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「こ、こんなのってありえますの!? とてもおかしなことが起きていますわ!! 行く手間が省けたのはいいことですけれど……」
「すご~い!! さすがイスティさまなのっ!」
フィーサは大喜びだが、冷静なスキュラが動揺しっぱなしだ。動揺しながらもいつのまにかスキュラはより人間に近い姿に変わっている。
それにしてもまさか町がまるごと移動してくるなんてな。これもルティの特別な力が加わってるのか?
気になる数字もちらりと見えたが、今は気にしないでおこう。
「アック様、上手くいきましたね」
「バヴァルは半信半疑だった?」
「やってみないと分からないものだなと実感を。今回のことはきっと最初から決まっていた運命だったのでしょう。それだけルティシアさんとの繋がりが強かったのではないかと」
魔石とガチャ、そして繋がりの力。バヴァルのことだから何か確信めいていたと思っていたが、そうでは無かったな。
「そういえば彼女から温泉回復水を体に流されたことがあるけど、関係があるかな?」
「ロキュンテの温泉水ですか?」
「彼女が持ってきた水でおれは救われたんだ」
「……なるほど」
それにしても町が移動して来たとはいえ、完璧では無かったようだ。その証拠にロキュンテ名物の火山がどこにも見当たらない。
「バヴァル。火山だけ見えないけど?」
「火山? 言われてみればそうですね。転移魔法とはいえ山をまるごととなれば生態系も変わりますから、今回は無理だったのでは?」
今回が無理でも次回はまるごと移動させられるだろうか?
そうなると気になるのはおれ自身の強さだ。
「もしかしておれのレベルが低いから?」
「町の転移魔法はどうなのでしょうね。レベルが関わっているのであれば、宝剣のレベルに乗じてになりそうですが」
宝剣フィーサのレベルまで関係しているとなると、完全に使い手であるおれのレベル次第ということになる。
「アックさ~ん!! こっちに来てくださ~い!」
しばらくルティの姿が見えないと思っていたが彼女はすでに町の中に入っていたようだ。しかも真っ先に話をつけに行っていたようで、満面の笑顔を見せている。故郷に戻れたのだから無理も無いが。
やはりルティはドワーフ族で違いないと言わんばかりに、沢山のドワーフに囲まれている。まともにドワーフ族を見るのは初めてだが、それは向こうも同様か。
しばらくして、いかにも族長らしきドワーフがおれの所に近づいてくる。ドワーフが立っていた家の前には、ルティとルティの母親らしき人の姿。
「あれ? あの人は人間?」
母親らしき人はどう見ても人間に見える。
「オマエが、古代のガチャスキル使用者か?」
「古代?」
「……何も知らずに娘を呼んだか。ふん、まぁいい。そのことについては悪く言わん。娘が気に入り、嫁ぐ者ならそれでもいい」
「とつ……嫁ぐ!? え、いや、ちょっ――」
ガチャを引いて呼んだのは事実だが、その時点で嫁入りが確定とか聞いて無いんだが。
「火山の姿が見えないのもオマエの仕業か。だが温泉なら我が家にもある! オマエはそこで休め! 後のことはアレに任せてある。楽しんで来い、将来の息子!」
ドワーフの族長かどうかは不明だが彼は町が移動して来たことに全く動じていない。他のドワーフたちも同じで、無言のままぞろぞろと小屋の中に戻って行った。
噂通りの身長差だったが、見た目だけは人間とあまり変わらない。しかし口数は少なめで、他の人間とは深く関わらない種族にも思える。彼らの特性は大体理解出来た。
だがあの娘はドワーフを強く引き継いでいないとみえる。ぶんぶんと手を振りまくっているし明るい性格すぎるからだ。それに遠くからでよく聞こえないが、「家に来て下さい!!」とおれに言っているような気がする。
スキュラたちは今からどうするのかと思ったが、協調性のない彼女たちはすでにいなかった。
「あ、わたくしのことはお構いなく!」
一応、魔法の師匠でもあるバヴァルは興味があるとかでおれについて来るらしい。
ルティのいる所に着くと、ルティに似た顔つきの女性がおれとバヴァルを出迎えた。
「ではどうぞ、中へ」
「あ、ど、どうも」
透き通った声の女性はドワーフでは無く、どう見ても同じ人間でドワーフには到底見えない。
ルティの家の中に入るとすぐ真横に錬金術工房があったが、母親、あるいは父親の仕事場なのかは不明だ。あるいは錬金術師がいるかもしれない。
「初めまして。私はルティシア・テクスの母、ルシナ・アウリーンです。話は聞いておりますよ、アックさま」
ルティの母親は家の中で間近に迫るまでは顔の見えない外套を着ていたが、家の中ではすぐに顔を見せてくれた。
「は、はい。おれはラクル出身の、アック・イスティと言います。ど、どうも」
「わたくしはレザンス魔法ギルドマスター、バヴァル・リブレイ。アックの先生をしております」
「まぁ! そうでしたのね」
ルティの母親は何とも不思議な気配のする女性だ。錬金術で若返りでもしているのだろうか。
「すでにご承知の通り、ルティシアの父はドワーフ族です。名前はテクスと言います」
「……そうすると、ルティは人間とドワーフの混血ですか?」
「そうなりますね。ドワーフの力と私の錬金術を全て引き継いだ娘、それがルティシアなのです」
「いや、それにしたって……」
性格はどっちに似たのだろうか。錬金術は確かに末恐ろしいものがあるが。
「あの子には不思議なスキルが備わっております。性格も私の姉によく似ています……。ですので、あの子にも幸せになってもらいたいものです」
「なるほど、お姉さんに……」
「――ここには何か目的があっての転移魔法ですよね? でしたら、それをお済ませ下さい」
何やらルシナさんからはとてつもなく威圧的なものを感じる。決して怒られているわけでもないのに、実は内心怒っているのかもしれない。怒らせたら怖そうだし、魔石を沈める所を探しに行った方が良さそう。