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シャーリィです。主犯であるクソマッドサイエンティストのヘルシェルを捕まえようとした私は、最悪の形で親友との再会を果たすのでした。
「ルミ!?私です!シャーリィです!」
私が声をかけても、ルミは沈黙したままです。
「無駄だよ、四号は私の作品の中でも最高傑作と呼べる仕上がりだが、残念ながら改造に精神が耐えられなかったようでね。物言わぬ人形と成り果ててしまった。君の友人みたいだし、そこだけは謝罪しよう」
「ルミに何をしたのですか!」
「特別な処置だよ。知っているかね?ライデン社の発行した医学書に曰く人間は本来の力の三割程度しか使われていないのだとか。実に勿体ない。故に私はリミッターを解除して、更に身体を外科手術で強化したに過ぎない。オリジナルに比べて半分以下のコストなのだよ」
つまりルミの頭と身体を弄くり回したと!?嗚呼、やっぱりこいつは楽に死なせてやるものか!
「その弊害で精神を失ってしまったのは失敗だったよ。昨日まではまだ自我があったのだが、強化薬を追加したらこの様でね。匙加減が難しい。今後の課題だな」
つまり昨日までならまだ希望があった!?完全に後手に回りました!あのとき無理にでも連れてくればっ!凄まじい後悔が私の心を埋め尽くすのを感じました。
「安心したまえ、君も才覚がある。友人と同じにしてあげよう。四号、あのお嬢さんを捕まえるんだ。多少乱暴でも構わん」
ヘルシェルの言葉を聞いた瞬間、ミシリと音を立てて一気にルミが私へ向かってきました。速いっ!
「ちょわっっ!?なっ!!?」
身を捩りルミの右ストレートを間一髪回避できたのですが、何と壁にバゴンッと拳がめり込んでいるではありませんか!なんですかこれは!?
「ただリミッターを解除しても所詮少女、限界がある。故に、可能なまで筋力強化剤を投与したのだよ。まあ、燃費が悪くなったがね」
「滅茶苦茶じゃないですか!うわっ!」
構わず追撃してくるルミを相手に私は逃げ回るしかありません。しかし、身体能力で明らかに負けている私が逃げ回ってもっ!仕方無い!
「ルミ!ちょっと痛い思いをしますが、文句は後で聞きますから!」
私は懐からナイフを取り出します。とにかく先ずはルミの動きを封じないと!
「ほう、逃げるではなく立ち向かうのかね。益々興味深い」
「貴方に評価などされたくないっ!首を洗って待ってろっ!」
私は柄にも無くヘルシェルに怒鳴り付け、ルミと相対します。
「ルミ!」
素早く突き出したナイフの切っ先はルミの肩を掠めて避けられ、懐に潜り込まれました。
「このっっ!はっ!?」
咄嗟に腹部に蹴りを放ちますが、バカみたいに固くて足が痛くなります。
「うわっ!?がはっ!?」
そのまま掴まれて壁に投げ飛ばされました。尋常じゃないくらい痛いです!骨が折れなかったのは奇跡ですよ!
私は何とか足に力を入れて立ち上がります。
「くっ…うぅっ!まだまだぁ!」
痛む身体に気合いを入れて私は駆け出し、姿勢を地面すれすれまで低くしてルミへ近付き、真下から跳躍しつつナイフを振り上げます。
「……」
予想通りルミは軽く身を反らして避けますが、それが狙い。跳躍した以上落下するので、その勢いを載せてルミの腕目掛けてナイフを振り降ろします。
「これでっ!……なっ!?」
ナイフはルミの腕に当たりましたが斬ることが出来ず、逆に私は腕を掴まれてまた壁に叩き付けられました。
「がっ!?……うぅっ……」
咄嗟に立ち上がりますが、身体中が更に痛くなりました。泣きそうです。
「おや、まだ立てるのかね?だが無駄な抵抗はやめたまえ。君は銃を使うつもりはないのだろう?四号に勝てる道理がない」
「うるさいっ!」
強がりましたが、現実はルミを殺すつもりもなく、実力は圧倒的にあちらが上。ナイフが通らない身体なんて聞いたこともない!まさに絶望的です。
それに、今ので身体中が痛くてもう速く動ける自信がない。足も生まれたてのヤギみたいですし、ナイフも落としてしまいました。
「降伏したまえ。それ以上痛い思いをしたくはないだろう?」
「はぁっ!はぁっ!誰が降伏なんか!」
強がりはしますが、八方塞がり。ベルが来るまで時間を稼ぎたいところですが、それも出来そうにないっ!
諦めかけたその時、懐に隠したままの切り札を思い出しました。出来れば使いたくはなかったけれど、このままではルミを助けられずに死ぬだけ!背に腹は代えられません!
