスケベオヤジ。会場ど真中のルーレット台に鎮座している。都合良くカナデを動かし易い事案を寄越してくる事務所の思惑が正直怖い。

俺は辺りを見回しながら頭に入っている会場図面と比較した。

「・・・そういうの苦手だけど」

言いながらターゲットを視界に入れるカナデ。俺はカナデの右手中指に毒針を仕込んだ指輪を嵌めた。

「はい、おまじない。あの辺りが良いかなー?」

この指輪で、うっかりターゲットを刺してくれたら楽なんだが、そう上手くは行かないだろうな。

考えながら、俺は窓際から延びる通路を指差して、

「じゃ!」

とカナデから一度離れる。

さて、後は上手に連れて来てもらってからの勝負だ。


カナデは上手くやった。だが、予想以上にスケベオヤジがスケベだった。通路にたどり着く前に捕まって、部屋に持ってかれそうになってる。

俺は、エレベーターに向かって行くカナデに合図を送る。

エレベーターを指差し『そ・こ・で』と口で形作る。カナデは頷き、大人しく抱き抱えられてエレベーターに乗り込んだ。

さて大変だ。俺は急いで階段を登って、登るエレベーターの先回りをした。時間勝負だ。

そして、力づくで到着していないエレベーターのドアを開けると、遥か下に見えるカゴに向かってロープを伝って降りる。

カゴに着くと、中から微かに物音が聞こえて来る。。カナデがターゲットの首に、例の針を刺した所だ。

俺は天井をぶち破って中に降りる。

「お待ち」

そう言いながら、中を確認。ボディーガード2人、ターゲット、カナデの4人。

ボディーガード2人のうち、1人は役立たず。放置。

もう1人は厄介な感じだ。カナデが手を焼いている様に見える。

俺はそいつの肩の上に跨り首を絞める。俺の体重と勢いを殺せず、ターゲットの上にそのまま倒れた。ちょっと腰を打つ。痛え。だがカナデからそいつを引き剥がす事には成功した。

「カナデちゃん、俺のケツからナイフ抜いて」

空いたカナデに指示する。カナデは素直に従って俺の毒を塗ったナイフを引き抜く。

後は、上手い事カナデにターゲットを刺させればokだ。

俺は乗っかってるボディガードの首を捻った。途端にガクっと力が抜けるボディガード。よし!

だが予想外の事が起こった。力が抜けたボディーガードの体が、膨張したかと思うと光って収縮して行く。光が強くなり、パンっと弾けて消えた。

「あら?殺せちゃった?」

償いが終わってたらしい。

想定外の展開に全員の動きが一瞬止まる。

だが、次の瞬間動き出す。

「うわぁ!」

「このっ!」

放置君とターゲットが同時に声を上げてた。だが最初に動いたのはカナデだ。

一歩踏み出しターゲットに迫る。放置君は完全無視。

俺は、カナデにうっかり足を引っ掛けた風を装う為に放置君の方へと踏み出す。上手く足が掛かった。

「あ、ゴメッ・・・」

少し体制を崩したカナデの背中を、さり気なくターゲットに押し付ける様にして片腕を出す。反対側の手は、演技に信憑性を出す為に放置君の顔を掴んだ。

サングラスが派手な音を立てて砕ける。

そして・・・刺した。体制を崩したカナデが。ターゲットの心臓の真上を・・・。

「・・・え・・・?」

繰り返される風景。膨張し、輝き、収縮して、弾ける。ターゲットの死。

償いは、実行された。

カナデの手によって・・・。

「あ・・・」

俺は思わず声を出した。

放置君は気絶している。

固まって動けなくなっているカナデ。ガラス張りのエレベーターの壁に写るカナデの顔は青く、いつもの無表情が更に表情を失っていた。

目を細めると、カナデの額の上にボンヤリ浮かぶ数字が、2から1に変わる。

やった。やっと1人目。

達成感で体から力が抜けた。だが俺は次の瞬間自分の目を疑う。

カナデの目が、俺と同じ物を見ていた。

額に浮かぶ、1の数字。

な、んで?見てる、そんなモノ・・・。見えるのか?カナデ・・・?

地獄と常世の狭間にて

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