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「あー、疲れた……で、この後の予定は何だっけ?」


昼食を終え、逃げるようにして食堂を後にしながらルークがルナにそう聞いた。


「えっと、必要な教材の販売があるんじゃなかった?」

「教科書は授業の時に貰ったじゃねーか」

「それとはまた別です。制服やら授業で使う木剣やら防具は受け取ってないでしょう?」

「あ、そっか制服あるのか」


入学式は皆私服だったが、学園は制服の着用が義務付けられている。学園内での立場は一応対等という事になっているから、先ずは服装で均一化を図ろうという考えだろう。

実際、服が同じなら集団意識が生まれて仲間意識や協調性も持てるなんて話を聞いたことがあるし、制服を着用させるのは利に叶っていると思う。


「お、あそこみたいだ」


ルークが人だかりを指差してそう言う。目を凝らしてみると、確かに木剣や革の防具が販売されているのが見えた。


「む、混んでいるな。だが、並ぶとしよう」


思ったよりも列が長いが、その列にアルは率先して並ぶ。

その行動が少し意外でビックリした。てっきり、並ぶのは嫌なんじゃないかなと思っていたのだが、アルは嫌な顔せず、寧ろ楽しそうに列に並んだ。


「……素直に並ぶんだね」


ルナも驚いたのか、意外そうな表情で彼にそう言った。


「当然であろう、並ばなくては買えないではないか」


何を言っているのだとでも言わんばかりに、アルは不思議そうな表情で首を傾げる。


「あー、いや、そうじゃなくて……列を開けろとか言うかなって思ってたからさ」


ルークが少し言いにくそうに、頬を掻きながらアルに説明する。


「む、そんな格好の悪い事はせん!」


そう、キッパリと言い切るアル。学園内での立場は対等。そこに一応と付けたのは、どれだけ努力をしようとも、やはり格差は生まれるからだ。身分の高い者が我が物顔でのさばり、低い者はそれを黙ってみているだけ。

現に、列の先に並んでいるのは、高い服と煌びやかな装飾品を身に着けた貴族の子供達ばかり。その後ろに、平民でも裕福な家の出だったり、貴族の腰巾着をしている者達。そして後列に何のコネも権力も持たない者達。

仕方がないと言えばそれまでだ。力を持たないものは、たとえ目の前の事がおかしいと理解していても、それを口に出して言う事ができない。


「あの、順番……譲りましょうか?」


アルの前に並んでいた子供が、後ろに並んだアルに二、三度視線を向けて、不安そうな表情を浮かべて順番を譲ろうと声を掛けてきた。



「む、お主も並んでおるのだろ? 後から来た余達が先に行くのはよくない」


しかし、アルは


「はは、ゴメン、俺アルの事勘違いしてた。スゲー良い奴だな」


一瞬、面を喰らったような表情で固まるルークだが、やがて笑みを溢すと満面の笑みでアルにそう言った。

俺も少し偏見を持ってしまっていた。反省しなければならない。


「よく解らんが……よい、許す。それに、こうして話してるうちに順番が回ってきた。並ぶ事など苦ではない」


そう言うアル。そう言われ前の列に目を向ければもう数人程度しか居なかった。


「騎士科の新入生ですね、身長はいくつでしょうか?」


それから少し待ち、ようやく自分の番がになる。

受け付けをしているお姉さんが、人当たりの良いにこやかな笑みを浮かべてそう尋ねてきた。


「百十センチです」


嘘、少し盛った。訂正しよ。


「でしたら、一番小さいサイズですね、制服は何着購入されますか?」


盛っても一番小さいサイズだって。訂正する必要なかったよ。


「……とりあえず、三着でお願いします」


着回す為に二着、それから予備で一着を購入する。

そして制服が三着と、運動着が入った袋と、木剣と革の胸当てを渡される。

代金を払い荷物を受けとると、その場から離れて先に済ませたルークとアルと共にルナを待つ。


「お待たせー」


少し待つと、買い物を済ませたルナが走ってくる。


「これから街にでも遊びにいかね? 俺、王都くるの初めてなんだよな」


ルークは必需品が入った袋を肩にかけてそう言った。


「いいねー、じゃあ寮に行って荷物預けたら行こう」

「む、であるならば余も……と言いたいところだが、済まぬ、これから用事があるのだ」

「僕も図書館に行ってみたいので今回は遠慮します」


生活必需品は実家から持ってきている為、急ぐ必要はない。遊びらしい遊びなんてしたことがなかった為に、友人とショッピングというのは魅力的な提案ではあったが、今はかねてより行く予定であった図書館への興味が勝る。


