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シズクの固有魔法『|紫影製の立方体《シャドーキューブ》』で相手を逃げられないようにしたのはいいが、これからどうするのだろうか?

【キミコ】(狐の巫女の略)もシズク(ドッペルゲンガー)も、さっきから動かないし……。

いったい、いつになったら戦うのかな?

俺がそう思った直後。


「固有武装……『|魂を狩り・喰らう大鎌《ソウルスラッシャー》』!!」


シズクがそう言いながら右腕を肩の高さまで上げると、シズクの手に収まるほど小さな紫色の球体が出現した。

次の瞬間、それは一気に直径『一メートル五十センチ』程の大鎌《おおがま》に変化した。


「さあ、お前の罪を数えろ!!」


シズクはどこかで聞いたようなセリフを言いながら、切っ先を【キミコ】に向けた。

その時【キミコ】は余裕《よゆう》の笑みを浮かべた。


「ふん、固有武装か。なら、妾《わらわ》はそのさらに上の力を使わせてもらうぞ」


「それは別に構わない。けど、どんな力だろうと私は負けない!」


「さて、それはどうかの?」


【キミコ】は両目を覆《おお》っていた『白いハチマキ』を取ると《ゴールデンサファイア》のような瞳《ひとみ》でシズクを凝視《ぎょうし》した。

その直後、【キミコ】の姿が明らかに変化した。

一本だったはずのシッポが九本になり、まな板のように平らだった胸《むね》が、Cカップ程になり、背も少し伸びた。

その様《さま》は、まさに『九尾《きゅうび》の狐《きつね》』であった。

【キミコ】の体から放たれている威圧と殺意は立方体の外にいる俺にまで伝わってきた。

とても先ほどまで一緒にいたやつとは思えないほどの変わりようであった……。

【キミコ】はシズクに不気味な笑みを浮かべながら、こう言った。


「さあ、始めようか。『嫉妬《しっと》の姫君』」


「……やっぱり、そうだったんだね。道理で私の左目が疼《うず》くわけだ。ねえ……『色欲《しきよく》の姫君』さん」


「魔力を一時的に封印できる『白いハチマキ』のおかげで正体はバレてはいないと思っていたが……。お主《ぬし》が大罪の力を持つ者《もの》だったとは思いもしなかったぞ?」


____その頃、俺は立方体の外で目を見開きながら、驚きを露《あら》わにしていた。

あ、あいつが『色欲《しきよく》の姫君』だと? そ、そんなバカな! だって、シズクは何も……。

その時、どうして同じ大罪の力を持つ者であるはずのシズクが、俺にその子が大罪持ちであることを言わなかったのかをようやく理解した。

シズクは俺を巻き込みたくなかったから俺にそのことを言わなかった……のか?

だとしたら、シズクは端《はな》から俺を戦わせる気は無かったということか……。

どうしてだよ、シズク……どうしてそんなことを!

聞こえるはずがないと分かっていても、俺は立方体の壁《かべ》を叩《たた》きながら、届くはずもない言葉をシズクに伝えた。


「シズク! 聞こえないと思うが聞いてくれ! 俺はお前が勝つって信じてるけど、無茶だけはするなよ! いいか? これは俺との約束だ! 守らないと承知しないからな!!」


