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翌年の春。
この国の首都である王都ライレイに位置するライレイ騎士学園は入学式を迎えていた。
ユウリ、ルーク、ルナの三人は相共に学園へやって来る。
他の街から王都へやってくる生徒は学園に隣接する寮で生活するが、元々王都に住んでいる生徒は実家からの通学になる。
三人は王都の隣に位置する街からである為に、寮生活となる。爵位持つ者は一人だけ使用人の同伴が許されている。
貴族用の寮はそれ相応らしく、一人で掃除洗濯をするには労力が必要だからだそうだ。
ただし、学園内において権力を振りかざし、他者を害する事は禁じられている。校則ではなく法で。
様々な身分が集まるからこそ学園内では皆対等に、という事なのだろう。
だが、それでは貴族は面白くないだろうから、プライベートではある程度優遇しているといった所か。
初日はまず入学式となっており、先生方のありがたい話を聞く。よく校長の話は長くて眠たくなると言うが、確かにその通りだ。ゆっくりと抑揚の少ない声で長々と話されては、その気がなくともついうとうとと舟を漕いでしまう。実際、ルナとルークの二人とも熟睡していた。
その後は学科ごとに別れ、授業内容についての簡単な説明を行う。ルナとルークは、予想以上に予想以下な授業内容だったらしく、本当にこんなものでいいのかとしきりに首を傾げていた。
とはいえ初等部はまだ九歳の子供ばかりだ。それに合わせてカリキュラムを組むとなれば、それ相応のレベルに収まる。家で家庭教師を雇い、事前にある程度の学習はさせておくなど、それが出来る家はそう多くないのだから、尚更だ。
言い忘れていたが、この学園は初等部、中等部、高等部と三つ学部に別れている。理由は簡単、農民や商人はさほど専門的な知識は必要ないからだ。多くは初等部、中等部を卒業と同時に実家へと帰る。高等部まで残るのはごく一部の生徒のみだ。
「うへー、午前だけでもう疲れちまったぜ」
昼食をとろうとする生徒で混雑する食堂の一角で、フォークを片手にそうぼやくルーク。
「まあ、もう終わった事ですし良いではないですか」
「ま、それもそうか。そんな事より今は飯だな、混んでるし場所空けた方がいいだろ」
「確かにそうですね」
「そういや知ってっか?」
食事をしながら、ルークがふとそう聞いてくる。
「何をですか?」
「この学園に今年王子が入学したらしいぜ」
「あー、知ってる知ってる」
それは初耳であった。ルナも知っている様子だ。
リュカは知っていたのだろうか、それならそうと教えてくれれば良かったものを。
「どこで聞いたんです?」
「さっき噂してるのを聞いてな、騎士科みたいだぜ」
「じゃあ、さっきまで一緒の教室に居たってことですよね」
一緒の教室に居たのならば、流石に気付いてもいいと思うんだけど。王子であるなら護衛も居た筈だろうし、相当に目立つのは間違いないだろう。
「おいお主」
おかしいなと思っていると、横から声をかけられる。
「はい?」
それに振り向いて顔を向けると、そこには同じ年頃くらいの少年が立っていた。藍色の髪に凛々しさを感じさせる銀の相貌。身に付けている綺麗な衣服から、かなり良い身分であることがわかる。
「お主、ユウリ・ライトロードだな」
「はい、そうですが……あなたは?」
「おいユウリ、この人だよ王子様は」
ルークがテーブルから身を乗り出して、そう耳打ちしてくれる。
「えっ? あ、そうでしたか、これは失礼しました」
まさか王子だとは思わず、慌てて謝罪する。
「よい、許す! 余は王子と言っても第三王子ゆえな」
確かに第三王子になってくると知名度は少し低くなるかもしれないが、それでも立場的には、知っておかなければならない事なんだけどね。
顔を見たことがないのでわからなかったが、名前だけはリュカから聞いている。確か……。
「お目にかかれて光栄です、アルバンス王子」
「うむ、余の名前を知っていたか、ならばよし!」
「ところで王子、僕になんのご用でしょう?」
「余と友達になってくれ!」
単刀直入にそう言うアルバンス王子。
この単刀直入さにデジャブを感じる。
「友達ですか、わかりました。ではこれから僕達は友達ということで」
