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「今日は見に行って良かったです!!」
「はい! 私も、英雄シルヴェスターを見ることが出来て感激です……っ!!」
錬金術の可能性にご満悦の私と、英雄を見てご満悦のルークさん。
賑やかな喧噪から離れながら、二人で興奮しながら会話に花を咲かせる。
色々と話す中で、やはり神器の話題が最も熱くなるポイントだった。
そして、その会話の最中――
「ところでルークさん。
オリハルコンとかミスリルって知ってます?」
「『神の金属』と呼ばれるオリハルコンに、『魔法金属』と呼ばれるミスリル。
話としては聞いたことはありますが、実際に見たことはないですね」
「やっぱり希少な金属なんですね。
神器の剣も、オリハルコンとミスリルが使われていたみたいなんですが」
「え……?」
私の言葉に、絶句するルークさん。
……あれ?
もしかして、何か変なことを言っちゃった……?
「かなり遠目にしか見れませんでしたけど、何で分かったんですか……?」
言われてみれば、確かにその通りだ。
あんなに離れた場所から、普通は素材なんて分かるわけもない。
「私、鑑定スキルを持っているんですよ。
あとはほら……それなりに、実力のある錬金術師ですから?」
少し焦りながら、適当に言葉を繋いでいく。
「……なるほど。
アイナ様には不可能なんて無さそうですもんね。いや、納得です」
何故か納得されてしまった……。
ルークさんのこと、何だかアホの子っぽく思えてきたけど――
……いや、そうじゃなくて、きっと素直な性格を持っている、ということなんだろう。
「それにしても、オリハルコンとかミスリルってどうやって作るんだろう?
実物を一回でも見れば分かるんだけどなぁ……」
ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』を使えば、『見たもの』を作るための素材を知ることが出来る。
しかし残念ながら、その素材をどうやって作るのかまでは、素材の現物を見てみないと分からないのだ。
何も見ないで作り方まで分かってしまえば、見たことの無いアイテムや知らないアイテムを全てを知ることになってしまう。
ユニークスキルとは言っても、そこまでは万能じゃない……というわけだ。
そんなことを考えながら、ふとルークさんの方を見てみると――
……彼は彼で、呆然とこちらを見ていた。
「アイナ様……。見るだけで、作り方が分かっちゃうんですか?」
ルークさんの零したつぶやきに、私は焦ってしまう。
もしかして、ユニークスキルのことを口に出しちゃった……!?
「あ、あー!
ルークさん、今のは内緒、内緒ね! 誰にも言わないでね!!?」
「え!? あ、はい!
アイナ様がそう仰るのなら、誰にも言いません! 絶対に言いませんとも!!」
「うん、よろしくね! 約束だからね!?」
ルークさんは私の言葉を受け止めて、強く頷いてくれた。
それにしても、考え事をするときの独り言はかなり危険だ。
これからは注意していかないと――
……そう思いながらため息をついていると、風に乗って何かが聞こえてきた。
『アイナ様のタメぐち……イイナ……』
きっと空耳。
空耳だよね、きっと……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そういえば、地図はどこかで売っていますか?」
歩きながら、少し話題を変えてみる。
「地図ですか? 大陸全体のものであれば、冒険者ギルドで売っていますよ。
世界地図であれば、王都の方に行かなければ無いと思います」
王都……?
そういえばこの街は、辺境都市……なんだっけ。
「王都、ですかぁ。
この街よりもきっと、人が大勢いて賑やかなんでしょうね」
どれくらいの規模かは分からないけど、人口はこの街よりも多いはずだ。
「私も行ったことはないですが、色々なギルドがあるそうですよ。
冒険者や商人も大勢いて、物流の観点でも賑やかだそうです」
おお、冒険者がたくさん……!?
RPGみたいに、色々な職業の冒険者がいて、ダンジョンや魔物討伐に挑戦していたりするのかな……?
「なるほど、行ってみたいものですねー」
想像を膨らませながら、ふとルークさんを見てみれば――
……彼はまたもや、私を呆然と見ていた。
「アイナ様……。
もしかして、もう旅立ってしまわれるのですか……?」
……。
何だ、この……雨に濡れて、切ない目で見つめてくる子犬のような青年は。
「えーっと、そ、そうですね。
どうも私、ヴィクトリア……様……? に嫌われているようでして。
まぁ、それなら他の街に行くのも良いかな……なんて」
「ああ……。
ヴィクトリア様がしでかしたという話は……はい、聞いております」
あれ、ルークさんの耳にも届いているんだ?
