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テラーノベル(Teller Novel)
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静岡県都市部内



「―――氷解銘卿。」


凍える程の冷気が街中を包む。

妖術の被害は術師のみならず、ただの一般人さえも巻き込んで拡大して行く。事の発端である少年を止められる者は居ない。

“組織”から派遣された呪術師や奇術師等が、少年 に挑み、殺された。

それもただ殺すだけでは無い、死体の脚を掴んでビルに叩き付けるなどの悪逆非道な行動を繰り返していたのだ。

しかし、どのような非人道的行為を犯そうがやはり少年を止めれる者は誰も居ない。


「呪術師は、何処だ」


少年は崩れた建物の瓦礫を蹴飛ばして、下敷きになっていた”錬金術師”を引きずり出す。

既に瀕死で、まともに会話が出来そうな状態では無いが少年は問い続ける。


「呪術師は何処だって聞いてるのが、聴こえねェのか?」


問いの意味が分からない。

それより、少年の声が聴こえない。周囲にどのような音が鳴っているのかすら分からない。

――― 鼓膜は完全にやられていた。

錬金術師の男は少年の問いが聴こえず、理解が出来ない。

だが、ここから取るべき行動は停止寸前の身体でも理解していた。


「へェ、こんな状況でも抗うってのか」


少年に手を伸ばして”錬成”を使用する。

自分諸共巻き込み、確実に敵を殺す事が可能な武器。―――”グレネード”。

ピンを抜いて、少年の居る方向に投げる。

しかし、その先に少年はおらず、鉄が地面とぶつかった音が聞こえるだけだった。

突然の状況に困惑した錬金術師の男は辺りを見渡す。やはり少年の影は見つからない。

少年の影は見つからないが、


一匹の鴉が、脚元に居た。



「あ〜っと……コイツ今、何かしようとしたのか?悪ぃな、それより先に”斬っちまった”」


音を立てる事無く、錬金術師の男はゆっくりと倒れ込む。

グレネードのピンを抜こうと指を掛けた0.1秒後、錬金術師の男より速く、少年の持っていた短刀が頭蓋を貫通したのだ。 脳漿と血液が周囲にぶちまけられ、鼻が曲がる程の異臭がする。


「結局、呪術師は見つからず…か」


情報を持ち帰り、例の男に共有する予定だったが、肝心の呪術師が見つかる事は無かった。

少年は瓦礫を飛び越え、道路の中心に着地する。


「収穫ゼロか、まァまだ幾らでもチャンスは残ってるから焦る必要はねェな」


半壊したビルを眺めながら、少年は持っていた短刀を地面に突き刺す。

強い風が吹き、瓦礫から舞い上がった砂埃が少年を包む。

そのまま少年はこの場を離れて―――


『来る、構えろ』


少年は瞬時に振り返り、妖術を使用する。

敵の姿は見えない、だが撃たなければ此方が殺られる。一か八かの攻撃。


「――― 焼炙!!」


手のひらに集中した熱が更に温度を上昇させ、半径三センチ程の球体が誕生する。

少年の手から放たれた球体は、音速を越えて”何か”に命中する。

手応えはあった、あったが―――


「お前が、妖術師か」


砂埃が消え、敵の正体が露になる。

少年の察知能力を無効化した人物、余程の実力者か少年と同等の力の持ち主。果たして、その正体は………


「私は『魔術師』の家系、風見家の次女。”風見 結花かざみ ゆいか“。妖術師は私達の敵、だからここで死んで貰う」


片手に細長い杖を持つ、幼女だった。







「ガキ?テメェが俺の相手になるってか?」


少女――― “風見 結花”は何も答えず、少年を見つめ続ける。

たかが子供、本気で戦えば簡単に殺す事は出来るだろう。だが、この少女にはただならぬ”何か”を感じる。

それに、風見に直撃したはずの『焼炙』で負った傷が見当たらない。


「まァ良い、さっきと同じ魔法を展開させりゃァいいって訳だ!! 」


なら、タネを暴くのみ。

影の中から一本の『薙刀』を取り出す。愛媛で殺した呪術師から強奪した品、古くから多くの逸話か残る呪具。


「『岩融いわおとし』」


はるか昔に武蔵坊弁慶が振るったと言い伝えられている薙刀。 その大きさは通常サイズの薙刀と違い、刃の部分だけでも三尺五寸を超える。

ただ、コレを扱えるのは”呪力”を持つ人間のみ。


「………魔術師の私でも、呪具等に関する知識は身に付けている。お前は『呪術師』では無く『妖術師』だ、”呪力”では無く”妖力”を使用する妖術師にその武器は扱えない」


まさに『兎に祭文』と言う事だ。 なんて分かりやすい説明、その通り。

しかし、風見は一つだけ”間違えている”。

“呪具”に”呪力”を流すことによって、”呪具”の能力は増幅され莫大な威力を発揮する。なら、”呪力”を流さずに――― そのまま、振るえば?


