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長いこと走らせ続けてきた車のエンジンを止めると、俺は目の前に建つ年季の入った日本家屋を眺めた。
「相変わらず、ボロいな……」
中学まで自分が暮らしてきた家を見つめてそう呟くと、車から降りて玄関先へと続く道を歩き始める。
———コツンッ
(ん……?)
何かを蹴飛ばしたような感触に、俺は自分の足元へと視線を落とした。
(これは……)
地面に転がっていた靴を拾い上げると、マジマジとそれを見つめる。
(……っ! やっぱり、そうだ!)
この靴は、あの時智に井戸の中へと捨てられたもの。
(何で……これが此処に……?)
やっぱりあの時、智は井戸になど捨てていなかったのだろうか? そう考えてみるも、それでも今になってこの場所にある事が不思議でならない。
(——! きっと、あいつらだ……っ)
俺が帰ってくると知った司か隆史のどちらかが、また俺に嫌がらせをしているに違いない。
(……あの時、やっぱり井戸になんて捨てずに持ってやがったんだ)
十年経っても変わらない関係にウンザリとしながらも、明日の告別式で恥でもかかせてやろうとほくそ笑む。
田舎から出た俺は、母親に楽をさせたい一心で猛勉強をした。その甲斐あって、ストレートで有名大学へと進学すると、そのまま大学を卒業して一流企業へと就職をした。
そう——今の俺は、昔とは違う。
足元の高級な革靴を眺めてフッと鼻で笑うと、俺は手の中にある薄汚れた靴を遠くへと放り投げた。