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10000文字も読むのか私 感想書きつつ頑張るよ まず、騎士×王子の時点で好き 王子すご、戦いの元凶なんだ 僕だけが知ってるって独占感あるね いいな、優越感とかあるんだろうし 王子様になりたいから守りたいから 騎士になるってロマンチックですね 本気でなるあたり、青さんだな 紫さん大丈夫か? お酒耐性ちょっと付いてんのオモロ おんぶなの可愛い、(謎) 軽々しくできるのスマート紳士
フォロー失礼します!!! 青紫書いてる方少ないから 見つけた時めちゃめちゃ嬉しかっです‼️
めちゃくちゃ感動しました😿素敵すぎました😭💗
※ attention ※
・ stxxx
・ 青紫
・ 騎士 × 王子
・ 派生 パロ
・ 死ネタ
・ バドエン
※ 10,000 文字 ↑ あります ( 小声 )
僕には、守らなければならない存在がいる。それは、王子様だから。というのもあるが、僕の中で彼は、大切な存在だから。という理由もあった。
王子の名は、ななもり。誰に対しても優しく接してくれて、更には仕事もこなせるという、まさに秀才と呼べる存在だった。そんな容量のいいななもり王子は、他国からも欲しがられる存在で、ななもり王子をかけた戦いが起こるほど、愛された王子なのだ。
そんな王子は『完璧』を求められていた。
僕は知ってる、王子が『完璧な人』では無いことを。そして、完璧ではないのを知っているのは、僕だけということも。
僕は、そんな彼の『王子様』になりたかった。おとぎ話ででてくるような、かっこいい王子様に。
彼の中で、僕は唯一頼れるような存在に。
だから僕は、彼のために剣を振るう『騎士』になろうと決め、僕は、彼を守る騎士になったのだ_
「ころぉん…」
「王子、酒弱い癖に何やってるんですか」
「だってぇ…ぅう……」
机にひれ伏せ、気持ち悪そうに唸る王子。僕は稽古があって知らなかったが、今日は舞踏会があったらしく、相手の女性とお酒を飲もうと誘われたのだ。だが、運悪く、その女の人は絡み酒だったようで、滅茶苦茶飲まされたそうだ。そして、なんとかその場をやり過ごしたようだが、飲みすぎたせいか、気持ち悪くて動けなくなり、僕に連絡してきたらしい。
「全く、断ればいいものを…王子、立てます?」
「無理かも…ころん、おんぶ……」
「はいはい」
今では一流と呼べるほどの騎士になった僕は、自分の何倍もの剣を振るえる程強くなったため、細身の彼を楽々持てる。
おんぶだと前後に揺れて酔ってしまうかもしれないと考え、僕は王子の命令を無視し、僕は彼の膝の裏に腕を通し、彼を持ち上げた。あと、普通に彼をお姫様抱っこしたいという僕の欲望もあった。
…うん、軽い。身長171cmの癖に中身が無さすぎる。
「ちょ、ころん。おんぶでいいってば……!」
「おんぶは揺れやすくて酔うかもと思ったので」
「もう十分お酒で酔ってるよぉ…」
「何、恥ずかしいんですか?」
少しからかい半分でそう聞いてみた。ぶっちゃけ、王子は照れることがあまりない。秀才だから褒められ慣れてるだろうし、かっこいいともよく言われる、正に『王子様』的な存在の彼。
「……別に」
だが、そんな存在の彼は、偽りの彼にすぎない。本当はものすごく可愛くて、天然ドジ。僕からしたら彼は、『ほっとけないお姫様』としか思えない。
だって。いつも王子様を偽っている彼が、お姫様みたいな扱いをされるだけで、こんなにいじらしくなるなんて、可愛い以外の何物でもないだろう。
「顔、赤いですよ?」
「……酔ったの」
「ふーん、どっちに?」
「ころん嫌い」
「僕は好きですよ」
「……………そ、」
照れ隠ししている可愛い彼も、本当は意地っ張りな彼も、強気な彼も__知っているのは、本当に僕だけ。愛おしい人の本当の姿を知っているのは、僕だけ。
(…優越感、やば)
顔が少し熱い、口元が自然と緩む、心臓が、ドキドキしてる。
最後まで余裕ぶれないのは、可愛くて狡い、彼のせい。
「ななもり王子を捕らえろ!!」
「彼を必ず手に入れろ、死ぬ気で探し出せ!!」
「ころ、ん……?」
最期の最後まで、僕が彼のカッコいい『王子様』になれなかったのは
「……待ってて、ななもり王子」
弱い心を持つ、僕のせいか。それとも、僕の恋心を乱す、彼のせいか。
いや、違う。
悪いのは、全部__,,, .