「えー、ユウリもお出でよー」

「今度、必ず行きますから」


ルナとそう約束を交わし、彼女らと別れた俺は一足先に寮へと向かった。

それからすぐ、寮に荷物を置いた俺は、直ぐにお目当ての物を探すために図書館へと向かったのだが、予想を遥かに上回る本の貯蔵量にお目当ての物を見つけ出せず困っていた。


「……見つからない」


多数の学生を抱えその学習内容も多岐に渡るためか、図書館も多種多様な本が用意されている。

言うなれば知の宝庫だ。そんな中から目的の本を探そうとすると、時間と労力がいくらあっても足りない。


「すみません」


聞いた方が早いかと思い、自力で探すのを諦めて司書であろう人に話しかける。


「はーい、どうしたのかな?」


司書はにこやかな笑みを浮かべ、しゃがんで視線を俺に合わせる。


「魔法書はありますか?」

「あるわよ、君初等部ね。それなら初級魔法かしら?」

「あ、最上級魔法が記載されてる魔法書が読みたいんですけど」

「最上級? いや、いくらなんでも」


最上級と言われ、困った顔でそう言う司書。

俺くらいの子供が理解するには、難しすぎると思っているのだろう。小学生が、数学の教科書を理解しようとしているものなのだから、そう思われるのも無理はない。


「ダメですか?」

「いや、ダメというわけでは……まぁいいか、こっちよ」


小さい子供にお願いされては断りにくいだろう。少し考えた後に、司書はそう言って案内してくれる。

理解できないだろうから、直ぐに飽きて諦めるだろうと考えたのかな。


「属性はどれが良い?」

「光属性と無属性でお願いします」

「光と無ね……最上級、最上級……これとこれ、それからこれね、どうぞ」


梯子を使い、棚の上にある分厚い本を三冊手に取り、俺に渡してくれる。


「ありがとうございます……もう一つ聞きたいのですが、最上級より上、つまりは終焉級魔法書もありますか?」

「流石にないわね、その辺はかなり高いし、そもそも数がないからね……そもそも、あったところでそれを十分に扱えるだけの魔力を持ってる人なんて居ないし」


最上級の魔法書でも、それなりの家が建つくらいの希少価値がある。それ以上に値がはるとなると、そう簡単には手に入らない。

ここならもしかしてと期待してきたが……いや、最上級魔法書が三冊もあったから、完全な無駄足という訳ではないけれども。

一先ずはそれらを覚えようと三冊の魔法書を抱えて、空いているスペースに行き、陽当たりの良い窓際の席で広げじっくりと目を通す。

魔法は特に何も考えずとも、呪文を詠唱し、魔孔を開いて魔力を外に出せば外に誰でも使える……が、それが出来るのは初級魔法だけ。そこから先は魔法の構築、制御を行わなければならない。

初級魔法は体内の魔力を外に出すだけだが、下級以上は魔孔を通して放出した魔力を、魔法の形へと変換し動作を制御する必要がある。魔法の呪文は、それを補助するサポーターのような働きをしている。

無論、技術だけでなく相応の魔力も消費されるため、魔力を操る技術と魔法を扱えるだけの魔力量の両方がなければ、魔法は使用できないというわけだ。


「魔力のコントロールさえ出来れば、そこまで難しい事じゃないんだけどね」


逆を言えば、それさえ出来れば後は、魔法の構築と制御の方法を頭に叩き込んで置けば良い。後は感覚と反復練習で扱えるようになる。

元々、勉強は割りと得意な方であり、転生してからは子供特有の吸収力が合わさりかなり効率よく吸収できると思っている。

一冊目の三分の一程度の内容を終えた辺りで、日は大分傾きそろそろ寮に戻らねばという時間になってしまった。


「今日はここまでですか……少し惜しいですが、また明日にしますか」


途中まで読んでいた魔法書を閉じ、それらを抱えて元あった棚へと返却して図書館を後にする。


「最上級はこれで大分幅が増えそうですけど、そこから先はどうしましょうかね……終焉級魔法はどうにかできるかもしれませんが、どうしてもと言うときは我儘を言えばなんとか……ですが神級魔法はどうにも」


家の力を私欲で行使するのは不本意ではあるが、ライトロード家の財産とパイプを使えば、魔法書の入手や、使える者に教えを乞う事も出来るかもしれない。が、神級魔法となるとそれも難しい。

神級は神話に出てくるような魔法だ。つまりは伝説のようなもの。魔法書など世界でも数える程しかないから、手に入れるのはかなり難しい。そもそも、それらも全て噂にしか過ぎない代物で、実在するかすら怪しい。

ただ、それでも存在が否定されないのは、何度か歴史上において神級魔法が行使されたという記録が残っているからだ。数百年前、この国と周辺国家との同盟国と当時強大な軍事力有していたというクアージャ帝国との大規模な戦争が起こった際、各国有数の魔法師が十人掛かりで大規模な魔法を使い、戦争を終結させたというのは割りと誰でも知っている話だ。


「まぁ、そればかりは運よく自分の手元にやって来てくれるのを願うしかないですよね」

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