コメント
0件
ざわめく現場に一際通る声が響く。
聞き覚えのある、聞くだけで心が落ち着く、最愛の声。
「OAS、口腔アレルギー症候群によるアナフィラキシーです! すぐにアドレナリンとステロイドに生食、酸素の用意を! あとその子の周りでゴム手してる人はすぐに離れて!」
「西条っ?」
「遅くなってすみません、東宮先生。患者は二十分ほど前、見舞いの母親を待つ間にマンゴーケーキを食べたそうです。それと以前、軽度ですがゴム風船で遊んだ時に手にかぶれたこともあると」
混乱する母親から聞き出したという話を説明するとともに、西条が和臣の隣に並ぶ。
「マンゴーにゴム風船……っ、ラテックス・フルーツ症候群か!」
「はい。マンゴーは今日初めて食べたと言ってました」
ラテックス・フルーツ症候群。天然ゴムアレルギーを有した人間が、特定の果実を食べるとアレルギー反応を引き起こすというもの。本来はゴム手袋を多用する医療関係者などに多い病態だが、まれに先天性の疾患として持つ人間もいる。
医療従事者ならその名を知るものは多いが、子どもは当然のこと、一般人である母親が果物でアナフィラキシーショックが起こるだなんてことを予見できるはずがない。
しかし原因が断定できたのなら、あとは最善の処置を施して救うだけ。
「薬を投与次第、すぐに処置室に運びます! ストレッチャーで運ぶ際はアレルギー物質の拡散を防ぐため、できるだけ揺らさないようにしてくださいっ」
――絶対に助ける。
ずっと視界を遮っていたどす黒い暗雲の中から抜け出した和臣は、そう心に強く誓う。
そして改めて患者と向き合った。