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常識と非常識 アリエッタの思いつき

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2024年03月05日

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ミューゼがアドバイスを聞いている頃、上の窓…城内から訓練所を見つめる1人の人物がいた。

ある一点をただじっと見つめ、何かを考えるしぐさをしている。


「…………フッ」


その男性は、口の端を釣りあげ、その場を去った。




「え~っと、アリエッタは……あ、いた」


いつの間にか自分の膝上から離れていたアリエッタをすぐに見つけ出し、駆け寄る。

アリエッタは興奮しきった顔で、兵士の集まりを遠巻きに凝視していた。


(うお~かっこいい! 本物の魔法使いだ! みゅーぜもだけど、本物なんだ!)

「こらこらアリエッタ。離れちゃダメよ、危ないから」


アリエッタの手を取り、アリエッタに気付いていた兵士達に頭を下げる。ネフテリアもやってきて、少し慌てているミューゼを宥めた。

王女も近づいてきたという事で、兵士達はざわつき、そして男達だけ集まり小声で話し始める。


「おい、王女様の横にいるあの子、結構可愛くないか?」

「おぉぉ……若い女だ」

「俺あの幼女がすっげぇ好み」

「わかる」

「お前ら……仲間かよ」


男性兵士達は異性に飢えていた。しかもストライクゾーンの平均がかなり下にあるご様子。

女性兵士達は、そんな会話がかろうじて聞こえる位置にいた為、ジト目で睨みつけている。

魔法のリージョンであるファナリアでは、兵士の能力も魔法が主体となる。その為男女による差はほとんど無い。男性は出力が大きく、女性は制御が精密という傾向がある為、子供同士や個人レベルの主張以外では、争いになる事も無いのである。

不穏な雑談が聞こえた隊長は、額に青筋を立て、兵士達を睨みつけ、鋭い視線と気迫とハンドサインで意思を伝える。


(お前ら……後で重り付けて攻撃魔法を避け続ける訓練な)

(ひぃっ!?)


兵士達はすくみ上って動けなくなった。

一方ミューゼは、アリエッタがある一点を見つめ続けている事に気付く。


「……もしかして杖が気になるの?」

「そこから魔法を撃ち出していましたからね。練習用の小さめの杖なら1つ借りてきますよ」

「そうね、アリエッタが持ってもただの棒だし、軽いのをお願いします」


アリエッタには魔力は無い。だからこそ杖を持たせても振り回す以外の危険は無い。ファナリア出身ではないパフィやピアーニャも、同じく魔法は使えないのだ。

ネフテリアが隊長に事情を話し、一番小さな杖を持ってくると、アリエッタは無邪気にそれを受け取った。興奮している間は、完全にただの子供になっている。


「うお~……」(おぉ~、杖だ。ミューゼのと違ってすっごいシンプルな形してる。この先っぽから魔法が出てたよね。いいなぁ~)

「杖だけでアリエッタ楽しそう。私の杖も今度見せてあげようかな」

「ミューゼオラはまだヒヨッコだが、ツエだけはりっぱだからな。いったいドコであんなものみつけたのだ」

「うっ……どうせ私は新人ですよー」


ミューゼは答えなかったが、ピアーニャもこんな場所で詮索する気は無い。今はミューゼの杖の事よりも、子供アリエッタが危ない事しないか見ておく方が大事なのである。

テンションが上がっているアリエッタは、杖を振ったり掲げたりして、魔法出ないかなーと試していた。


(やっぱり僕には使えないよなー。ママが異世界の女神だもんなぁ……代わりに『彩の力』があるし)


しばらく会っていないが、今度会った時にはちゃんと『ママ』と呼んであげられるように、しっかり心の中で練習していた。今は子供だからというのと、自由にさせてくれている恩もあり、ちょっとした親孝行みたいなものと考えている。いずれ言葉遣いも改めようとは思っていたりするが、この言葉で話す相手がいない為、まだまだ先になりそうである。


(そういえばあの転移する装置みたいなので、ママの世界には行けないのかな? ……いや、行けたとしてもどこだか分からないから無理だ)


アリエッタはあっさり諦めた。

実は転移の塔で行けるのは別リージョン…本当に異世界なのだが、アリエッタは別の国程度にしか思っていない。ラスィーテに行った時も、不思議な国だなぁ…程度にしか考えていなかった。

もっとも、アリエッタの母である女神エルツァーレマイアがいるのは次元が異なる為、神にしか行き来する事が出来ない。前世の宇宙せかいにも行く事は不可能である。一応女神から説明は聞いていたが、どう違うのか上手く理解出来ていなかった。


(まぁ行けないなら仕方ない。ミューゼもいるし寂しくないし、今度会ったらちゃんと母娘おやこしよう。それより今は魔法だ! 使えないなら使えるようにすればいいんじゃないかな!)