だが、こちらとしては断る理由はない。むしろ大歓迎だ。何せ王族とのパイプが出来るのだから。
「うむ、では友達として共に食事を取らせてもらうぞ、それから余の事はアルバンスと呼ぶがよい!」
俺がそう答えると、アルバンスは嬉しそうに頬を弛めて上機嫌になりそう言う。
「……ではお言葉に甘えさせていただいて、アルバンスどうぞこちらに……それから、こちらはルークとルナ、二人とも僕の大切な友人です」
呼び捨てでいいものかと名前を呼ぶのを躊躇ったが、嬉しそうにしているアルバンスを見て呼び捨て方が良いかなと思い、空いているルークの隣の席を進め、ルークとルナの事をアルバンスに紹介する。
「余の友の友であるならば、もう余の友であるな、アルバンスと呼ぶが良い」
嬉しそうに隣に座るルークに話しかけるアルバンス。
「ル、ルーク・ヴァンデルシアです。アルバンス王子」
だがルークの方は流石に萎縮しているのか、緊張した面持ちで受け答える。
「王子は不要だ」
「あ、私ルナね、よろしく! アルって呼んでもいい?」
「お前っ、相手を選べよバカ」
いきなり馴れ馴れしく接するルナを、慌てて止めるルーク。
「アルとな……うむ余、超気に入った! 余の事はアルと呼ぶがいい! そして友達ゆえに立場は対等、敬語も要らぬぞ」
愛称で呼ばれるのは初めてなのだろう。かなり気に入ったらしく、さらに上機嫌になったアルは声を大きくしてそう言う。
「アルバンス王子!?」
「違う、アルだ」
「……それは流石に恐れ多いというか、こちらとしては立場的にも弁えるべきかと」
呼び捨てにするのも難しいのに、いきなり愛称で呼べなど一気に難易度が上がった。
「いいのだ、友達というのはそういうものであろう。それに此処では立場は関係ない」
「いや、けどさ……」
どうして良いかわからず困惑するルーク。そろそろ助け船……いや、トドメを刺すとしよう。
「ルーク、これ以上拒むのも不敬となります。本人がそうしてほしいと言っているのですから、いつも通りに接するのがいいと思いますよ。それにそれを言ったら僕も一応は公爵の子ですよ?」
王族の次に権力のある相手に対してタメ口なのだ。本人の許可も得ているのだし、普段道りに接する方が喜ぶだろう。
ルークはしっかりとしているが、少し固い。ルナのようにフレンドリー過ぎるのも考えものだが、王子だからとそこまで固くなる事はないだろう。
「わかったよ。じゃあ、アルって呼ばせてもらうぜ。俺の事はルークで良いからよ」
「うむ、ではこちらもルークと呼ぼう」
退路を断つトドメの一撃により、複雑な心境ながらも受け入れたルークは、素でアルに接する。
アルの方も満足げにうなずくと、やがて静かに食べる手を進める。
「ところでアル、何故この学園へ?」
俺はアルに素朴な疑問を投げ掛ける。
この学園の門は広い。平民から貴族まで誰でも入ることが出来る。
言い方は悪くなるけれど、王族が下賎な者と共に過ごすことを良しとしない者も居るんじゃないかなと思ったのだ。
どうやってそれらを頷かせたのか、少し興味があった。
……なぜというよりは、どうやってと言った方が正しいかな。聞きたいのは理由ではなく方法だし。
「簡単だ、国営? だから、王族の人間が入らねば示しが付かぬ? からな!」
所々に疑問符が入るのは、きっと国王に言われた事をそのまま口にしているだけで、意味を理解してないからだろう。
「なるほど」
表向きはそんな理由で反対する者を説得したのだろうが、実際の所はその為だけではないように思った。
第三王子となると、国王の後を次ぐのは難しい。他国との友好関係を結ぶために婿養子として出されるか、もしくは次期国王の補佐に当たらせるかのどちらかだし。
そして騎士科に入ってきたということは、追々は軍事方面の仕事を任せるつもりで……という感じかな。
まぁ、単なる深読みかもしれないけども。
「んー、やっぱ目立つな」
昼食を取りながら、少し居心地が悪そうにそう言うルーク。
無理もないだろう、面子が面子なのだから。
「確かに凄い見られてるけど、気にすることじゃないんじゃない?」
「最初のうちだけでしょう」
「余は慣れっこだ」
「肝の座り具合が羨ましい」
この状況にも全く動じる事のない三人を、心底羨ましく思いながらルークは呟いた。