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今、この瞬間。
俺がボールを持ったこの瞬間、
会場が、 世界が、BLTVが、
熱狂の渦に巻き込まれる。
その瞬間が世界で1番大好きだ。
俺は、世界一のストライカーになる男だ。
─ そんな事が夢のまた次になるのに、そう時間はかからなかった。
最近俺は可笑しい。
「 ─ 難聴、ですね 」
「 …へ、 」
「 今まで聞こえていたのが不思議な位です… 」
昔から止まなかった耳鳴りが酷くなって、
音は何時も霞んだ様に聞こえなくて。
「 …サッカーは、出来るんですか、? 」
「 何とも言えませんが、難しくなるかと… 」
俺の人生はここで終わるのかな、
” 俺のゴールで勝つ “ 。
そんな夢も叶わなくなるのかな。
昔、一度 ” 突発性難聴 “ と診断されていた。
それから数年、ほぼ全回復に向かっていた。
…はず。
「 念の為手話教室受講を推奨します 」
「 …分かりました 」
《 雪宮 : 潔君!!大丈夫!?!? 》
《 カイザー : 世一、早く帰って来い 》
《 黒名 : いさぎ、いさぎ 》
《 氷織 : 早よ帰っておいでー 》
《 千切 : 病院行ったってマ?? 》
《 栗夢 : お前が居ねーとつまんねー!! 》
《 國神 : 大丈夫か 》
《 ネス : カイザーが悲しんでます 》
病室から出てスマホを開いた瞬間そんな通知が何十件も目に飛び込んでくる。
嗚呼、いい仲間を持ったな、
そんな気持ちに浸ると共に涙が自然と溢れてくる。
…俺は、こんな最高な仲間達とサッカーが出来なくなるんだろうか。
神様は不公平だと思った。
…同時に、こんな事を考える自分なら不幸が降っても可笑しくないと思った。
「 潔君、大丈夫ですか、? 」
「 ぇ、ぁ、大丈夫ですッ笑 」
「 …まだ聞こえますか、? 」
「 ちょっと、ギリギリ… 」
「 そうですか… 」
俺は、サッカーを辞めるしかないのかな、
…今日、絵心さんにそう伝えよう。
帰りのタクシーの中で、とある夢を見た。
『 きもーw 』
『 帰って来たらコレかよww 』
『 聞こえねぇならさっさとタヒねよw 』
「 ─────!! 」
「 ───く─ッ 」
「 潔君ッ!! 」
「 ぉわッ 」
目の前には半泣きの帝襟さんと、血塗れの俺の手。
「 取り敢えず降りましょうッ 」
何故血塗れなのかも分からずにブルーロック施設内の医療室に入る。
「 …駄目です、傷付けちゃ、ッ 」
俺の手に包帯を巻きながら、そう口にする。
「 … 、すいませ、何て…? 」
「 …!手の事、覚えてませんか、? 」
「 何も、起きたらこうなってて… 」
「 …自分で握ってて、私が気付いたら… 」
「 …あー…そーゆー事か… 」
傷付いた手とは逆の手を見ると、爪辺りに血が滲んでいた。
恐らく魘されてたんだろう、
こんな自分の力が怖くなる。
「 手話は使えます、? 」
「 ちょっとだけなら… 」
「 ぁ、昔も難聴なんでしたっけ、 」
「 そーですね、6歳くらい…? 」
そこで会話が止まる。
と共に俺でも聞こえるデカさの走る足音。
「 世一ッ 」
「 潔ッ!! 」
黒名とカイザーが息を荒げながら入ってくる。
「 大丈夫か!? 」
俺の肩を揺すり、目線を合わせるカイザーと、
俺の横に腰掛けて手当したばかりの手を握る黒名。
…やっぱり、サッカーを辞めるなんて夢のまた夢だな。
そう簡単に辞められないレベルまで、俺は進んでいたんだ。
「 …世一? 」
「 ぇ、 」
するとまた俺の目から涙が溢れていた。
「 痛い? 」
「 ぃや、違くて、ッ 」
「 潔君、言いますか…? 」
ここで言わないと一生言えなくなると思った。
「 …俺からでも、いいですか、 」
「 …それなら出ておきますね 」
そう言って帝襟さんは出ていく。
「 …病気、? 」
黒名の握る強さが少し強くなる。
「 …そんな感じ、笑 」
「 …俺らだけ聞いていいのか? 」
カイザーは相変わらず俺と目線を合わせてしゃがんでいる。
「 んー…大丈夫、カイザー、座れよ 」
と、俺は黒名の反対側を指す。
「 …嗚呼、ありがとう 」
「 …俺さ、昔突発性難聴だったんだよな 」
俺の中で踏ん切りがついたのか、すらすらと言葉が出てくる。
