『佐野さんが熱出しちゃったんで様子見てきてもらえますか?吉田さん今日明日オフですよね?
疲労からくる熱だと思うんでうつるとかはないと思いますから』
マネージャーからきた唐突な連絡。
オフだからって所属俳優に頼む奴がいるかよと悪態をつきながら勇斗の家に向かう。
ピンポーン。一応、エントランスでチャイムを鳴らしてみるが反応がない為、マネージャーから預かった合鍵でお邪魔させてもらう。
「お邪魔しまーす…」
玄関も合鍵にて解錠し声をかけるがまぁ反応はない。
リビングに向かう途中に寝室を覗くと真っ暗な部屋に寝息が聞こえてきたので寝てんだろうとそっと戸を閉めてリビングへ向かう。
「看病つってもなにすっかなー」
仕事終わりに熱出て明日オフだから早急に帰したってマネージャー言ってたから帰って風呂も入らずにダウンしてるだろうから風呂…
は、熱出てるときは入んないほうがいいって言うし…まずは飯か。
「熱んときは…お粥か?こいつん家米あんの?あ、あったわ」
勇斗のキッチンを漁りながら看病用のメニューを考えるが
「もーめんどいし、卵がゆでいっか」
「めんどくさがんなし」
「うお!?勇斗、起きて平気なん?」
「んや、だりぃ…」
顔色悪くリビングに出てきた勇斗は着替えてすらなくて
「まじ顔色悪いね。てか、着替くらいしとけ」
「ん…」
ぼーっとしながら着替えに向かう勇斗を見送り、お粥作りを再開する。
「そういえば、仁人なんでいんの?」
「あ?お前の面倒押し付けられた」
「面倒って言うなや」
汗を流し着替えてきた勇斗が掛け布団を引きずりながらソファーに寝転ぶ。
「勇斗、寝るならベッド行きな。もうすぐお粥できるし。あと、髪の毛ちゃんと乾かせ。本当に風邪になるぞ」
「んー」
「はーやーとー」
返事は返ってくるがだるいのか動く気が一切ない。
「あーもう、お前なー」
流石にガチで風邪をひかれたらたまったもんじゃないので、火を消しドライヤーを取りに行く。
「勇斗、ちょっと起きれる?下降りてくんね?」
「んー」
崩れ落ちるようにソファーの下に座った勇斗の頭を乾かす。
「はい。おしまい」
「あざ」
ドライヤーを片付け、お粥を温め直し最後に溶き卵を加える。
「勇斗、寝るなら寝室行っとけ。あと盛り付けて持ってっくから」
「寝てない。ここでいい」
駄々っ子か!と心の中でツッコミながら味を調えて盛り付けしていく。
「お粥作ったけど食える?」
「食う」
食欲はあるみたいで少し安心する。
疲労からの熱なら飯食って寝たら治んだろう。
「ごちそうさま。旨かったわ」
「うい。おそまつさま」
「まーじ旨かった。さんきゅな」
「どういたしまて。こんだけ食えればすぐ元気なんだろ」
勇斗から完食した皿を受け取り、片づけを始める。
「じんとー」
「あー?」
「今日帰んの?」
「まぁ、帰るだろ」
「明日、仕事?」
「いや、オフ」
「なんか予定あんの?」
「ないけど?」
「ふ~ん」
聞くだけ聞いて布団に潜る勇斗を見ながら片づけを終わらす。
「勇斗、片づけ終わった。」
「んー」
「ほら、寝室行くぞ」
「じんとー」
ソファーに寝転んだまま手だけを伸ばして俺を呼ぶ勇斗に近づき手を握り寝室に向かう。
布団にくるまり、人の手をにぎにぎと握りながらのそのそと後ろをついてくる勇斗はだいぶ弱っているように感じた。
「じゃ、勇斗俺帰っから。温かくしてちゃんと睡眠とって休みな」
勇斗を布団に押し込み、肩まで布団をかぶせそう告げるが一向に手を離す気配がない。
「仁人、やっぱ今日泊まってけ。な?」
ぎゅっと手を握り、普段の強気な勇斗とは裏腹な少しだけ不安そうな声音。
目から伝わる断らないでの懇願。
「わかった。でも布団は別々…」
「いやだ」
目線だけで断固拒否を示してくる勇斗にさらに手を強く握られる。
「わかった。わかったから。勇斗手痛いって」
「ん。わりぃ…」
手は離さないがゆるく優しい力で握りなおされる。
「ん、まぁ勇斗、風呂だけは借りるわ」
「クローゼットからなんか着るもん好きなの使って」
「おう」
話は進むのに一向に離されない手。
「佐野さん、手離してくんねぇと風呂行けねぇよ」
「ん…」
名残惜しそうに離される手。
「んじゃ、温かくして待ってな」
クローゼットから適当に寝間着を見繕い、風呂場に向かう。
あんなに弱っている勇斗を一人にしておくのが不安で烏の行水のごとく風呂をあがり軽く頭を乾かし借りた寝間着に着替え寝室に向かおうと扉を開けると廊下に勇斗が座り込んでいた。
「勇斗、お前何してんの!?」
「仁人黙って帰るかもって…」
「お前、信用無さすぎじゃね?めっちゃ身体冷えてるし…ベッド行くぞ」
のそのそと寝室に向かう勇斗の背中を見ながら、どこにでもついてくる子供のようだなと少し面白くなる。子供いたことねぇけど。
勇斗を布団に押し込み、枕元の間接照明を点け部屋の電気を消す。
「じんと…熱いけどさみぃ…」
「はいはい」
「あったけぇ…」
勇斗の首の後ろに腕を回し腕枕をしてやると、胸元に頭を寄せてきたので包み込むように抱きしめて背中をトントンと叩き眠りに誘う。
ものの数分で勇斗から規則正しい寝息が聞こえてくる。
映画にバラエティーに朝ドラにツアーにファンミ、他にもいろいろ誰よりもM!LKの顔として最前を走り続けてる勇斗。
他のメンバーも仕事は増えてきたけど勇斗に比べればまだまだで。
勇斗が無理をするのはM!LKのためで、いや…勇斗にとってはしたくてしてることで無理なんかじゃないのか。
「無理すんなとは言わねぇ。でも、俺らもいるぞって忘れんな」
ちょっとだけ身体を離して勇斗の顔を覗き込み、前髪をかき分け額に触れるだけの口づけをする。
”早く元気になりますように”
と願いを込めて。
END
コメント
3件
ありがとうございます!! 私の想像してたのをはるかに超えていてびっくりしました! 感謝しかないです!
いや〜💛朝からニヤニヤが止まらないです。 この曖昧な関係が現実とテラーの中で現在進行形(さのじんの裏)を見てる感じで嬉しいのと佐野さんの皆の前で仁人くんにツンなのに2人の時にはデレが出る辺りが妄想をより含ませてしまうのが素敵です。 本当に2人の日常生活を盗み見してる感じがして 本当にありがとうございます。