「別に”呪具”として使う訳じゃねェ、ちょいと長いだけの”武器”として使う」


少年の声が途切れた刹那、風見の視線の死角に少年が入り込む。その間、約二秒。

岩融の刀身が風見を捉え、胴体を引き裂かんと躍動する。速度が上昇し、音を置き去りにして刀身が空へと振り上げられる。

次に映る光景は、


「あァ…?」


岩融の刀身が、長細い杖で受け止められていた。

先程のコンディションであれば、杖など一刀両断出来たはずなのに。斬れていない。

力の入れ方を間違えた?”武器”の向き?”呪力”が必要?

全て、否。


「……私の能力は触れたモノを思いのままに操る『傀儡雪下くぐつせっか』。私は常時空気に触れているから、空気の層を作って攻撃を防いだって訳。ほら、教えてあげたんだから早く死ね」


『傀儡雪下』、(空気を含む)触れたモノを自在に操れる能力。

少年が今まで出会ってきた術師の中で、一位二位を争う程のチート能力だ。


「なるほどな!!なら『焼炙』が効かなかった理由はソレか………!!ご丁寧に解説どォうも!!」


だが、タネさえ分かれば対策など幾らでも取れる。岩融の刀身を再び風見の腹部に近づけ、そのまま力を込め続ける。

例え頑丈な層を作ろうが、何枚も重ねようが、必ず限界は存在する。魔法が使えなくなる限界点。

――― 魔力の枯渇。

物は試し。無駄だと思っても、実行して選択肢を潰して行く。

少年の行動の意図を理解した風見は、杖の先端を少年の左肩に突き刺す。 刺された肩からは大量の血が溢れ出し、岩融に入る力が弱まる。

あまりの激痛に少し怯んだ隙に、風見は攻撃を仕掛ける。


「『傀儡雪下』」


風見は空いている右手を空に突き上げ、魔法を展開する。 可視化された空気の層は、果物ナイフと同じ形状に変化し、少年の左肩に振り下ろされる。

しかし、空気のナイフが少年に突き刺さる事は無く。そのまま空中を切り裂いた。


「武器も作れンのか……!!そりゃァ厄介だ……!!」


左肩に空気の果物ナイフが触れる寸前、少年は咄嗟の判断で『回避の術』を使用し、その場から一時離脱したのだ。

なんと言う生存本能。普段の少年では不可能に近い判断。火事場の馬鹿力と言うのだろう。


「………『傀儡雪下』」


避けた場所の空間が歪む 。

―――否、空気が圧縮されて行く。

少年は再び『回避の術』を使用し、ぺしゃんこにならずに済んだ。だが、風見の攻撃は一度だけでは無い。


「『傀儡雪下』」


少年が岩融を構え直し、風見の攻撃を避けつつ再び攻撃を仕掛ける。

次の狙いは、


「火力で押し切るッ!!やっぱ小細工なんざァ俺にァ似合わねェ!! 」


少年は血迷ったのか、持っていた岩融を投げて風見との距離を一気に詰める。走る速度は投げた岩融と同等。

風見は少年を目で追いつつ、飛んできた岩融を空気の層で弾く。

だが、それが間違いだった。

少年が投げたのは岩融だけでは無い。影の中から取り出した一本の日本刀。


「『鬼丸国綱』」


目で少年を追っていたが故に、岩融の後ろに隠れた鬼丸国綱に気づかなかった。

風見の腹部に鬼丸国綱が突き刺さり、空気の層は一気に決壊する。

何故、と呟いた風見は崩れそうな右脚を抑えて少年を睨む。


「……どうして、ここに『鬼丸国綱 』が有る?!鴉との契約で手持ちにない筈…!!」


「あァ、テメェ気づいてねェのか?」


少年はニヤリと笑みを浮かべ、青空を指差す。 目線を空に向け、風見は心の底から恐怖した。

空で飛び回る多数の物体。少年が契約し、『鬼丸国綱』を借りていた存在。


「一回目の攻撃、テメェが俺の左肩を狙った時にクソ鴉共を呼んだ。空から『鬼丸国綱』を投げ捨てるように命令し、俺の影の中に仕舞った。戦闘に夢中になりすぎて、鴉の鳴き声すら聞こえなかったか?」


