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テラーノベル(Teller Novel)
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 拷問官の全身に悪寒が駆け抜けたのは、ライナー・ホワイトを痛めつけるのにそろそろ飽きてきた頃だった。もう一人の拷問官が、顔に熱波を喰らったまさにその瞬間だ。

 狙われている。

 明確な殺気。


「来たな」

「お、おい!?」

「黙れ死ね」

「ぎゃっ!?」


 拷問官の一人は青い光の矢に貫かれて死亡する。そして潜入していた狩猟部隊の一人はで高速でその場を離脱する。

 一息に十メートルは飛び退いた。直後に、響き渡る轟音が屋上を叩いた。


「始まりましたね」


 キルゲ・シュタインビルドは拷問室が爆発をしたのを見て笑う。


「拘束解除」


 各地で爆発が起こる。地響きが起こり、そして地下室の辺りから大規模な魔力と霊子の混ざった光の柱がぶち上がる。


「悍ましい、悍ましい、悍ましい。全く、気持ちの悪い存在だ。モンスターというのは」


 大気を震わせる霊圧を撒き散らしながら、それは飛び上がり、ベルンハルト王女のいる騎士団本部へ落下した。


 異形の仮面を被り、長い銀髪を靡かせ、分厚い両手両足を持ち、長い尻尾を振り回しながら周囲に無作為に魔力と霊子が混合した砲撃をまき散らす。


「■■■■■■■■■■!!」

「な、なんだこの化け物は!?」

「総員! 戦闘態勢!! あの化け物を倒すぞ!!」

「危ない!! ベルンハルト王女!!」


 突然のタックルに、息が詰まって咳き込むベルンハルトであったが、その光景を目の当たりにして事情を察した。


 自分たちがいた場所が、抉り取られている。建物の屋上の一区画がごっそりとなくなっていたのだ。

 この攻撃に、歴戦の猛者であるベルンハルトはまったく気付かなかった。

 自分をかばった部下は半身が吹き飛ばされていた。


「くっ、すまない」

「■■■■■■■■■!!」


 怪物の攻撃の威力は見れば分かる。部下が気づかなければ、まずもって助からなかっただろう。


「やってくれる!!」


 ベルンハルトが苛立たしげに、剣を構えた。

 ベルンハルトが睨み付ける先には何も見えない。しかし、気配として、人を超えた知覚力を持つアイリスには、夜闇に潜む怪物の姿が見えているのだろう。


「さっそくぶった切って――――」

「危ない!!」

「なんだ! あ、クソッ!」


 今度もまた部下が気づいた。怪物に気を取られていたベルンハルトは僅かに遅れてそれに気づき、


「なめるな!」


 背後から迫る赤き光を纏った爪を迎撃する。

 ぶつかり合う剣と砲撃を纏う爪。

 激しい火花を散らして、標的から逸れた怪物の砲撃は虚空の彼方に飛んで行く。


 通常、砲撃は放ったが最後、軌道を変えることは不可能だ。それは、いかに常軌を逸した曲者であろうとも変えることのできない原則である。

 しかし、何事にも例外というものは存在する。


 例えば、放たれた砲撃そのものに、敵を狙い続ける必中のプログラムがあれば、その砲撃は、獲物の喉を狙い続ける猟犬となる。

 音速を遥かに超え、王都の夜を切り裂く赤い閃光。

 地に落ちる星のように、一直線にベアトリクスに向かって駆けてくる。

 幾度目かの激突。

 剣と光が触れ合うたびに、周囲には爆弾が破裂したような衝撃が奔っている。を除く部下たちは身を低くしているのが精一杯だ。


「くっ」


 ベアトリクスは舌打ちをして、十合目となる激突をやり過ごした。


 ベアトリクスだけであれば、この状況でも生還は容易い。しかし、問題は部下と住民の存在だ。守るべき者がこれほど近くにいたのでは、ベアトリクスではなく住民を狙われかねない。いかにステータスが際立って高いベアトリクスといえど、この状況下で住民を庇いながら戦い続けるのは、ただ徒に自身を消耗させるだけだと分かっていた。


「何度も同じ手が効くか!」


 ベアトリクスは、全力の魔力放出でブーストした剣戟を、閃光の中央に叩き込んだ。

 攻撃を繰り返すたびに、精度と速度が鈍っているのを見て取って、十二分に引き付けてから、最高の一刀を繰り出した。

 案の定、敵の砲撃は限界に達していた。

 打ち砕かれた砲撃は、床面を砕いて建物を貫通し、その下で爆発した。


「建物一つを爆破して、対人戦のセオリーなら、ここで引いてもいいんだけど」


 ベアトリクスは爆発から離れて、建物の陰に隠れる。

 ベアトリクスは、路地裏からこっそりと大通りを覗いた。深夜の王都に響いた破壊音。しかし、誰一人として表に出てくる様子はない。


「何故、これだけ破壊が起きているのに人がいない? まさか結界か」


 自分たちの存在を探知した結界のほか、市街地戦を考慮に入れた隠蔽魔法までが施設されている。この辺り一帯が全てだ。戦えないのならそれ以外で援護する。優秀な部下を持ったことを誇りに思う。


 怪物は建物の中からでてくる。怪物は周囲を探すようにあたりを見渡している。


「あの怪物は、狙っている。わざと誘っている。私がここから動いた瞬間に一撃入れるつもりか」


 ベアトリクスの戦闘予測は限定的な未来予知に匹敵する。戦場において戦士の予測は馬鹿にできない。


 しかし、そうはいってもベアトリクス王女たちがこの場に残り、怪物とにらみ合いというわけにはいかない。


 となれば、怪物はその気になれば、今すぐにでも建物の陰に潜むベアトリクスを建物ごと吹き飛ばすことができるのだ。足止めを受けている間に、怪物の敵の増援が来る可能性もある。