今夜は新月で、空はいつもより暗いから、彼の顔がよく見えない。でも、それでも綺麗だと思うのは、きっと彼をずっと見てきたからだろう。
「あーぁ、月見えないなぁ」
彼は新月に向かって手を伸ばし、そう呟く。
彼はやたらと月を好む。いや、夜を好む。夜を好んで、僕を上手く利用し、城から抜け出す。城から抜け出したら、人気のない野原に寝っ転がり、星を見る。ただそれだけ。でも、王子はこの何気ない時間が好きだ。そして、それは僕も同じ。
「でも、星は見えますよ」
「分かってねぇな、ころんは。夜空ってのは、月と星があるからこそ成り立つんだよ」
「…そーいうもんですかね?」
「そーだよ」
僕は夜空について、そこまで考えたことは無かった。ただ、王子といるだけで、僕は幸せだから。手を伸ばしている彼の手を取り、繋ぐ。暗くてよく見えないはずなのに、彼の顔が赤く染まっているのが分かった。
「な、何?」
「いや、月がないなら作ればいいかなーって」
「光ってないと意味ないじゃんか」
「まぁまぁ、見てなよ」
僕は繋いでいる方の手に魔力を込めた。この魔力は、何故か昔から使えるもので、でも戦いには使えないから、ずっといらないものだと思っていた。
でも、ようやく、意味があるものだと思えた。
「わ…」
「ね、光ったっしょ?」
「うん、凄い…綺麗。」
「これね、僕の魔力で。〈光夢〉って言うんだけど、ただ光るだけだから、本当に騎士としてはいらないものだったんよね」
「…おれは、そうは思わないよ」
「それは、僕も今思った」
〈光夢〉_この魔力は、ただ光るだけが取り柄じゃない。
「あ。見て、ころん!」
「なんですか…って、うわ……」
夜空には、僕らが作った満月と、星。それから、天ノ川を作る灯籠が、空に流れた。
「凄い、こんな綺麗な夜空、おれ初めて見た…!」
「僕も……多分、王子と出逢わなかったら、見れなかったかもしれない」
「んふ、何。惚気?」
「そーですよ?」
「あぁ…そう、ふーん……」
強がりで聞いたらしいが、素直にそうだと答えると、逆に羞恥心が溜まってきたらしく、僕から目を逸らす。強がりなくせに、最後まで強がりきれなくなって、結局自分が負けて照れる。そんな王子が、愛おしくてたまらない。思わず彼を引き寄せ、僕の腕の中に収める。すると、案の定分かりやすく照れて暴れだした。
「ちょっ、ころん…離せっ!!」
「嫌です。一生離してやりませーん」
「束縛男めぇ…っ」
「そこが好きな癖に」
「うるさいっ!!」
僕の魔力の、本当の取り柄。それは_
「他国が攻めてきたぞ!!」
「ななもり王子だけは守れ!!」
何よりも大切な存在を照らすため。なんて、ロマンチストなものでも、奇跡が起こるようなものでも、何でもない。
「王子…っ、ねぇ、お願い……目を、覚ましてよ…!!」
光夢、ヒカリユメ。
僕の魔力は、とても強大で、恐ろしいもの。僕は、この魔力のせいで、今後を狂わされることなんて、この時は知る由もなかった。
だって、まだ。この物語の結末を、誰も知らないから__,,, .
