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「アウレーリア、話があるからこっちに来なさい」
お母さんの存在を忘れてた。
怒りモードのお母さんを忘れるなんて失敗だね……。
「座りなさい」
「うん」
……あれ? いつもの怒りモードとちょっと違う?
「アウレーリア。民兵はどういう職業か理解したうえで決めたのよね?」
「うん。バイトもしてるし大体は知ってるよ」
民兵組織のバイトはいつもしてるし、大体は知ってるつもりだ。……あれの延長線だよね?
「民兵組織ってね、その規模によってやってることが全然違うのよ」
「へ?」
「あんたがいつもバイトをしてるのは、近所の小さい組織ばかり。仕事のほとんどが日常の範囲内よ。そして、子供に回されるのはその中でも楽な仕事」
子供に回されるのは楽な仕事、それは知ってる。
……でも、日常の範囲内? どういうこと?
「あんたが知ってる民兵の仕事に戦闘はあった?」「ないよ」
……でも街中を警備してるし、そう言った中で強さとか必要なんだよね、きっと。このあいだの強盗事件とか、強くないと対処出来ないもん。
「あんたが働こうとしてるレクルシアは有名な組織でね……。大小様々な雑用も多くやってるけど、危険な仕事も多く引き受けてるの」
「危険な仕事?」
「そう。街中の警備は危険な仕事の中でも一番楽な部類よ。一番危険な仕事は資源採集。領軍と一緒に魔石とかを採集する仕事よ」
「魔石の採集? それって危険なことなの?」
……魔石って、あの魔石の事だよね? 送風機とかに入ってるやつ。危険なの?
魔石は領政府が採集、管理してる。それは知ってる。でも、採集場所やその方法は授業では習ってないし、お母さんも教えてくれなかった。「あんたには関係ないことよ」とか言って。
「危険だから絶対に近寄らない様にと言ってる場所があるわね」
「うん」
危ないから近寄ったらダメな場所。危険な動物が沢山いて危ないからって。
……もしかして、あそこが採集場所?
「あそこが採集場所よ。とても危険な場所」
「そうなんだ」
「民兵達が沢山死んでるところよ」
「ほえ?」
……え? 死んでる? 沢山?
「正確に言うなら、腕試しとかで勝手に入った民兵ね」
腕試しって……。勝手に危ないところに入ったらダメだよね。
「そういう人達ってね、みんな強いのよ。絶対の自信があるから勝手に入る」
……自信過剰は怖いね。わたしなら絶対にそんなことはしない。
「お母さんの同級生にもそんな馬鹿がいてね……勝手に入って死んじゃったの」
「へ?」
「その人はすごく強かった。学校では一番強かったの。就職先も大きな民兵組織だったわ」
学校で一番強い人? 大きな民兵組織に入れる人が……死んじゃう?
「大きな民兵組織に入って、順調に出世して……同窓会ではいつもそれを自慢してた。何度も領軍の資源採集に同行して、いつも無事に帰ってきて……だから勘違いしちゃったのね。自分は強い、自分達だけでも大丈夫って……」
何かモヤモヤする……。何だろう?
「あ母さんはね、民兵になることは止めないわ。あんたが初めて将来のことを真剣に考えたんだから、お母さんはそれを応援する。組織のお偉いさんが来るなんて相当なことだと思うから、あんたは有望なんだと思う。でもね、忘れないで。アウレーリアは弱いわ。一人じゃ何もできない。馬鹿でドジばっかりでさっちゃんに迷惑を掛けてばかりの駄目な子。いい、絶対に無茶なことはしないこと、わかった?」
……これって、心配、されてる? お母さんがわたしを心配する? 初めてのことじゃないかな、怒られた経験しかないよ。
……お母さんがわたしを心配する……。民兵になるってよっぽどのことなのかな? 心配かけないようにちゃんと言っておこう……。
「無理はしないよ。わたしの夢はさっちゃんと一緒にいることだもん。さっちゃんに危ない事はしてほしくないし、巻き込みたくもない」
「わかってればいいの。さっちゃんを大切に思ってるなら自分を大切にしなさい。あんたに何かあったらさっちゃんが悲しむからね」
「うん」
わたしの夢はさっちゃんと一緒にいること。
わたしはさっちゃんが大切。さっちゃんがわたしを大切だと思ってくれるなら、わたしは自分を大切にする。さっちゃんの幸せはわたしの幸せだから。
「じゃあ話はこれでおしまい、ご飯にしましょう。食べてきてないわよね」
「うん」
……なんか拍子抜けしたな。
てっきり怒られると思ってたから、身構えていたけど損したよ。まさか、お母さんに心配されるとは……あした世界が滅びるんじゃない?
「今日はシチューを作ってあるから、今温めるわね」「うん」
ご飯の温めかー、あの機械って火魔石を使うんだよね。……魔石、もったいなくない? 命がけの採集なんだよね?
……魔術を使えば魔石代を節約できるんじゃないの?
「お母さん、これで温められない? 焔〈ホムラ〉」「この馬鹿! 室内でそんな物騒な魔術なんか使うんじゃないの!!」
お説教が始まってしまった……。