「 …元々五感が人より冴えてて、 」
「 色々聞こえるストレスとか、そーゆーので 」
今顔を見たら、泣いて話せない気がした。
だから俺は真っ直ぐ前を向く。
「 ほぼ治ってたんだけど、今度はちゃんと難聴になってるらし、ぃ、 」
「 …味方、味方。 」
黒名は真剣な眼差しで俺を見ていた。
「 …クソ頑張ったな、お疲れ様 」
カイザーは優しく微笑んで撫でてくれた。
何を言ってるかは分かんないけど、優しい言葉ってのは確かだと思う。
「 ごめ、ッ 」
「 今は泣いとけ、世一 」
…今の心情を一言で表せって言われたら、
” 怖い “ 。 でも、” 嬉しい “ 。
俺の事をこんなに想ってくれる人が居るんだ、と嬉しい気持ちと共に、耳が聞こえなくなる怖さに少し怯えている。
昔はまだ幼かったからか、あまり気にならなかったけど、
ほぼ大人に近付いた今、人の思っている事がなんとなく分かる今、物凄く怖い。
俺の声も聞こえなくなる訳だから、ちゃんと話せているか、ちゃんと言葉を作れているのか、そんな不安さえ煽る。
「 ッ、こわ、ぃ… 」
「 …大丈夫大丈夫、 」
黒名は相変わらず握る強さがちょっと強くて、
カイザーは俺の頭を撫で続けてくれた。
「 …今は聞こえるのか? 」
「 …大きい音なら、ギリギリ… 」
「 無理に話さなくても、聞かなくても、分からなくても大丈夫だぞっ! 」
少し大きい声で聞こえてくる、元気で強い声。
栗夢が腕を組んで仁王立ちで立っている。
「 ぉ”い栗夢ッ!!黙れ”ッ!! 」
いつも通り怒っている雷市。
「 ごめん、皆居るんだ 」
へら、と苦笑する雪宮の後ろには、ドイツ組の皆が立っていた。
「 へ、皆、? 」
「 …着いてきた、ごめん 」
と、國神が口にする。
「 いいよ、俺こそごめん…こんな ─ 」
「 謝らんでいいで、勝手に来たの僕らやし 」
「 …もうすぐ絵心さんも来るってさ 」
皆は優しい。
こんな事になった俺ともちゃんと話してくれる。
優しい言葉を俺にくれる。
もう直ぐ聞こえなくなるこの優しい声を、暖かい声の温度を、全てを刻み込む様に耳を傾ける。
そこへ絵心さんが入ってくる。
「 ぁー、潔世一、1ヶ月の休養期間を取れ 」
「 1か月も、!? 」
「 …無理しない事を覚えたら早まるかもな 」
「 えぇ… 」
「 休養も大事やで、潔君、待っとるから 」
「 ……今更見捨てたりしねぇよ 」
「 …ぁりがとう、ッ 」
…やっぱり皆は優しい。
サッカーは1人でやるスポーツだ。
でも時に皆で、11人でやるスポーツだと知った。
─── それから3週間。
俺は休養期間中与えられた個人部屋で手話を練習していた。
「 …ぁりぁと、 」
俺は前より耳が聞こえなくなって、
人前では全然話さなくなった。
「 潔世一、大丈夫か? 」
「 …? 」
「 …大丈夫そうだな、 」
「 明日からの練習参加を許可する ( 筆記 」
最初と最後なんて言ったのか分かんないけど、やっと練習に参加出来るんだ。
───次の日
手話で話す事はほぼ無いだろうから、ノートとシャーペンを持っていく。
部屋に篭りきりだった俺が、久しぶりにブルーロック施設内を歩く。
異様に広く感じた。
すると、目の前に見覚えのあるドイツ組寮の扉。
「 すー、ッ…はー…ッ 」
一旦深呼吸をして、扉を開く。
「 ぁ、潔君!早よなったん? 」
「 お前が居ねぇとつまんねーッ! 」
「 潔、潔 ( 手招 」
何を言ってるか分からないけど、取り敢えず手招きされた黒名の方へ行ってみる。
「 今は、聞こえ、る、っと 」
俺がノートを持っているのを見て察してくれたのか、すらすらと書いてくれる。
” 今は聞こえるのか? “
と書かれた右下に、俺も書き込む。
” あんまり “
” そーかそーか、他に話す方法あるのか? “
” 筆記、スマホ、手話とか “
” ふーん “
と、黒名の後ろには皆が居た。
「 じゃ、俺スマホにしよーッ! 」
《 栗夢 : 俺スマホで話すわ! 》
「 …ぁ、帝王、 」
雪宮の目線の先には、うぃーん、と開く扉と、怖い顔色のカイザー。
「 …ぇ、 」
「 !?あの人使えたん、!? 」
カイザーはそのまま手を振り上げて ──── …
コメント
2件
みんな優しすぎて泣いちゃう(泣) 最後カイザー叩いたりしないよね!!?