何でもない日、今日も、そんな日が来ると思っていた。いや、願っていた。僕も、彼も。この街の人々も。何でもない日が来ることを望んでいた。
「はっ!やっ…!!」
「ころん、動きが少し遅いぞ!!」
「っ、すみません……!」
今日は朝から稽古をしており、かれこれ3時間はぶっ通しで剣を振るっている。早く休憩こないかな、なんて、思いながらも剣を振るっていた。そこまでは、日常だった。
「剣を突く時はもっとこう……がはっ…!!」
「もっとなんですか……って、」
さっきまで隣でうるさかった団長が、ドン。と音を立てて倒れ込んだ。背中から剣が突き刺されており、もう生きてはいない。そんな団長の後ろに立っている人物は、明らかに他国の者だった。
「だ、団長!!」
「おい、お前。王子の居場所を知らないか?」
「知ってても教えるわけないでしょ、それより。お前の国は僕達の国と同盟を組んでいるはずだろ!」
「あぁ、組んでいたな。でも……俺らが欲しいのは、お前たちの国じゃない、王子なんだよ」
不適切に微笑む敵を見て、僕は察した。この国に、既に相手国の人々が侵入してきていることを、そして、きっと相手国側は、もう街の人々を数名殺めてきているということも、何となくわかった。だって、毎日お祭り騒ぎなこの街から賑やかな声が聞こえず、代わりに悲鳴とSOSを叫ぶ声が、ようやく僕の耳に届いたから。
「っ、王子…!!」
このままでは、王子が危ない。
僕は、目の前にいる敵を一旦無視して、王子の元へ行くために、入口へ向かおうとしたが、生憎、入口は相手が立っている方向にあるため、勿論邪魔される。
「邪魔すんな!!」
「お前が王子の元まで、俺を案内してくれるというなら…話は別だがな?」
「くっそ……」
一か八か、僕は、最上階にいる王子の所まで、壁を登って行くことにした。ここの壁以上に高い壁を踏んだり蹴ったりで登る訓練を何度かしたことはあるけれど、僕は、この訓練はどうしても苦手だった。高い場所が、怖かったから。
でも、そんなことで怯えているヒマはない。
「王子…無事でいてっ……!」
「逃がすか!」
「〈光夢〉_フラッシュ!!」
「ぅっ…ま、眩し……!!」
フラッシュで相手の目を眩ませ、壁を伝っていく。ただ、壁を伝っていくのは簡単ではない。壁をよじ登るのではなく、壁の近くにある障害物を台にして、また次の台へとジャンプで飛んでいくという技。効率はいいけれど、なんにせよ超スリルなものだから、最悪、落下死する可能性だって普通にある。だから僕は、この訓練は怖くて苦手だった。
「こっわ……この高さから落ちたら、流石に死ぬなぁ…」
下を見れば、敵がもう豆粒くらいのサイズになっていて、周りを見渡せば、街の景色が見える。いつもなら、みんなが楽しそうに暮らしている姿や、植物の緑が見える。平和と呼べる、この街の景色。そんな街の景色は、今は火で赤く染め上げられており、先程よりも悲鳴の声があがり、今や絶望と呼べるほどのこの景色は、とても見慣れたものじゃなく、恐怖を感じた。
平和だったこの街の姿は、何処へいったの?
明るいみんなの声は、何処へいったの?
