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※このお話は、長編モノの途中になります。
※第一話の注意事項を熟読したうえ、内容に了承いただけた方のみ、先にお進みください。
※途中、気分が悪くなった方は、即座にブラウザバックなさることをオススメします。
わんくっしょん
ゾムが案内されたのは、重厚な鉄扉の部屋だった。頭の高さに小さな鉄格子の窓しかない、なかなかに厳重な部屋のようだ。
正直あまりいい雰囲気の場所ではない。使用目的は、おおかた察しはつく、が……。
ーー血の匂い……?
扉の外からもわかる鉄分を含んだ生臭い匂いが、ゾムの鼻腔をくすぐる。今までのゆるい雰囲気から一転、緊張が走る。
グルッペンが扉の錠を開け鉄扉を押すと、ぼんやりと光る小さなカンテラに照らされた人の影。
天井から吊るされた『ソレ』は、キィキィと軋む金属音を立てて、ゆらゆらと力なく揺れていた。
ーーーー!!
一瞬でゾムの頭に激昂が走る。
ゾムの怒りの矛先がグルッペンに向かうと同時に、彼に向かって走ろうとした。だがすぐに、ゾムの背後に回り込んだオスマンに取り押さえられ、床に這いつくばされた。
「なんでやッ!このオッサン、アンタらの仲間ちゃうんか!!何でこないなことしとんねん!!」
ゾムの叫ぶ声に、吊るされていた男ーーエーミールの身体が、ピクリと動く。
「そいつ、メッチャ血ィ出とるやん!どんだけ拷問しとんねん!!」
「何でやッ!!」
「今、彼の治療中やから!大人しくして!」
暴れるゾムを、オスマンが必死で抑え込む。エーミールの治療をするしんぺい神が、叫ぶ。
「なんでやッ!!」
「ゾムさんッ!!」
オスマンに取り押さえられてなお、暴れて叫ぶゾムに、エーミールが彼の名を叫んだ。
何故か耳に馴染む声に、ゾムは動きを止め、声の主を見上げる。一瞬だけエーミールと目が合ったが、彼は露骨に顔を背けて視線を反らした。
オスマンは大人しくなったゾムから手を離すとしんぺい神は胸を撫で下ろし、エーミールの手当てを再開した。
「二度の命令違反、敵侵入の黙秘、侵入者の逃亡幇助。懲罰を受けるには、十二分すぎる理由に思うがね」
先程までと打って変わったグルッペンの毅然とした態度は、まさしく『総統』と名乗るに相応しい風格である。
「……侵入者って俺のことやろ?俺がああなるならともかく、オッサンはアンタらの仲間やろ」
「ほう。彼の代わりに、懲罰を受けるというのか?」
「ええで。その代わり、オッサン解放したってくれ」
ゾムの言葉は、迷いのない即答。
グルッペンは顎に手を充て、ふむと唸る。
「ゾム。キミが受けた依頼は、『参謀長エーミールの殺害』のはずだ。なのに何故、ターゲットを助けようと思った?」
「わからん。わからん……けど」
「ラーメンとチャーシュー丼、奢ってもろたからかな」
ゾムの返答に、一瞬キョトンと目を見開いたグルッペン。次の瞬間、腹の底から可笑しさがこみ上げ、大声で笑い出した。
「いいだろう。私とオスマンさん、しんぺいさんは、席を外す。ゾム、エーミール。二人でしっかり話し合え」
「「えっ?」」
二人は同時に声を上げた。
「待ってくれ、グルッペン。俺は……」
困惑した面持ちでエーミールが何か言おうとしたところ、通信を受け取ったオスマンが遮る。
「グルさん、敵襲や。ゾムさん捕まえたから、とうとう奴さん本隊動かしてきた」
「ははっ。いいねぇ。ほな、殲滅と行くか」
「参謀長、しっかりゾムに怒られたら、仕事だ。さっさと謝って、指揮を執れ」
そう言うと、グルッペンはゾムを拘束していた結束バンドを切り、彼を自由にした。
だが、エーミールのそばには行くものの、彼を戒める枷は解こうとしない。
「ちょい待て。何で俺だけ、拘束外した?」
「この馬鹿野郎が逃げないようにな。さて、エーミール」
グルッペンが、エーミールの胸をぽんと叩く。
「もう許してやれや、自分のこと」
「!?」
「行くぞ、マンちゃん、しんぺいさん。当面、指揮は私が執る」
「グルちゃんが指揮を執ると、帳尻合わせが大変やからなぁ…。エミさん、早よ戻ってね」
オスマンがそう言うと、グルッペンは鉄扉を閉め、靴音を響かせながら部屋を後にした。
【続く】