「……どうする」


 その時だった。一斉に怪物に向かって周囲から攻撃が加えられた。怪物は即座に反応して赤い光を出して反撃する。赤い光が周囲の建物を焼き尽くす。

 それを避けた黒服達が、ベアトリクスの周囲に飛び降りる。


「何者だ?」

「我らはアンダー・ジャスティス。我らの主を救うために、あの女の心臓が必要だ。故に手を貸す」

「あの怪物の正体を知っているのか?」

「……あれはアイリスディーナ王女です」

「アイリスディーナ!? どういうこと!?」

「我が主を救うには、アイリスディーナ王女の心臓が必要だ。一緒に倒してもらう」

「アイリスディーナ……? あれがアイリスディーナ?」


 ベアトリクスは震える声を出しながら怪物の姿を見る。


「ニャルラトホテプ教団に魔力汚染されたようね。私達の呪いと似ている。王女の血だから肉塊ではなく怪物に変化したといったところかしらね」

「お前たち! 何を知っている!? あれがアイリスディーナで、化物になった原因を知っていて、お前たちはその心臓を狙っている!? どういうことだ! なぜだ!」

「……ああなった以上、戻る術はない。残念だけど、貴方は妹を殺すしかないのよ」

「そんな、そんな馬鹿な!!」

「信じられないのも無理もない。貴方はそこで見ていなさいアイリスディーナ王女」

「■■■■■■■!!」


 巨大な爆発が起きた。


「アイリスディーナはモンスターの力が暴走し、ライナー・ホワイトは特殊な技法で手足と目玉を奪い封印した。そしてその封印を解除するにはアンダー・ジャスティスはアイリスディーナを殺して心臓を解除コードとして使う必要がある。ベアトリクス王女はアイリスディーナ王女の怪物化で戦意喪失……さて、どう転びますか。おや」


 窓ガラスが割れて、大きな金髪のエルフが突入してきた。背後からは気配を殺した黒スーツを纏った楽器による魔力斬撃。

 散ったのは血ではなく火花。

 そこに吹き出すはずの鮮血はなく、虚しい鉄の音だけが響き渡った。


 驚愕は誰のものだろうか。

 踏鞴を踏んだエーゼ・ロワンみならず、その様子を見ていたアンダー・ジャスティスの誰もが唖然としてキルゲ・シュタインビルドの姿を見た。


「剣――――だと?」


 必殺を期した剣戟が弾かれた苛立ちが、そのアリエナイ光景に上書きされた。殲滅者が名乗るその手に持つ男には、殲滅者特有の弓ではなく剣が握られていた。


 泰然とした立ち姿には隙がない。

 それが、見せ掛けの剣ではないということを、歴戦の勘が告げている。


「貴方、殲滅者ではないの?」

「貴方には、これが剣に見えますか」

「ということは、それは弓ということ?」


 キルゲ・シュタインビルドは薄く笑う。


「聡明な女性は好ましい。では、皆さん早急に倒させてもらい〼」

「アンダー・ジャスティス総員、攻撃開始」


 剣から青い光が伸びて弓になる。

 エーゼ・ロワン含む全てのアンダー・ジャスティスから無数の魔法が展開される。


「ザンクト・ツヴィンガー・キルヒエンリート」


 光の柱に囲まれた空間を形成、踏み込んだ者は神の光によって切り裂かれる。そして、その空間を自分から広げれば、全方位への攻防一体の全体攻撃となる。

 人も、獣人も、エルフも、魔法も、物理攻撃も、全てが青色の霊子の刃によって切り裂かれる。


「手加減はしました。安心してください。仲間も増えていますね。素晴らしい」

「くっ」

「しかし、謎ですねぇ。どうして私を狙ったんでしょう。答えてくれますか、エーゼさん?」

「あんな悪辣な罠を仕掛けるのはお前達しかいない。ニャルラトホテプ教団は確かに脅威だ。しかし姿を隠す。あんな見せしめのようなやり方はしない。それをするのは、そして我らと明確に敵対するのはお前達狩猟部隊だけだ」

「なるほど。流石だ。狩猟部隊隊長であり、外交官で表に出てきている私を叩く。合理的な答えだ」

「オーオー、可愛い子ちゃんばかりじゃないの。みんな丸焼けだけど大丈夫なのォ〜?」

「アナキン・スカイダイブさん。よくいらっしゃいました」

「久しぶりィ。女の子たちも黒服なんて着てないでみんななオシャレしてデートでもしようぜ? 年頃の女子がみんな黒スーツ着て殺し合いなんて致命的だ」

「デートのお誘いも良いですが、致死量の測定はどうですか?」

「万全だぜ、万全。まぁ、危ないから近づけないケド」

「それは良かった。ゆっくりここで眺めるとしましょう。アイリスディーナ王女とベアトリクス王女の姉妹による悲劇の戦いを」

「全く、悲しい話は苦手なんだけどな。全く致命的だぜ」


 アナキン・スカイダイブとキルゲ・シュタインビルドは高い建物から、怪物化で暴走しているアイリスディーナ王女と、アンダー・ジャスティスのメンバーそしてアイリスディーナ王女の戦いを見物する。


「ふゥ〜、激しい運動は久々だな、カフェオレでも飲んで落ち着こうぜ。飲むかい?」

「おやお、これくらいで激しい運動などと。少しばかり運動不足ではないですかね。頂きます」

異世界侵略部隊隊長キルゲ・シュタインビルトの華麗なる活躍

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