もう一度下を見る。足の下からは冷たい風が通り、明らかに落ちたら死ぬという高さまできているから、恐怖で足が震える。正直、不安で、恐怖で仕方がない。今、僕の中に希望の2文字はない。この街がまた、平和になる景色は_とても、見えたものじゃない。今は。
『ころん』
でも
「…逃げちゃダメだろ、ころん……!!」
だからといって、戦いから逃げることは、自分だけ助かることは、許されることでは無い。
「弱気になっちゃダメだ。王子にも言われたじゃんか……!!」
僕がこの街に初めて来て、不安だった当時。彼に言われたあの言葉で、僕は救われた。この街を好きになった。そして__
「っ、助けて、ころん!!!!」
「王子…っ、なぁくん!!」
彼を、好きになった。
僕がまだ4歳くらいの頃、元々住んでいた自国が滅び、代わりにこの街へやってきた。
「今日からここが私たちの家よ」
「どうだ、ころん。嬉しいか?」
この国は、昔も親切で、事情を話したら、直ぐに空き家と銀行。そして仕事場もくれた。そんな親切だから、僕の両親はすぐにこの街を気に入った。けれども、僕はすぐに人を信じるタイプではないし、自国になんだかんだ愛着があったから
「…僕、おうちに帰りたい」
なんて、叶わないわがままを言って、両親を困らせた。まぁ、当時人見知りがあった時期だったのもあったから、仕方ないといえばそうだけど。
いくら親切だからとはいえ、子供にも仕事があるのは変わらず、大きくわけて『騎士』か『内職』しかなかった。細かい作業が苦手だった僕は、『騎士』を選び、次の日、この国の城に向かった。
…そこで出会ったのが、1つ歳が上の彼。
「はじめまして、おれはななもり。この国の王子なんだ。そして、きみの役目は、騎士としておれを守ることだよ」
ななもり王子だった。
初めは、すごく大人びてるなと思った。ひとつだけ上なだけ、本当にそれだけなのに、3歳くらい上の人にみえた。ただ、それ以外特に思うことはなかった。まだ。
「はっ…やぁっ!」
「ころん、足の動きがズレてるぞ。焦らず慎重に、でもスピーディに的確に動け!」
「はぁっ…はぁっ……」
それから時が経ち、僕は10歳になった。10歳になったら、木だった剣が石に代わって重くなるので、重心が捉えずらくなり、更にはテンポも上がるので、少し焦ってしまう。
(もう、やめたいな)
前の国では、こんなに手厳しくなかった。4年しか住んでいないけれど、子供だから、もっと優しくアドバイスをくれて、出来たら「凄いね」と褒めてくれた。そんな暖かい街が、僕は大好きだった。もう、存在しないけど。
僕は嫌になって、とうとう稽古から逃げ出した。辛かった、知り合いもいないのに、誰からも褒めてもらえないのが、僕には辛かった。だって、僕は一人っ子で、沢山甘やかされてきたから。その生活が当たり前だと思っていたから。
「あれ、きみ…」
「っ…おうじ、さま……」
あぁ、叱られる。サボるなって、怒られる。それを覚悟して、僕はギュッ。と目を閉じた、が。
「…おいで、おれだけのとっておきの場所に連れてってあげる!」
「え、ちょっ……!?」
彼は優しく笑い、僕の手を引いてくれた。絶対怒ると思っていたから、驚いて、僕は聞いてしまった。
「怒らないんですか…?」
そう聞けば、彼はきょとん。とし、しばらく僕を見つめたあと、また優しく微笑んで、小さくて暖かい手で、僕の両手を包んだ。
「うん」
「逃げ出したいときは、逃げてもいいんだよ。これは練習だから」
「辛いとき、おれのところにおいで。苦しい思い出、なんでも聞いてあげる。慰めてあげる。」
「でも_本番は絶対、逃げちゃだめだよ?」
その言葉が、僕を救ってくれた。
