TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
恋してもいいですか?

恋してもいいですか?

「恋してもいいですか?」のメインビジュアル

3

第3話 私は俺のものじゃない!

♥

109

2021年12月09日

シェアするシェアする
報告する

「あはははははは! それ、なんてマンガで小説でドラマなの!」 !

親友の渡辺杏子(わたなべきょうこ)に、宝条さんの秘書になったことを伝えると大笑いされた。

「全然笑い事じゃないから!」

「イケメンで仕事もできる御曹司。乗っているのは馬のマークが目印の白いフェラーロでしょ? どこの白馬の王子様だよ!」

「おまけに真っ赤なスーツね」

「それそれ! どこの芸人だよ! あははははははは!」

週末、私は行きつけの居酒屋さんの個室で、杏子と一緒に楽しく飲んでいた。

お酒は強くないし、たいして飲んだりはしないけど、こうやって杏子とお喋りするのは大好き。

他の友達も一緒のこともあるけど、杏子とは多いと毎週、少なくとも月に2回はここで飲んでいる。

「でもさ、3日も続いてるんでしょ?」

「そうだけど、口を開けば文句だし命令だし」

「命令するのが仕事みたいなもんでしょ」

「そうだけど、拒否権は一切与えられないっていうか、そもそも受けた命令は完遂するのが当然だと思っているというか……」

「あっ、褒められたいんだ? 『よくやってるぞ、恵美』って」

「そうじゃなくて! というか、どうして名前!? そもそも苗字すら呼ばれた記憶がないんだけど!」

「意中の相手の名前を呼ぶのは恥ずかしいからしゃーないね」

「学生じゃないんだし……。お前とかオイとかだけだよ」

「熟年夫婦?」

「どうしてそうなるの」

「たった3日でこんなに親密になるなんて、もうお嫁さんに行くしかないね。こうして独身は私だけに」

杏子は遠い目をして、シクシクと口にしている。

私と宝条さんが結婚……。

「いやいや、ないって!」

一瞬でも考えてしまった自分を、誰か叩いてほしい。

想像に反した生活が待ち受けているに違いなのだから。

それに、そもそも……

「でも、恵美は強引な人は大嫌いなんだよなぁ」

まったくもってその通り。

「ちっちゃい頃に、メガネをかけた俺様系男の子に好かれて、愛を迫られたせいだっけ?」

「イヤって言ってるのに、追いかけられただけ」

本当は、もう少し複雑な話だけど、ここは楽しくお酒を飲む場所だ。

私はグイッと、ジョッキに3分の1ほど残っていたビールを一気に飲み干す。

「とにかく! 私は優しい系の人が好きなの!」

「これまでの彼氏も優男ばっかりだったしね~。良くも悪くも」

「なんか言った?」

「べっつに~。ほら、恵美。おかわりは?」

「もちろん生中で!」

第3話 私は俺のものじゃない!

今日で、秘書になってから1週間。

我ながらよくやっていると思いながら廊下を歩いていると、見知った背中があった。

「先輩!」

「三上さん! 元気そうだね」

しばしば視線で追いかけていた頃が、すでに懐かしい。

「一部では噂になってるよ」

「なにがですか?」

「あの宝条さんの秘書を1週間も続けていられる強者が現れたってね」

「その表現、素直に喜べないんですけど……」

「あはは。心配はしてたけど、三上さんならできると思っていたよ」

先輩は頭を優しくポンッとしてくれる。

これだけで、私は頑張れます。

どうせなら、宝条さんじゃなくて先輩につきたかった。

「こんなところで油を売っているとは、いい度胸をしているな」

声に振り返ると、宝条さんがいた。

「ふむ……」

宝条さんは、私と先輩を交互に見る。

「初めてご挨拶させていただきます。第一課の東郷です」

「ああ、噂には聞いている。なかなかの手腕だとな」

「それは、とても光栄です」

宝条さんと先輩は握手を交わす。

同じ勤め先だというのに、取引先と挨拶をしているみたい。

「だが、ひとつだけ忠告しておいてやる」

宝条さんは握手していた手を離すと、私の肩に腕を回して、グイッと引き寄せてきた。

ボフッと、宝条さんの胸元に後頭部があたる。

「コイツは俺のものだ」

頭上から聞こえる声。

ちょっと、当然のように何を言っているんですか!?

なんて言いたかったけど、思うように声が出ない。

それは抱きしめられているからなのか。

それとも、先輩を目の前にして、緊張してしまっているからか。

「随分と親睦を深められたのですね」

先輩はニッコリ笑顔になる。

「気に入ったもんには、とことんエサをやるのが俺のやり方だからな」

「誤解されるような行動をとると、三上さんにも迷惑がかかりますから、気を付けてくださいね」

じゃあまた、と先輩は私に小さく手を振り、去って行ってしまった。

「偉そうだな」

腕の力が抜けたので、その隙に私は宝条さんから離れた。

「偉そうなのは宝条さんのほうです!」

ああ、終わった。

間違いなく先輩に誤解されたし、もう終わった。

あんなに優しくて素敵な人、この先、見つかるかどうか。

「……どうして、あんなこと言ったんですか?」

「なにがだ?」

「私が俺のものだなんて……」

「面白い展開になると感じたからだ。予定通りだろ?」

してやったりと、宝条さんは愉快そうに微笑む。

面白くもないし、むしろ残念でガッカリだ。

先輩に、どうやってフォローしたらいいのだろう。

「おい」

「なんでしょうか」

なんとか仕事モード保ちながら返事をする。

「明日、出張だ」

「えっ?」

突然、さも以前から決まっていたかのように宝条さんは告げる。

「出張って、宝条さんと……私がですか?」

「他に誰がいる。覚悟しておけ」

それだけ言って、宝条さんも去ってしまう。

ちょっと待って。

ふたりきりで出張って、ウソだよね?

それに覚悟しておけなんて……。

宝条さんとふたりでなんて、なにが起こるのか。

先輩に誤解されただろうことよりも、突然やってきた不安に頭の中がいっぱいになる。

そして、その不安は現実になるのだった。

第4話へ続く

恋してもいいですか?

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

109

コメント

1

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
;