思考を切り替え、すぐにテンションが高くなり、どうしたら自分にも『魔法』が使えるか試行錯誤する。

やがて、いつも通りポーチに手を入れ、筆を3本取り出した。


「あ、こんなところで? ダメよアリエッタ」


興奮しているアリエッタは、ミューゼの言葉を聞き逃した。ミューゼも楽しそうなアリエッタを見て、強くは止める気にならない。それに……


「またおかしなチカラをつかうか? なにがおこるかわからんから、このばしょはツゴウがいいな。すまんがテリア、ひとばらいをたのめるか?」

「……何か理由があるのね? わかった」


丁度観察出来ると思ったピアーニャは、兵士をここから出してもらう事にした。さらに、今後何かあった時はネフテリアを頼れば良いと思い、ネフテリアにはアリエッタの力を見せる事にした。

ネフテリアは隊長に、兵士達と一緒に休憩や別の仕事に行くよう頼んだ。別に見られても権力でなんとでもなるが、念のためである。地獄の特訓から逃れる事が出来ると思った兵士達は、喜んで訓練所から出て行ったのだった。

そしてこの場に残ったのは、アリエッタ、ミューゼ、ピアーニャ、ネフテリアの4人だけとなった。


「アリエッタったら集中してるなぁ。もらったばかりの細い筆も使ってるね」

「っていうか、毛色が変わってない? これがこの子の能力なの?」

「……まだよくわかっていないが、コレはまだじゅんびだんかいだ。マホウでいうとエイショウにあたるかもしれんな」

「というか、杖に勝手に色着けてるけど、よかったんですか?」

「練習用の杖だし、壊れても良いように沢山あるから気にしないで」


興奮しているせいか、慎重なアリエッタにしては珍しく、無断で色を着けていく。先端の水晶を塗りつぶし、模様を描いて完成した。


(電池でピカピカ光る杖のオモチャ。よくオモチャコーナーで見たなー。やってみよう!)


電飾が光る程度のオモチャであれば、アリエッタの常識の範疇である。杖の先端はカラフルにピカピカと光り始めた。


「んひひ~♪」(なんだかなつかし~♪)

「えっ、えっ……どうなってるの?」


気を遣って…というよりも、観察する為にアリエッタから少しだけ離れて観ていた3人。ネフテリアはその力を見るのは初めてだった為、目を白黒させている。

魔力が無いのに杖が光っている。しかも光っているだけで何かが出るわけでもないという、魔法用の杖としてあり得ない事が、ネフテリアを困惑させていた。


「みゅーぜ! みゅーぜ!」(見て見て! 綺麗でしょ!)

「うんうんすごいねー…えーっと、もしかして光るだけなのかな?」

「しらん」


ピアーニャは半分諦めている。これまでと比べても、アリエッタの力には一貫性が無さすぎるという事で、先に言葉を覚えてもらった方が早いのではと、考え始めていたのだった。

当のアリエッタはというと、杖を使って何か出来る事が無いか考えている。


(アニメみたいに魔法出たら良いけど、実際に無かった物を想像するの、結構難しい……あれ?)


自分の常識を実現するという事について、少し疑問を感じていた。


(だったらなんであの時ビーム撃てたんだ? 酔った勢いだと思ったけど、勢いでビームって出るもんだっけ?)


ラスィーテで酔った時の事を思い出し、今の自分自身の能力について考え始める。

進入禁止、太陽、リモコンといった物は、アリエッタにとって現実で馴染みのある物だった。だからこそ彩の力で実現していた。だが、ゴーレムロボットの胸部にある装置からビームが出るというのは、あくまでも創作物の中でのモノである。

女神エルツァーレマイアから教わったのは、自分の中の常識を実現化する事。それが常識であるほど完全かつ強い力となる……というもの。


(ん? 力が強くなる?)


最初に『進入禁止』を描いた時、そのイメージしたルールが実現すると考えたアリエッタは、これまで前世にあったものでしか力を使ってこなかった。だからこそ、自分の力について思い違いをしていた。


(つまり、?)


それは逆に考えただけの思いつきだった。そして手に持った杖を見て、物は試しと、先端に絵を描き始めた。


「ん? まだなにかするつもりか?」

(アニメやゲームの魔法を想像しながら……と。これでいけるのかな?)


杖の先端には丸の中に星があるだけの、簡単な魔法陣が描かれている。その杖を持って、アリエッタは兵士達の真似をする為、的に向かって杖を振りかぶった。


「やーーーー!!」


的に向かって杖を振り、止める。そしてその杖からは魔法の光が発射された。

真っ直ぐに飛んだ魔法の光の球は、的に当たると軽い音を立てて、あっさり四散する。魔法はアリエッタの常識では無かった為、イメージするよりも力が極端に弱いのだ。

しかし……


「……お……おぉぉぉぉ!!」(出た! 本当に『魔法』が出た! 描いたものだけどそのまま出た!)

「えぇ……どうなってるの?」


魔力が無いのに『魔法』を使って見せたアリエッタに、3人は唖然とするしかなかった。

対して、憧れの魔法が使えた事で、アリエッタのテンションは最高潮。しばらく調子に乗って、魔法の光をポンポン撃ち、時々クルクルまわったり飛び跳ねたりして、全身で喜び続けるのだった。




一方その頃……


「ほらほらパフィちゃん。次はこのドレスなんてどう?」

「えっとあの……私には似合わないのよ……」

「またまたぁ♡ ほら脱いで~♡」


王妃フレアの個室に連れ込まれたパフィは、フレアとメイド達に囲まれ、アリエッタと同じように着せ替え人形にされていた。

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