「―――ッ!!」


あぁ、最高だ。風見の絶望の顔がよく見える。

少年は『岩融』と『鬼丸国綱』を回収し、瀕死の風見に近寄る。


「色々聞きてェ事はあるが。

―――俺が『鬼丸国綱』を所持していないと何処で知った?」


風見の顔が強ばる。

少年の読み通りであれば、『鬼丸国綱』を所持していない事を自らの手で調べた訳ではなく、”誰かに教えてもらった”のだろう。

だとすれば、この情報を知っている人間は一人しか居ない。 彼が少年にこの依頼を受けさせたのも、『鬼丸国綱』の名前を聞いたのも納得。

それに一番の確定要素は、


アイツをepisode.0 ①に登場クソ鴉共に監視させてたからな、全てお見通しって訳サ」


「そ…う、お前は彼を信用していなかった…って訳ね」


「信用?ンなもん俺は知らねェ。信用も信頼もしねェ主義だからな。信じれるのは己のみって奴だ。

―――最後に言い残すことはあるか?」


『鬼丸国綱』が風見の首元でキラリと光る。

風見は何も言わず、ただずっと一点を見つめ続けている。十秒、二十秒と時間が過ぎて行く。

しびれを切らした少年は『鬼丸国綱』を振り上げ、刀に力を込める。


「妖術師。 お前の、名前は?」


「”八咫 匯やた めぐる“だ」


勢い良く刀が振り下ろされる。『鬼丸国綱』の刀身は風を切り、音を置き去りにして真っ直ぐと降下する。

首に刀身が触れ、そのまま頭が斬り落とされ―――


「”八咫 匯”、死ね」



グルンと、風見の顔が向いてはいけない方向に回転し、 “八咫 匯”を睨む。


振り下ろされた刀は速度を落とさずに、首を切断する。頭が斬り落とされ、地面へと転がる。

斬った、 確かに斬った。だが、


「コイツ…!?人間じゃねェ!!」


切り落とされた首の断面から血が吹き出る事は無く、一瞬にして全身が真っ白い”ナニ”かに変化した。

そして、変化した風見の肉体は音を立てて震えだす。その音は機械音に近く、まるで時限爆弾のカウントダウンの様なものだった。


「………まさか!!自爆するつもりか!?」


八咫は急いで『鬼丸国綱』と『岩融』を影に収納して、その場から全速力で離れる。

風見――― だったモノから約一キロメートル離れた地点で、八咫は術を使用する。


「『黒影・深層領域』」


自らの肉体を護る方法の一つである『黒影・深層領域』。 自身の肉体から半径7mの地面が影に占領され、その影の中を自由に行き来する事が可能な術。

万が一を場合を考えたが故に、使用した術である。

遠く離れた地点から一瞬、光が見える。 それは”風見 結花”だったモノが爆発した瞬間と言う事だ。

光りが放たれてから数秒後、爆音と共に物凄い風が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。

幸い、崩壊した建物が完全に壊れるほどの風では無かった。


「―――ありゃ本物の”風見 結花”じゃねェな……いや、仮初の肉体に”風見 結花”の情報を入れ込んだ。って感じだな」

「つまり、また”風見 結花”と戦えるって事かァ!?呪術師より魔術師の方が強ェし、アイツの依頼が無効になったから実質暇!!」

「楽しみで仕方がねェ!!」


爆風から身を守る為に使用していた術を切り、影から肉体を出現させる。

同時に『鬼丸国綱』も影から弾き出され、空を飛んでいた一匹の鴉が回収する。 そのまま『鬼丸国綱』を掴んだ鴉は、近くの木々の間に消えて行った。

それを見ていた八咫は、建物内部にまで響く声で、邪悪さを残しながら高らかに笑っていた。








「それは本当ですか!?なら今すぐに人員を集めて作戦を実行しなければ……!!」


「―――待て。妖術師”八咫 匯”の保有する能力を把握しない限り、今戦うのは無謀だぞ。仮初の肉体だったとは言え、私の『傀儡雪下』を見切った男だ 」


実験施設の様な部屋で、白衣を着た女性と杖を持つ少女が向かい合って会話している。

杖を持つ少女”風見 結花”は、神妙な顔をしながら白衣を着た女性”荒田 摩美あらた まみ“に問う。


「それと、私の『傀儡雪下』の解析は終了したのか?」


「はい、解析は終了したのですが………やはり『傀儡雪下』についての詳細は何も………」


「そう」


風見の『傀儡雪下』は完全では無い。

とある条件が揃えば『傀儡雪下』は進化し、更なる力を手に入れる事が出来る。

だが、その条件が未だ分からず。いつどのような場面で進化するのか不明なのだ。


「風見さんは、やっぱり妖術師を殺すのですか…? 」


風見は持っていた杖の先端を、強く地面に叩きつける。木と鉄がぶつかる音が部屋中に響き、風見から憤怒のオーラが発せられる。


「―――殺す、妖術師は皆殺しだ。私たちの祖先である彼ら彼女らの為にも 」


魔術師と妖術師の過去。 それらを暴くのは風見の役割では無い。

だが、八咫に聞かずには居られられない事が沢山ある。いつか”ソレ”を、瀕死の八咫に問う瞬間が訪れる事を願って。


施設の外では無数の鴉が集まり、鳴いている。

その事を知らない儘、風見は机に置かれた水を一気に飲み干した。

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