聖地セレネスの集落跡を、一人の少年が歩いていた。
　ロイ。ヴォルフラムの信頼厚い部下の一人である。
　彼の仕事は密偵だ。年格好こそ少年ではあるものの、その腕は一流。国内から国外まで、諜報の行く先は幅広い。
　そんな彼の今の仕事は、聖地セレネスに残るルドロス帝国の痕跡を調査することだった。

（ったく、大将も悠長だよな。そんなことよりも、逃げ出した皇太子を追わせてほしいんだけど）

　アルタール王国に課せられた大罪を晴らす。
　自分の主を始め、多くの人々がその願いを胸に、彼の帝国との戦いに挑んでいることは重々承知している。
　だが、年若いロイにしてみれば、自分の生まれる前の話だ。
　元より身寄りがいないこともあり、周囲に比べると、その熱意は薄い。
　ロイは心の中でぼやきながら、土が踏み固められた道を進む＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

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