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クエストのタイトルは『緑の小さな命を救え』である。

善悪は檀家会のアドレス帳を取り出すと固定電話の子機を握り、番号をプッシュした。


『ガチャ、もしもし四桐(シキリ)です』


「あ、お寺ですぅ」


『あ、和尚様、鯛男(タイオ)です』


「あー、リーダー、昨日は迷惑を掛けてしまったでござるな~、その後体は大丈夫でござるか?」


『はい、一晩寝たらもう全然大丈夫ですよーっ! その事でお電話頂いたんですか? いや~、御心配掛けちゃった様で!』


「うん、それもあったでござるが、実はリーダーに、たぶん青年部の皆にもでござるが、お願いがあったのでござる」


『えっと、何でしょ?』


「実は、茶糖家の事なのでござるが……」


『あ、茶糖さんとこの! 最近茶畑で見かけないって仲間内でも話題に上がっていて、丁度今日これから、俺が訪ねてみる事になっているんですよ!』


「っ! いや、駄目でござる! 茶糖家を訪ねるのは駄目! でござるっ!」


あっぶねぇー、あんなの見られたら事件だよ、事件、と善悪は冷や汗掻き捲くりであった。


『え、何でですか? ウチの親父やお袋も心配してるんすよ…… 何しろもう一週間位かな? 誰も見掛けて無いんですから』


「え、えっと…… あ、あれでござる、ちょっと遠くのご親戚で、御不幸があったらしくて…… 暫く(しばらく)家族総出でお悔やみに行っているでござるよ!」


『あ、そうなんですか?』


「そそっ! 皆に伝えてくれって言われていたのでござるが、うっかり言うのが遅くなってしまったのでござる、済まなかったのでござるよ」


『いえいえ、とんでもない、じゃあ、そろそろ帰ってくるんですよね?』


「えっ?」


『だってお葬式でしょ? 流石に一週間になりますからね? 幾らなんでももう帰るでしょ?』


「っ! えっと、あの、もうチョット掛かるんじゃ、無い、かな? なんか遠くのご親戚だって話していたヨーナ……」


『えぇー? そうなんですか? 因(ちな)みに遠くって何処なんですか? 他の都道府県ですよね?』


「………… さ…… サハ」


『え? 何です、どこですか?』


「…… サハ共和国、でござる……」


『は? ええっと、サハってあれですよね? ロシアの? です?』


「う、うん、サハ共和国の、あそこ、あのタイミリム地域の、……何て村でござったか、た、たしかハタンガ、そうハタンガ村デゴザル」


『へっえぇ――――!』


「そ、そうなのでござる! あの、一年の内四分の三が雪と氷に閉ざされる、ミンナ大好キハタンガ村デゴザルヨー」


『………………』


「キットイマゴロナツカシイゴシンセキニカコマレテ、トナカイトライチョウニシタツヅミヲウッテイルコトデゴザル、ヨルニハオーロラトカモネ」


『でも、茶糖家の人ってみんな、あの、純日本人ていうか、混ざってんですかね?』


「あぁぁぁー…… そこは、ほら、あの村ってあれだ! ツングースのドラガン族が多く住む村じゃないでござるか! 鯛男さん! あれでござるか? ドラガン族はモンゴル族に近いと言われる部族でござるよ? ん? んん? お相撲さんのモンゴルの人と日本人? ちゃんと区別できてるでござるんでござるかぁー? ん? んん?」


調子に乗って嘘吐き善悪は言葉を畳み掛けた。


「それに今はこんな時代でござる国を越えての移動がいつまで許されるかという問題も有るのでござるもう一月もすればあちらは凍土になるのでござると考えれば長期戦も覚悟しなければなるまいむしろ帰って来れ無い場合をデフォルトとして考えて置く事がこちらとしては当然だと思うのでござる


(ぶはぁっ!)


……ゆ、故にいつ戻ってくるかは、お釈迦様でも知らぬ仏の茶糖さん、なのでござるよ、おけいっ?」


『えっ? あ、はい、まぁ、おけいですかね』


少し疑われた印象も感じられたが、突然の棒読みと息継ぎ無しの畳み掛けで、『まぁ、おけい』を引き出せたのは重畳(ちょうじょう)であった。

後はいち早く依頼を済ませれば、鯛男自身の正常化バイアスが細かい事は忘れさせる、又は都合よく改竄(かいざん)してくれるだろう、そう善悪は思った。


「改めて、頼まれてくれると嬉しいのでござるが、茶糖家の皆さんがお留守の間、お茶とお野菜の畑のお世話を皆でしてあげて欲しいのでござるが、如何であろう?」


『なるほど、まあ、大丈夫ですよ、あ、茶糖さんだと烏骨鶏(うこっけい)の世話も必要ですよね? 確か二十羽、いや十九羽だったな……』


く、詳しいっ!


「あ、ああ、そちらも見てあげて欲しいでござる、助かるでござるよ」

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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