「四号、手足を折れ。それで終わりだよ」
指示を受けたルミが私に向かって突っ込んできます。私は満身の力を振るい、懐から魔石を取り出しました。
「なっ!?それはまさか、魔石!?」
「炎よ!」
私の呼び掛けに応じて魔石が熱を帯びます。滅茶苦茶熱いですが、今は気にしません!
「断ち切れぇえっっ!!」
私が命じると炎の剣が形成され、それをお母様仕込みの剣術で力の限り振るいます。もちろん炎の剣なんか握るのですから、火傷は当たり前です。ですが体力が尽きる前に、決着を!
繰り出されたルミの腕を掻い潜るように腰を落として、剣を下段に構えて水平になぎ払うように振ると、ザンッッっと強化されたルミの両足を文字通り焼き斬ります。バランスを失ったルミは勢いのまま倒れ伏しました。
「バカなっ!?私の傑作が!くっっ……が!?」
「お嬢!まだ生きてるか!?」
私に銃を向けようとしたヘルシェルを駆け付けたベルが殴り飛ばします。ないすたいみんぐ。
「生きていますよ。死ぬほど身体中が痛いですが」
魔石は力を失い、剣も消えました。不思議と火傷の跡はありません。
「済まねぇ、思ったより時間がかかっちまった……友達か?」
倒れているルミを見ながらベルが聞いてきました。
「ええ……」
希望は捨てたくありませんが、無茶苦茶な改造がされているのは間違いありません。
いや、まだ諦めません。先ずはヘルシェルを拷問して治療法の有無を聞き出さないと。
「シャーリィ……?」
「!?ルミっ!?分かるのですか!?」
奇跡ですか!?いやどうでも良いです!ルミが意識を取り戻したのですから!
「フフッ、分かるよ……ちゃんと覚えてる」
「直ぐに手当てを手配します。こいつから治療法を聞き出しますから、今は休んでください。ベル、シスター達を」
「ううん…それはもう良いの。私、もうだめみたいだから」
「何を言うのですか、諦めるなんてルミらしくもない」
私は強い焦りを感じています。だってこんなに穏やかなルミは見たことがない。
「違うの、あのお薬を注射されてからどんどん自分が自分じゃ無くなるみたいな感じになって…今だって、シャーリィに怪我をさせちゃった」
「それはお相子ですよ、ルミ。脚については手を尽くします」
「そうじゃないんだ…シャーリィ…分かるの。もう……私はダメだって。次に眠ったら、もう私は消えちゃう。またたくさんの人を…シャーリィを傷つけてしまう。改造された子達は皆そうなって壊れちゃったから…」
「っ!?」
それでは、それでは何の救いも無いではないですか!最初から私はルミを救えなかった!?
「わたし、そんなの嫌だよ……だから、シャーリィ……最後のお願い、聞いてくれる…?」
「……何ですか?」
諦めたくはありません。でも、ルミの穏やかな表情を見て私は……そう答えるしかありませんでした。
「最後は…他の子みたいに壊れたくはない……だから…シャーリィ…お願い…終わらせて…兵器としてじゃなくて…私のままで…死にたい…」
「ルミっ!」
「お嬢……見たところこの嬢ちゃんは長くない。かなり無茶をされてる。身体がボロボロだろうさ。連れ出しても……助けられるとは限らねぇ。最後の願いを叶えてやるのも、友達の仕事さ」
ベルが優しく私を諭します。分かっています。あんな力を発揮するような無茶な改造をされているんです。たぶん身体はボロボロ、それに本人の言葉を信じるならもう精神も…。
「シャーリィ…」
「……分かりました」
私は、震える手で拳銃を取り出して構えます。
「ごめんね、最後に嫌なことさせて」
「全くです、間違いなくトラウマですよ」
「ふふっ、なら良かった。ずっと覚えててくれるってことだもん」
「忘れられる筈がありません。三年間、短くも楽しかったです。貴女が居ない日々は寂しいものでしょう」
「大丈夫、シャーリィにはシスターや皆が居るから…一緒に居られなくて…ごめんね?」
ルミは笑顔を浮かべます。ああ、晴れやかな笑顔です。私は笑えているのでしょうか?
「あっ……ちゃんと感情はあるよ、シャーリィ。だって、ちゃんと泣けてるから」
泣いている?確かに…視界が滲み、頬を伝うものを感じます。そうか、私は泣いている…泣けたんだ…。
「あっ……もう…」
ルミの瞳から光が失われていきます。時間みたいですね。ああ、畜生。この世界はとことん意地悪だ。
「バイバイ……シャーリィ」
「さようなら、ルミ」
私は涙を腕で拭い、引き金を引きました。乾いた銃声が、孤児院に木霊しました。
シャーリィ=アーキハクト十二歳秋の日。私はこの日初めて人を殺めました。それは、掛け替えの無い大親友でした。