街門を守衛しているだけに、冒険者ギルドとかにも繋がりを持ってるのかな……。
「あ、でも、ですね。ヴィクトリア……様……? が云々じゃなくて。
やりたいことが見つかったので、他の街にも行ってみようかな、と」
「やりたいこと、ですか?」
「はい。
何かはちょっと言えませんが、まだまだ学ぶこともありますし」
「そうですか、残念です……。
でも、私も応援しておりますので……!」
「ありがとうございます!
さて、これから冒険者ギルドに寄ろうと思うのですが、ルークさんはどうします?」
地図は冒険者ギルドに売っているそうなので、早々に入手しておきたかった。
ルークさんも一緒にどうかな、と思ったのだが――
「すいません、私は外でお待ちしています!」
「あれ、そうですか……?
それならもう、帰って頂いても大丈夫ですよ。
冒険者ギルドから宿屋までは、何回も往復している道ですし」
「え? あ、うーん……。わ、分かりました。
それでは今日は、本当にありがとうございました!」
名残惜しそうに挨拶をすると、ルークさんはとぼとぼと帰って行った。
……何だか悪いことしちゃったかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの受付にいたのは、今日はケアリーさんだった。
「こんにちは、アイナさん。
今日は……お一人、でしたか?」
「こんにちは、さっきまでは連れがいたんですけどね。
ところで、お身体の具合は大丈夫ですか?」
先日来たとき、ケアリーさんは体調不良でお休みだった。
ずっと気になっていたので、まずはそれを聞いてみることにする。
「はい、もう大丈夫です!
あの……買い取りの件は、こちらとしても申し訳なく……」
ケアリーさんが、気を落としながら言ってくる。
「いえいえ、気にしないでください!
ご令嬢の差し金だというのは分かっていますので」
実際のところ、ケアリーさんも巻き込まれた側なのだ。
……もしかして、体調不良は心因性のものだったのかもしれない。
「ありがとうございます。
家族にも心配を掛けてしまって……色々と相談に乗ってもらっちゃいました」
ということは、やっぱり心因性の問題だったんだね。
苦労を掛けてしまって、こちらこそ申し訳ない限りだ。
「それで、アイナさん。今日はどんなご用ですか?」
「地図を買いに来ました。
冒険者ギルドで売っているって聞いたんですが、ありますか?」
「はい、銀貨5枚になります」
ぴったりの金額をケアリーさんに渡すと、羊皮紙を1枚渡してくれた。
中央には大陸っぽい地形の絵と、全体的に細かい文字がいくつも記されている。
「ふむふむ、ここが王都ですか……。
ずっと北東のココが辺境都市クレントスで――
……ちなみに王都までは、どれくらい掛かるものですか?」
「そうですね、馬車で3週間といったところでしょうか」
移動手段は、馬車。
なるほど、さすがに電車とか車は無いよね。
「もしかしてアイナさん、王都に向かわれるのですか?」
「はい。もうしばらくしたら、行ってみようかなって」
「……そうですよね。
この街では……色々と、難しそうですからね」
ケアリーさんは、ヴィクトリアのことを念頭に置いているのだろう。
確かにやり難さというのもあるんだけど、今はそれだけでも無いわけで。
「あはは、ケアリーさんが気にすることでは無いですよ!
前向きに、やりたいことが出来ただけなんです。
……それに私の恩人も、正直に生きるように言ってくれましたから」
「正直に……、ですか?」
「はい、ここに来るまでにお世話になった方から。
『自らの真意と向き合い、正直で在るように』……って言われたことがあるんです。
最近は少し悩んでいましたが、これからはやりたいことに一直線ですよ!」
「なるほど……アイナさんの恩師様でしょうか。
さすが、深いお言葉です……!」
彼女はしみじみと、神様の言葉を噛み締めていた。
「ケアリーさんも大変なことがあるかと思いますが、無理はしないようにしてくださいね」
「……はい!」
私はつい、心配の言葉を掛けてしまう。
しかしケアリーさんは、心配を振り払うような笑顔を返してくれた。