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リパ「イヴァンナ、おはよう!」
朝早くから活気に満ちた声で私を呼ぶのは、後輩のアシリパだ。2学年下のレイブンクロー生で、成績優秀、運動も得意な文武両道の女の子だ。持ち前の親しみやすさで、近付きずらさを微塵も覚えさせない彼女の振る舞いに、私たちは気付けば親しい間柄になっていた。
イ「アシリパ!おはよう」
アシリパが席に着くのと時を同じくして、グリフィンドールの杉元、ハッフルパフの白石、スリザリンの尾形が近くに座った。どういうわけか知らないが、この4人はそこそこ親しいらしく、いつも一緒にいる印象だ。中でも杉元と尾形は犬猿の仲らしいが……聞くところによると、尾形はクィディッチで杉元に顎を割られたらしい。
杉元「イヴァンナさんおはよう」
白石「やっほー、イヴァンナちゃん!」
イ「2人ともおはよう!百之助、おはよう!」
尾形「おう」
彼の返事はいつもぶっきらぼうだが、返してくれるだけまだマシだと思うようにしている。
いつものようにみんなで朝食を囲む。しかし、なんとも言えない妙な雰囲気が漂っているのを感じた。この雰囲気をかき消すように、先程の活気溢れる声が場を吹き抜けた。
リパ「そういえばイヴァンナ、ダンスパーティーには出るのか?」
イ「みんなその話題で持ち切りだよねぇ…誘われたら行こうと思ってるんだけど…アシリパはどうなの?」
アシリパは一瞬頬を紅くして答えた。
リパ「私は杉元と出る!」
2人は殊に仲が良いので、私はお似合いだと思った。
杉元「んも〜アシリパさん、本番まで内緒にしよって言ったじゃーん」
乙女チックな口調で杉元が答える。
イ「いいじゃん2人とも!百之助はどうするの?」
尾形「俺は出ない」
イ「誰かに誘われても?」
尾形「誘われても、だ」
つまんないの、と言った雰囲気の中、白石が口を開く。
白石「俺はボーバトンの美女を狙ってアタックするぜ!」
リパ「断られるまでがオチだろ」
杉元「無理に決まってんだろ」
尾形「調子に乗りすぎだ」
白石「くぅーん」
みんなの総攻撃に、白石は意気消沈していた。
広間は朝食をとる生徒で溢れかえっていた。空席は徐々に埋まり、教師たちもつぎつぎ揃っていく。すると、毎朝恒例のフクロウ便の時間がやってきた。生徒それぞれのフクロウが、手紙やら荷物やらを運んで来ては生徒の元へ落としていく。
何気なく空を飛び交うフクロウを眺めていると、私の目が飼いフクロウ、マシュリーを捉えた。何やら大きな包を運んでいる。私の頭上へ降下するやいなや、その立派な爪のついた脚を途端に離し、運んできた荷物を私の元へ落下させた。
イ「……っとと…」
ドサッという鈍い音を立てて、すんでのところでそれを受け取った。
リパ「イヴァンナ宛か…何が届いたんだ?」
アシリパに声をかけられ、包に添付された手紙を読んだ。差出人の名は祖母のものだった。
イ「…おばあちゃんからだ。えぇっと……『ダンスパーティーに出るなら、その日まで開けないで。素敵なドレスが入っています。きっと驚くわ』……って、これ、ドレスだ。パーティー用に」
杉元「でも当日まで開けちゃダメって…イヴァンナさん、パーティー出るの?」
イ「んー、まだ誰からも誘われてないの…」
尾形「…交流会は4日後だろ。間に合うのか?」
イ「…わかんない。誘われなかったらそれはそれでいいし」
白石「でも、もし出る時のために練習とかしなきゃじゃない?直前で誘われる可能性だってあるし」
リパ「たしか、明日から1日1時間、どこかの授業で練習するらしいぞ!」
イ「そっか、なら安心!」
交流会まであと4日___
3限目、魔法薬学。担当は菊田先生だ。
菊田「試験も返却したし、ようやく一悶着あったみたいだから、今日は息抜きだ!」
先生の言葉に、生徒がザワつく。
菊田「3日後に控えた交流会、みんな楽しみにしてるだろ?それと、メインのダンスパーティー、最高の夜にするために今日はその練習だ!」
生徒がみな歓喜の声を上げた。ペアを自由に組み、各々練習をしろという通達だった。先生はどかっと教壇の椅子に腰をかけ、杖をひと振りしてレコードを再生した。流れる軽快な音楽に、皆身を任せて踊り出す。息を合わせて踊るもの、踊り方が分からずぎこちない足取りに惑うもの、反応は様々だ。
イ「ねぇ百之助!一緒に練習してくれない?」
尾形「俺は出ないから意味無い」
イ「こっちは意味無くないんだよなぁ…ね、私のためだと思ってお願い!」
尾形「……はぁ、見返りはあるんだろうな。」
イ「もちろん!後で好きな物奢ったげる!」
尾形「ははぁ、決まりだ」
イ「やりぃ!」
いざ腕を組んで踊る姿勢をとるが、上手く音に乗れない。どっちの足から出すのか、どっちの方向へ進むのか、私は何も知らなかったのだ。そんな私とは裏腹に、百之助は何食わぬ顔でステップを踏んでいく。私の腕をぎゅっと握り、自分の胸の方へ寄せた。
尾形「焦らずに、肩の力抜け。俺の動きに合わせろ。」
彼が意外にも積極的にリードするものだから、普段の姿とのギャップを感じ、不覚にもドキッとしてしまった。彼の言われた通りに足のステップを真似て動いてみる。しかし、私の実力が急激に上昇するはずもなく、百之助の足を踏んでしまった。
イ「あっ!…ご、ごめん」
また嫌味ったらしく言われるかと思いきや、彼は私を少し見下ろして言う。
尾形「いい。堂々としてろ。」
私と百之助の身長差はさほど大きくは無い。しかし、互いに距離が近い以上、百之助より背の小さい私は自動的に彼を見上げる姿勢となる。それに加えて、私を見下ろす百之助の目が会い、少し頬が熱くなった。
1曲目が終わり、レコードの動きが止まる。
すると同時に私の緊張も解け、へなへなと屈みこんだ。
イ「……私、こんなにダンス下手だったんだ…」
失望と絶望の念に駆られ、みるみる意気消沈していく私を、百之助はフッと鼻を鳴らして笑った。
尾形「本番で相手の足踏まないといいけどな。」
踊っている時あれほど気にしていなさそうだったのに、やはりこいつは根に持つ奴だ、と改めて痛感した。
そうする間に2曲目が再生され、またみんな踊り出す。
尾形「やるか?」
意外にも乗り気な百之助には申し訳ないが、今はそれどころでは無い。緊張と絶望で疲れ切っていたため、この回はパス、と言い渡した。教室の壁側により、みんなの邪魔にならない位置で眺める。
杉元と白石が一緒に踊っている奇妙な光景を見て、少し元気が出た。ふと、教室の奥で踊っている妙に大柄なペアを見つけた。よくよく見るとそれは谷垣と有古だった。あ、そこ2人なんだね、と謎に納得してしまった。