彼は、辛かった時に話を聞いてくれて、聞き終わったら「頑張ったね」「すごいね」と褒めてくれた。それが、僕には凄く嬉しい事だった。
「なぁくーん!!」
「ころちゃん、どうしたの。また嫌なことあった?」
優しい彼が好きだ。頼れる彼が好きだ。紳士な彼が好きだ。かっこいい彼が好きだ。
でも、それ以上に
「僕、一流の騎士になって、なぁくんのこと守ってあげるね!」
「え、どしたの急に」
天然ドジな彼が好きだ。
「だって、そうなったら僕は、なぁくんの隣にいられるでしょ?」
「へぇ、ころちゃん。おれのことめっちゃ好きじゃん」
強がりな彼が好きだ。
「うん。僕、なぁくんのこと本気で好きだよ」
「へぁっ…?」
「あは、照れてるー。かわいー♡」
「こ、ころんっっ!!」
素直になれない彼が好きだ。無駄に虚勢を張る彼が好きだ。
「ごめんって」
「でも、僕結構マジで好きだよ?なぁくんのこと」
僕の前でしか見せない
「……ふーん、ま。頑張れば」
弱気な彼が、ものすごく好きだ。
僕は壁を登った。高い壁を、登って上って。ようやく目的の場所についた。
「なぁくんを離せっ!!」
相手国にさらわれる寸前で、僕は相手の右腕を剣で切り落とした。しっかりなぁくんを奪って。切られて苦しんでいる間に、僕は彼を遠くへ連れて行こうと思ったが、相手はどうやら思っていたよりもタフらしく、僕も足首を少し切られてしまった。
「ころんっ、大丈夫…?」
「うん、こんくらいへっちゃらだよ」
相手は右腕の戦士らしく、左腕で慣れなそうに剣を構えた。僕は、戦うことよりも、彼の安全を優先するため、一旦剣を落とし、彼をお姫様抱っこし、いつでも飛び降りれるように、窓に足をかけた。
「貴様っ……王子を、よこせ…!!」
「は、ヤダね。」
「だぁっっ!!」
利き手ではない方での剣の突きの構えは、重心がぶれぶれで、避けるのも簡単だ。一旦右側に避け、かかと落としで、相手の剣を落とす。窓の近くにいたから、剣はそのまま下へ落ちていった。もう相手は剣がない。
「ぐ……っ」
「まだやるの?」
余裕ぶって、挑発するように笑ってみせると、当然キレてきた相手は、僕に素手て攻撃をする。王子を傷つけないように、攻撃を避けながらも、僕も足を使って攻撃を仕掛ける。相手の脛を蹴ると、折れたのかその場にしゃがみこんだので、完全に対ありだと思い、王子を降ろす。
「ありがと、ころん」
「どーいたしまして、プリンセス?」
「おれは王子ですぅー!」
が。
「スキあり、」
そんな気の緩みが、間違いだった。
「か、は……っ」
「うそ…なぁ、くん……?」
完全に、余裕ぶっていて忘れていたのだ。相手国は、剣だけでなく、短銃や長銃を持っているということを。
「俺の国では、相手を連れて帰るなら、最悪傷つけてもかまわないっつー決りがあんだよ…」
「お前…よくも、よくも、俺の王子を……!!」
「ころ、ん……っ、、」
「……待ってて、ななもり王子」
なぁくんが傷ついた。彼の、王子の、綺麗な身体が、どこの誰かも知らない奴に傷つけられた。そんな事実が、僕の火に油を注いだ。僕は我を忘れ、相手の心臓を貫き、殺した。何度も何度も突き刺して、息の根がなくなるまで、刺し続けた。ついでに、僕一人で、相手国の騎士をほとんど殺した。僕の中についた火が消えるまで、殺した。
気づいた頃には、この街には雨が降り注いでいた。雨のおかげで、街についていた火は消え、景色はいつも通りの街に戻っていた。
見た目は、いつも通りの街だ。僕が大好きなこの街の景色。木は枯れてなくなったけど、育てればいつかは戻るだろう。
__けれど
「………ただいま、なぁくん」
「ころ、ん……?」
「うん、僕だよ。ころんだよ。」