シズクには届かないその声は無意味なものだと思ったが、せめて自分の思いだけは届いてほしいという彼の願いがこもった言葉であった。

シズクは、こちらに言葉をかけてこなかったが、ほんの少しだけ、こちらに笑みを浮かべたような気がした。


「良いのか? あやつをここから遠ざけなくても?」


キッとした目つきで【キミコ】を見たシズクは、こう言った。


「私があなたに負けるはずないから、大丈夫。それに、あなたは固有魔法も固有武装もない。だから、もう私の勝ちは確定している」


【キミコ】は腕組みをしながら、それがどうした? というような顔をしながら、こう言った。


「ふっふっふ……ならば、お主に妾《わらわ》の二つ名を教えてやろう。一度しか言わぬから心して聞くのじゃぞ?」


「さっさとして。早くしないと、あなたを早く殺したいという感情を抑えられなくなる」


「ふふふ……。その殺意と戦意、気に入ったぞ。ではそんなお主《ぬし》に妾《わらわ》の二つ名を教えてやろう」


【キミコ】は、三秒ほど間《ま》を置くと今までで一番不気味な笑みを浮かべながら、こう言った。


「『|獣人殺しの獣人《ビースト・キラー》』……。それが妾《わらわ》の二つ名じゃ」


「……それって、もしかしてあなた以外の獣人型モンスターチルドレンを殺してきたってこと……なの?」


「うむ、正解だ、お主、なかなかやるではないか。じゃが、それは、まだ正解の一部にすぎぬ」


「それはいったいどういうこと? はっきり言って!」


「うーむ、まあ、妾《わらわ》のシッポが、なぜ九つあるのかというのがヒントじゃ」


シズクは、その言葉の意味をすぐに理解した。

だが、それはあり得ないものだった。


「あなたは……自分で殺したモンスターチルドレンの力をそのシッポに封印して、いざという時に使用できるようにしたの?」


シズクはパチパチパチと急に拍手《はくしゅ》をし始めた【キミコ】を警戒《けいかい》しながら、彼女の反応を待った。


「いやー、お見事! 敵ながら、あっぱれと言わざるを得ん! じゃが、惜《お》しい。あと、一歩であった」


「……どういう……こと?」


「正しくは、妾《わらわ》がこの手で殺したモンスターチルドレンの力を【何度】でも使用可能だということじゃ!」


「……!!」


「驚いたか? 驚いたであろう! そう、これこそが妾《わらわ》の固有スキル【超強奪《ラバー》】じゃ!」


その時、シズクは真上に飛ぶと、回転しながら大鎌《おおがま》を振り下ろした。(|Ω《オメガ》エ○スプロージョンのように)


「おっと、危ない、危ない」


キミコは右手の人差し指と中指で、それをいとも簡単に受け止めると、そのまま地面に叩きつけた。

しかし、シズクは身をよじらせて、それを回避《かいひ》した。

シズクはその後、ぴょんぴょんとジグザグに三歩下がりながら、相手の隙《すき》を窺《うかが》い始めた。


「今のは別に他のモンスターチルドレンの力を使ってはおらぬぞ? ほれ、かかってこい」


彼女が挑発を意味する手招きをした直後、シズクは彼女の左脇腹を狙って攻撃した。


「踏み込みが甘い、力任せ、焦《あせ》りすぎ、狙いが分かりやすい。そして……一つ一つの動きに迷いが見える!」


【キミコ】は、体の一部(左腕)を他の動物に変化させると、今度は全ての指で受け止めた。

その動物の名は……『センザンコウ』。

ちなみに、英名は『パンゴリン』。

そう『キ○ングバイツ』にも登場した厄介《やっかい》な獣である。

ナイフのようなウロコは、銃弾をも跳ね返す鉄壁の鎧《よろい》。

その見た目からは分からないが、実は哺乳類《ほにゅうるい》である。

その力を持っているということは【キミコ】はなんらかの方法で、その鉄壁の鎧《よろい》を打ち破ったことになる。(アルマジロのように丸くなればライオンのキバも通らないという……)

ということで残念ながら、シズクの大鎌《おおがま》は彼女に傷一つ付けることができなかった……。


「さて、開始早々に終わるのは、いささか残念ではあるが、致し方ない。お主《ぬし》の固有武装ごと妾《わらわ》の力の一つとなるがいい。では、さらばじゃ」


シズクは自分の固有武装を彼女のものすごい握力《あくりょく》で握《にぎ》られていたため、全《まった》く身動きが取れなかった。

ナオト……ごめんなさい。私は、ここで終わりみたい。

まだ一緒に居たかったけど、私が相手の力量を測《はか》らなかったせいだから自業自得だね……。

【キミコ】の右拳がシズクの目前に迫《せま》る。

シズクの目からは、いつのまにか涙が溢《あふ》れ出ており、それと同時に彼女はその場に両膝《りょうひざ》をついた。


「あの世で己《おのれ》の無力さを恨むがいい! さらばじゃ! 大罪の力を持つ者よ!」


「…………」


シズクは目を閉じて最期《さいご》の時が来るのを待った。

ナオト……。またどこかで会える……かな? 会いたいな……。

けど、生まれ変わったら、必ず会いに行くから待っててね……。


「死ねええええええええええええええええええ!!」


シズクは、その場から動こうとしなかった。

足掻《あが》こうとしなかった。

助けは絶対に来ないと思っていた。

ちなみに、この立方体の外から侵入することは実質不可能である。

それが例え、シズクのマスターである『ナオト』であっても……。

だから、シズクは諦《あきら》めた。

しかし、シズクは、一つ大事なことを忘れていた。


「俺の家族に何してやがる! このロリ巨乳がああああああああああああああ!!」


固有魔法は他の固有魔法で打ち消すことが可能だということに……。

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