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翌日、ラメルさんが再び教会を訪ねてきました。私達は直ぐに時間を作り話を聞くことにしました。
「フロイラインって知ってるか?」
「お嬢さんなど、若い女性に使う言葉ですよね」
私もフロイラインです。
「そうじゃない。こいつは一時期帝国政府の極一部で使われていた隠語だ。『ドール』と呼ばれる兵士にな」
「ドール…人形…?」
「ちょいと長くなるが、そもそもの発端はアルカディア帝国だ」
アルカディア帝国には、魔石を自らの身体に埋め込み強化された魔道兵なる兵科があり、しかもそれが部隊単位で運用されているのだとか。それに対抗すべくロザリア軍部は試行錯誤を練っていたその時、ライデン社が新たに画期的な人体図形を公表。これは、帝国医学の飛躍的な発展を促す一方とある天才学者の才覚を引き出す切っ掛けになったのだとか。それが、ドール。人体を意図的に強化して魔道兵に対抗し得る兵士を産み出そうとしたのです。
対象は成人前の少女のみ。天才の拘りなのか、それだけでした。それを秘匿するために改造された少女達はフロイラインと呼ばれたのだとか。
「だが、計画は途中で頓挫してる。まあ、非人道的だと騒がれたのもあるがコストが高すぎるんだそうだ。で、計画は終わったんだが」
優れた技術は模倣されるのが世の習い。それが進歩か劣化かは関係無く。計画の中止により技術情報が流出。これを様々な科学者が模倣して多種多様なドールが世に現れました。
特に裏社会ではドールの価値は高いでしょう。見た目が女の子なんですから。つまり、非合法な組織といわゆるマッドサイエンティストの素敵なコラボが実現したわけです。ふぁっく。
「待ってください、今その話をするのは…まさか」
「バルザックファミリー。孤児院を占拠してる連中の名前だ。奴らはドールの素材確保と販売を手掛けててな、一年前に帝都で抗争に負けてシェルドハーフェンに逃げてきたんだ」
「去年……院長が亡くなった時期と一致していますね」
「そして、役人の知り合いに聞いたが行政府はユリウス院長が死んだことを知らない」
「!?」
つまり、去年から乗っ取られていた!?状況から考えるとユリウス院長の死にも関与している可能性が!
「どうだい?お嬢ちゃん。使える情報だったろう?」
「もちろんです、文句無しの働きでした。報酬として金貨五枚を追加しますね」
「そりゃどうも。バルザックファミリーは十人も居ない筈だ。けど、状況からみてお嬢ちゃんの友達は…」
「それはその場で判断します。元に戻せる方法はありますか?」
「いや、俺が知る限りオリジナルでも元に戻すことは出来ねぇ筈だ。贋作なら尚更だろ。悪いがお嬢ちゃん、そこは諦めろ」
「……」
嗚呼、本当に……本当にこの世界は意地悪だ。敵ばっかりだ……バルザックファミリー…明確な敵です。私の大切なものを奪った…疑い様の無い敵です……嗚呼、気分が高揚してきます…。
「お嬢ちゃん…笑ってるな。シスターに聞いた通りだ」
ラメルさんに指摘されて顔に触れると確かに笑っています。嗚呼、本当に私は……敵に対して笑えるのですね。いや、そんなのはどうでも良いです。バルザックファミリー、ルミを返して貰いますよ。そして、私の大切なものを奪った報いを受けて貰います。
そうと決まれば、最早悠長な真似はできません。
「ベル!」
「殴り込みか?お嬢」
「形振り構わずにルミを助け出します。何を敵に回そうが、です」
借りだの何だのと気にしている余裕はなくなりました。この数日を取り戻すため、直ぐに行動に移ります。
「シスター!」
シスターの部屋に駆け込むと、MP40を携えたシスターが待機していました。
「決断が遅れましたね?シャーリィ」
「次回の反省にします。手を貸して頂けますね?」
「もちろん、私は貴女の保護者なのですから」
よし、シスターを確保。次は…マーサさんです。ラメルさんからターラン商会とバルザックファミリーの因縁の情報を金貨一枚で買いましたので。利用しない手はありません。
昼間、私はターラン商会本店を訪れました。幸いマーサさんが居ましたので、直談判です。
「形振り構わずに行きます。マーサさん、幾らでも出します。昔バルザックファミリーとやり合ったとか?ご助力を願えませんか?」
「またストレートに来たわね。普通なら不利になるのよ?…って言うか、何で知ってるのよ?」
「企業秘密です。助力の見返りとしてたとえ分け前を減らされたとしても、ルミには代えられません。それで、条件をお聞きしても?」
「……確かに、バルザックファミリーとは昔やり合ったことがあるの。帝都へ逃げられちゃったけど、ここで因縁にケリを付けられるなら願ってもないわ」
「それで?」
「焦らないの。見返りは要らないわ。その代わり、貸し一つよ。カテリナじゃなくて、貴女にね」
「踏み倒したりはしませんよ。ご助力感謝します。速やかに準備を。今夜にでも殴り込みたいので」
「シャーリィ貴女……普段は慎重なくせに、火がつくと速いわね」
「決断が遅れたのは反省点です。それで、如何程のご助力を頂けるので?」
「私が出るわ。心配しなくても、そこらのチンピラに負けるつもりはないわよ」
「心強いです」
よし、次は私の装備を整えるだけ。教会に戻った私は自室で準備を始めます。
ドルマンさんから頂いた拳銃、シスターから頂いたナイフ、そして炎の魔石。こちらは三年間練習してきたので、扱いには自信があります。
装備を整えると、シスター服に上手く隠して農園へ向かいます。
「ロウ」
「お嬢様…ご出陣なさるのですね」
農園を管理しているロウに声をかけます。
「分かりますか?」
「もちろんですとも。戦場へと赴く奥様と同じ凛々しいお顔をなさっておられます。お手伝いできぬこの身を嘆かわしく思います」
「ロウだからこそ留守を任せられるのです。頼みますよ」
「微力を尽くしましょう。お嬢様、ご武運を」
「ありがとう」
私は礼拝堂へ向かいます。そこではベルモンドが待っていました。
「準備はできたか?お嬢」
「はい。ルミを助けてバルザックファミリーを潰します。ベル、活躍の機会ですよ?」
「任せときな、お嬢。雇ったことを後悔させたりしないさ」
頼りになりますね。さあ、待っていなさいバルザックファミリー。私、ベル、シスター、マーサさんの四人で引導を渡してあげます。そして、ルミ。待っていてください。
シャーリィ=アーキハクト十二歳秋の日、私は始めて自ら他の組織に攻め込むことになりました。全ては親友のために。