「…ふふ、ほんとだ……いつもの、ころん、だ……ても、あたたかい………」
「……なぁくんは、冷たいね」
「う、ん……」
彼を、守ることは出来なかった。最後まで、僕は彼の『王子』になることは出来なかった。
……僕が、油断しなければ、あんなことにはならなかったのに。
なんて、今更悔やんでも仕方がないのに、僕は彼の冷たい体を抱きしめた。暖かかった彼の体温が、まるで嘘みたいに冷たい。抱きしめて彼の腹から溢れる血が服についたけど、今はそんなこと気にならなかった。
「なぁくんっ…ねぇ、僕、頑張ったんだよ……」
「しってる、えらい、ね…ころん、は」
「…うん。でも、でもっ。僕、努力が報われなかった……っ、なぁくんを…ひぐっ、ぅ……王子を、守りきることが、出来なかった……っ、ぐずっ」
「ころ、ん…、おとこ、だろ……?なく、なよ……」
「泣くに、決まってんでしょっ…!!」
「……やさしいね、ころん、は…」
息が、浅い。彼の一言一言に、勢いがない。彼の瞼が下がりきり、もうその目は開かなかった。
「嫌だっ、まだ死なないで……っっ!!僕、僕っ…………、まだ、っは、ぐす…君の、王子様に、なってないよ……!!」
彼の肩を何度も叩いたが、彼が起き上がる様子も、瞳を開ける様子も、ない。
「……………ばーか、」
ただ、口を開いて、最期にこう、話した。
彼は、静かに息を引き取った。それと同時に、雨の音が強くなり、僕の瞳からは、しょっぱい涙が、彼の顔に大量に流れ落ちた。
彼が『秀才』と呼ばれることに苦しんでいるのを知っていた。それをわかっていた。けれど、僕は助けることをしなかった。彼に頼って欲しかったから、『助けて』と言わない限り、絶対に救ってやらない。なんて、自分は助けてもらったくせにとんだ理不尽だとは思う。
__,,, 悪いのは全部、王子にプレッシャーを与え、苦しませるこの世界 .
「……ゆっくり眠ってね、王子。」
彼の死体は驚くほど綺麗で、僕は彼を土に埋めずに、僕の布団に置いた。僕は、彼の隣に寝っ転がって、そのまま眠りについた。
それから、僕は何日か眠っていたらしく、目を覚ましたら、静かだった街は、いつの間にか元の賑やかな街に戻っており、眠る前までは綺麗だった彼の死体は、いつの間にか腐っていた。
「なぁくん、今日は新月だよ。だから…また、2人で月を作りに行こ?」
まだ昼なのに、僕は彼を抱えあげ、そのまま外へ向かった。人気なんて全くない草原には、いつの間にか綺麗な花畑と変わっていた。
「わ…なぁくん、見て。綺麗なお花畑だよ」
「……そういえば、なぁくんは花粉症になりやすいよねぇ。くしゃみばっかしてて、可愛かったよ」
彼の死体を花畑の上に乗せ、その隣に僕も寝っ転がる。腐っているのに、相変わらず綺麗な顔だなとつくづく思う。彼の頬を撫でれば、やっぱり冷たくて、悲しくなる。
「なぁくん、僕が考えた葬り方があるんだけど、いいかな?」
僕は彼の手を繋ぎ、その手に魔力を込める。すると、前と同じように光るが、今は昼なので、あまり綺麗に見えない。だけど、今はそんなこと、どうでもいい。
「〈光夢〉_フラッシュ・バック」
僕が考えた葬り方、なんて言ったけど、僕は葬る気なんて一切ない、かと言って、心中する気は全くない。だって僕は、死ぬのは嫌だから。
「また、会おうね、ななもり王子。僕の_お姫様」
来る未来は同じ未来。でも、それでもいいから、僕は彼と居たかった。どれだけ苦しもうが、僕は学ばず、またこうして、君と出会おうとする。
束縛魔とか、言わないでよ?
だって、そんな僕を好きな貴方も、僕と同類なんだからさ。
光夢、ヒカリユメ。
この魔力の、本当の能力は__,,, .
永遠の愛、永遠の恋。僕は、それが普通だと思っていた。自分の両親も、昔から運命という形で出会って、そのまま結婚して、そして、こうして家庭を築いている。そう、4歳児の僕は思っていた。
「はっ……やっ!!」
「ころん!動きが遅いぞ!!」
「っす、すみません……!!」
僕は今年で10歳になったから、木の剣じゃなく、石の剣にへとグレードアップした。だから、少し重くて重心はぶれるし、動きは鈍くなるしで最悪だ。何より、もっと最悪なのは、誰からも褒めてもらえないことだ。
こんなに頑張ってるのに『偉いね』とも、『すごいね』とも言われない。前の国では、そんなこと無かったのに。
(帰りたー……)
この国は親切だけど、こういう手厳しいところは好きじゃない。戦いにここまで命を懸けているのだと、思ってしまうから。
「よし、今から5分間休憩を取る!」
(ようやく休憩だぁ……)
3時間稽古の時間があるのに、5分しか休みがないとは、どれだけ野蛮な国なのだろう。ちょっとこの街が嫌いになりそうだった。
この5分が終わったら、また辛い稽古の時間がやってくる。やっぱ内職にしとけばよかった、なんて、今更ながら後悔したが、内職の方が役に立たないだろうと思うと、まだこっちのがマシだと思えてきた。
団長から水を貰い、その水を一気に飲み干す。それだけでも、少し疲れが取れた。
(……5分、休憩。)
僕以外、みんな友達というか、グループがいるようで、皆それぞれ固まって話をしたり、熱心なグループは、団長に見てもらいながら練習を始めている。誰1人、僕のことなんて気にかけていない。
(これは…チャンスかも)
もう嫌になってきた頃だったから、僕は周りに気づかれないように、練習場からこっそり抜け出し、城の裏側に逃げ出した。
「はぁ……」
逃げ出したはいいけれど、罪悪感はやっぱりある。僕って意外と善良な人間なのかも。と、自分のことを少し棚に上げてみた。が、ネガティブな気持ちは無くならず、ポジティブになろうと思うほど、どんどんネガティブな気持ちになっていく。
「やめたいな……」
もう、疲れたし、どうでもいい。この街なんか大っ嫌いだ。
僕はその場に蹲り、静かに涙を零した。すると、かさ。と、近くの茂みから音がしたのがわかった。まずい、団長に見つかったか…?
そう思い、構えてはいたが、出てきたのは団長_ではなく、僕よりも少し歳が上な男の子だった。僕はこの人を知っている。だって、騎士に入る時に出会ったから、この国の、王子として。
「あれ、君……」
「っ、」
まずい。
団長だろうが王子だろうが、どっちにしろ、絶対に怒られる。僕は覚悟をして目を固く瞑ったが、僕の手に添えられたのは、王子様の暖かい手だった。
「え……」
「おれについておいで、秘密の場所だったけど、君になら教えてあげる!」
「ちょっ、ちょっとぉ!?」
その手は僕を優しく引っ張り、一緒に抜け出してくれた。怒る素振りなんて見せなかった。そんな彼を見て、思った。
(…この人は、幸の棒をあげれる人なんだ)
辛いという文字に、1本の線を渡せば幸せになる。けれど、その1本はどこから来るのだろうかと思っていたが、彼を見て、確信した。
人が、くれるものなんだ。と。
「あの、王子…」
「なぁくんって呼んでよ、多分だけど、1個しか歳変わらないでしょ?」
けれど、僕はその後のことを考えていなかった。
「…うん、なぁくん!」
「あ、そういえば…きみ、名前なんて言うの?」
「僕?僕はね、ころん!」
「ころん……じゃあ、ころちゃんだね!」
「あだ名、僕初めて付けられたかも」
「えへへ、ちょっと嬉しいかも」
「なんで?」
辛い。その言葉に1本棒を付け足したら幸せになる、その棒は、人がくれる。
そこまでは、いい。けど。
「なんか、ころちゃんの特別に慣れた気がするから!」
その棒を抜いて、人にあげてしまったら、自分が辛くなってしまうということを__。
光夢、ヒカリユメ。
その本当の能力は、永遠に『夢』に囚われ続け、永劫に『光』が見れない、最悪な魔力。しかも、1度この魔力を使ってしまえば、もう二度とループから抜け出すことはなくなり、メンタルがピークを迎えた頃__死んでしまう。呪いの魔力。
〈光夢〉での葬り方、その名は_,,,